第1回:大丈夫か? “どアメリカン”なNASCARにトヨタが挑戦(桃田健史)
2006.07.19 アメ車に明日はあるのか?第1回:大丈夫か? “どアメリカン”なNASCARにトヨタが挑戦
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フォードの不振、GMの悪いウワサなど、あまり芳しくない話が耳に入ってくるアメリカの自動車業界。日本でも「アメ車」を見かけることは少なくなっているが、どうやら世界的に見てもその傾向はあるようだ。さらにお膝元でさえも!
アメリカの自動車産業、そしてアメ車はどうなっていくのか? テキサス在住の自動車ジャーナリスト桃田健史が、さまざまな視点から検証する。
第1回は、米国モータースポーツシーンに注目した。インディをしのぐ人気のNASCARに、2007年からトヨタが参入。日本企業の襲来に、10万人の観客はバドワイザーの缶を投げつけるのか!?
■“どアメリカン”なスポーツ、NASCAR
NASCARをご存知だろうか。フォード、ダッジ、シボレーなどが参戦する米国のストックカーレースである。2月から11月のレースシーズン中、ほぼ毎週のように全米各地で様々なカテゴリーを開催している巨大組織だ。
その事業規模はフォーミュラレースのインディカーとは桁違い。F1に匹敵するか、もはやF1以上かもしれない。NBA、NFL、MLB、PGAと同格の一大スポーツエンターテイメントなのだ。
NASCARの魅力は“どアメリカン”なところなのだが、その最高峰カテゴリーであるネクステルカップに、2007年日本のメーカー、トヨタが参戦する。
すでにトヨタはNASCARトラックレースに参戦しているとはいえ、今度はトップカテゴリーである。本当に大丈夫か? 「ジャップ出て行け!」だのと、バドワイザーの缶が観客席から飛んでこないか? その実態は……。
話は遡って1990年代の中頃、私はNASCAR参戦のためノースキャロライナ州シャーロットで暮らしていた。NASCARの本部、ISC(International Speedway Corporation)はフロリダ州デイトナビーチにある。だが、NASCARのトップチーム、ドライバー、エージェント、TVプロダクション、マーチャンダイジング(Tシャツなどの企画販売業)のほとんどは、シャーロット周辺に点在しているのだ。
ストックカーレースの発祥がテネシー、ノースキャロライナ周辺であること、また、米東海岸の縦の線、ニューヨークとマイアミのほぼ中間に位置するシャーロットはロジスティック(物流/移動)の面で便利なのがその理由だ。
シャーロットでは当時、日本人は物珍しがられた。私にとっても、フライド・オクラ(オクラのから揚げ)を筆頭とする南部料理の味が舌に堪えた。そうしたNASCARにどっぶりつかる生活が続くなか、当時のトップカテゴリー、ウインストンカップをはじめ、ウィークデー開催のローカルレースなど様々なレースを見て、自らも走った。南部のブルーカラーたちがうごめく“どアメリカン”の真ん中で、武者修行が続いた。
■お調子者で、現実主義者のアメリカ人
そんな90年代半ばから、NASCARはビジネスとして急成長を遂げた。
“南部のローテクマシンレース”はあっという間にインディカーたちを追い越した。その背景には当然、米ビッグ3による巨額の資金投入がある。それはマシン開発費用ではなく(実際マシン製作費用はF1と比較すればごくわずか)、テレビを軸とする広告宣伝費であった。
時は現在に移り、GM、フォードは緊縮財政がMUSTな時期。ダイムラークライスラーも屋台骨をしっかりさせたい時期である。一般論として企業経営者たちは「レース=無駄な出費」と考える。となると、NASCARが、これまでの“米ビッグ3一本槍路線”から軌道修正しようとするのも無理はない。
NASCAR社長も創業者の3世代目だ。たとえ異国の企業(トヨタ)が参入しようとしても、突っぱねるようなことはしない柔軟性を持っている。また、米南部を中心とするNASCARファンたちも、実は日本車に対して友好的だ。それはけっして、在りし日の日本車が引き起こした経済摩擦時とファンの世代が変わったからではない。米西海岸から全米に徐々に広がってきた日本企業による“啓蒙運動”の賜物だ。
アメリカ人は「質が良くて、適正価格の商品。そして、それを裏付けるような安心できる(=頻度の多い)宣伝広告」があれば、簡単に過去体験を捨ててしまう。“どアメリカン”が日本車を歓迎するというNASCARの変貌は、実にアメリカらしい現象なのである。
よくアメリカ人は「Money talks.(地獄の沙汰も金次第)」と言う。これをNASCARにあてはめてみると「金払いが悪くなったらGMだろうがフォードだろうが、即お払い箱」という意味だ。
「トヨタがネクステルカップに来るって? ノー・プロブレムさ」と、アメリカ人たちは笑顔一杯。アメリカ人は総じて、お調子者だ。つまり、徹底した現実主義者なのだ。
(文=桃田健史(IPN)/2006年7月)

桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
