ジャガーXKコンバーチブル(FR/6AT)【試乗記】
ソフトでスイートなスポーツカー 2006.09.01 試乗記 ジャガーXKコンバーチブル(FR/6AT) ……1280.0万円 「XK」シリーズの最新モデルは、エレガントさに磨きをかけつつも、軽量アルミモノコックボディを得るなどジャガースポーツカーの血統を受け継ぐ進化を果たしたという。ドイツ車とは異なる、スポーティネスはどこにあるのか?まずは控えめ、エレガントに
ルナー・グレイという、いま、世界的にはやっているシックな色をまとって目の前に登場した「XKコンバーチブル」を見た瞬間、先代よりも格段に洗練されて粋になったと感じた。そして乗ってみてもそれが、このクルマの一番大きな価値だった。
ヘッドライトなどの細部意匠が人の心理に与える印象は強いから、新型XKに何となくなじめないという人は、特に古くからのジャガーファンにいると思う。でもじっくり見ると、XKジャガーの伝統をきちんと受け継ぎつつ、現代のハイテク感覚をもミックスしたそのルックスは、やはりジャガー特有のデザイン世界を演出している。特にサイズ的に余裕が出たことが、全体にエレガントな感覚を与えているが、その分、ダイナミズムは多少弱められているかもしれない。
そして乗ってもまさに、その外観の印象通りだった。新型XKは、現代のグランツーリスモにふさわしい洗練性と時代性を強くアピールしている反面、ジャガースポーツが代々持っていた野生動物的な荒々しさは、多少控えたクルマだった。
実はこれはジャガーの狙いどおりなのである。まず第一弾は、比較的上品なイメージを打ち出したモデルで新しい世界を訴え、次第にジャガー本来の野性味も持ったモデルも加えていくというのが彼らの計画である。実際、7月末のロンドンショーでは、これにスーパーチャージャーをつけ、足まわりを強化したXKRをいちはやく追加したが、それだけではない。噂によれば、Rよりさらにホットなモデルも開発中であるという。世間では「XKR-R」などと言われているこのモデル、アストンマーチンと同じ6リッターという説もあるし、独自に開発した5リッタークラスのユニットが載せられるなどという噂も聞かれる。
どうであれ、荒々しい英国のスポーツカーが欲しい人には、それなりのジャガーはちゃんと用意されている。だからまずはエレガントなモデルで新しいXKの世界を味わっていただきたいということなのだろう。
五官を通じて感じる剛性感
走り出して一番感心したのがボディの作りの良さである。より正確には高い剛性感だ。コンバーチブルにもかかわらず、文字通りシェル、つまり硬い殻に覆われたような感覚はドアを開けた瞬間に感じられるし、走り始めたならシート、ステアリング、音、振動など様々な情報回路を通してボディの頑強さが伝わってくる。現行「XJ」以来培われてきたアルミボディの構成や製造法のテクノロジーが進化したことによって、新型XKはクーペで31%、このコンバーチブルでは48%もねじり剛性が高められているというが、それはそのまま肌で体感できるほどであった。
特にコンバーチブルの場合、分厚く仕上げのいい幌の内張りのためもあって、あたかもクローズドボディに乗っているかのような気持ちを得られるのがいい。リアクォーターのブラインド部分が広いことを除けば、一瞬フィクストヘッドクーペに乗っていると錯覚するほど、がっしりと守られているように感じる。唯一ファブリックルーフであることを思い出すのは、トンネル内などで屋根からの音が侵入するときぐらいで、それ以外は乗り心地も上質だし、ロードノイズも見事に遮断される。
もちろんその幌はわずか18秒でフルオープンになるし、その場合も風はそれほど荒々しくは巻き込まない。
依然として残るオールドワールドの魅力
304psを発する4.2のV8ユニットもまた、年々洗練されてきているが、やはりその魅力はトルクの巧みな演出にある。常用域の3000rpm近辺でもトルクの山を感じさせた後、レブを高めるに従ってパワーとともにまた一段と力強くトルクが下支えするさまは、まさに大型スポーツカーエンジンの魅力を体現している。さらに今回採用されたパドルシフトを駆使するなら、6段ATはドライバーの意思を明瞭に察して反応する。
たしかに軽量化されたボディゆえに、加速もまた鋭くなったが、その反面でエンジンの洗練化ゆえに全般的にスムーズかつ静かになったために、ピュアスポーツカーというよりはグランドツーリングカーとしてのドライビング感覚がより強まっている。これも前述のようにジャガーの意図的な味付けだろう。本格的なスポーツカーとしての能力は充分以上に盛り込みつつ、それをよりソフトかつスイートな形で伝えようというのが狙いであることが理解された。
ひと走りした後、自宅のカーパークに収めて上から眺めた。ちょっと高い位置から斜め下に見るXKコンバーチブルのルックスはとても魅力的だった。クールなグレーのボディにブレンドする黒いファブリックトップ、そして薄いサイドグラス越しに伺える明るい基調の室内(テスト車はオフホワイト系シートを備えたコンテンポラリーなる仕様だった)との組み合わせが、とても優美に見えた。そこにはドイツのスポーツカーとはまったく違った、オールドワールド的な味わいが色濃く残っていた。
(文=大川悠/写真=高橋信宏/2006年9月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。