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第9回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(後編) 2006.12.29 ■古い設計でも十分と考えるフォードGMに続き、フォードの試乗エリアに来てみると、ウェイティングの人があとを絶たない。そう、皆、「シェルビーGT500」(5.4リッターV8、500ps)にどうしても乗りたいのだ。それほど“シェルビー効果”は、典型的なアメリカ人に有効なのだ。その乗り味を一言で表現すると「意外と、普通」。エンジンONでV8がドロドロすることもないし、低速走行でサスがガシガシ、ゴツゴツもしない。「なんだか拍子抜けしちゃう」ほど、普段のドライブに向いている。アクセル全開で、イートン製ルーツ式3枚歯スーパーチャージャーが「ウギュワァーン!」と叫ぶ。だが、遮音性が意外と高く、うるさいと思う音量・音質ではない。直線でフルスロットル。リアサスがじーんわりと沈みこみ、ズッシーンと加速する。コーナーに進入。トラクションコントロールをONにしたまま、この手のクルマとしては中程度の重さとなるパワステを切る。ステアリングを切ったぶんだけクルマ全体が曲がるような安心感があるのだが、ステアリングギア比が意外とスローで、結構な角度まで切りたす必要があった。ロール量は、乗り心地と比例して大きいが、「この先、どっかにブッ飛っンでいっちゃうのか!?」というような不安はない。ちなみにトラクションコントロールOFFで同じコーナーを攻めてみると、意外や意外、コントローラブルだった。このボディスタイルからすると、スナップオーバー(いきなりグワーンとリアが振り回される現象)を想像してしまうのだが……。日系自動車メーカー開発者たちはよく「こんな古い基本設計のリアサスでいいのか?」といっている。しかし、シェルビーGT500の目指す「大パワーを万人向きに楽しく&乗りやすく」は、十分満たされている。なお、系統は違うが、期待のミドサイズSUV「エッジ」でも同様に、マイルド系ズッシリ乗り味は表現されていた。
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第8回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(前編) 2006.12.28 毎年恒例、米国メディア団体のMPG(Motor Press Guild)主催のトラックデー。日米欧韓各自動車メーカーが最新型車両を持ち込み、サーキットと一般路で走行体験をさせてくれるビッグイベントだ。今回集まったのはおよそ130台。アメ車たちは他国モデルのなかに埋もれず、個性を出していたのだろうか?■アメ車の個性をハイパフォーマンスモデルで試す皆さんはこんなことを思ったことはないだろうか。「クルマの技術って、メーカーによってそんなに違いがあるの? どのメーカーだって、最新コンピュータ技術を導入しているし、生産技術は上がっているし、他社関連の情報だってウェブ上に溢れかえっている。だいたい、比較車両としてどのメーカーも競合車は購入してバラバラにして詳細解析しているのだから、同じ価格帯のクルマならどこのメーカーも似たようなクルマになるでしょ……」確かに一理ある。ところが、現実には各社モデルには技術的な差がある。その差を背景として、各車の“味”も変わってくる。特に、乗り味、走り味の差は大きい。その原因は、購買コスト&製造コストとの兼ね合い、開発責任者のこだわりやエゴ、実験担当部署の重鎮との社内的なしがらみ、開発担当役員の“鶴の一声”……など様々だ。ではそうした差は、アメ車と日欧韓車、いかに違うのか。今回の「トラックデー」で、約50台のステアリングホイールを握ったが、そのなかでも各社が力を入れ、アメ車の色が濃く出ているハイパフォーマンスモデルに絞って、乗り味、走り味を比較してみたい。場所はウイロースプリングス・ロングコース(1周約3km)。ここでは200km/hオーバーの高速コーナリングから、ハードブレーキングまでチェックできるほか、近場の一般道でも乗り心地などを試すことができる。
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第7回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(後編)(桃田健史) 2006.11.15 ■会場はレトロな雰囲気スターがいない。これが、今年のSEMAショー全体を見ての率直な感想だ。SEMAショーではここ数年、「ハマーH2」「クライスラー300C」や、ホンダ系プライベーター主導のジャパニーズ暴走族、などアメリカの社会背景を映し出してきたクルマたちが華やいでいた。だが今回は、次世代のスターの姿が全く見えてこなかった。毎年キャッチコピーや『Car/Truck of the Show』というテーマを祭り上げて、ショー全体の雰囲気作りを行っているSEMAショーの今年のテーマは『American Musclecar』。会場正面玄関には歴代の「フォード・マスタング」「ダッジ・チャージャー/チャレンジャー」「シボレー・カマロ/コルベット」など、V8ドロドロなアメリカン魂たちがレッドカーペットの上で整然と構えていた。ということで、会場内のあちこちにも60年代のレトロな雰囲気が蔓延していた。アメリカングラフィティ世代の初老のカーファンたちは「いやー、昔のアメリカはほんと、楽しかったわいなぁ……」とノンビリとした足取り。
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