オペル・ヴィータスポーツ(5MT-オートマチックモード付)【試乗記】
サーフィンやスノーボードのよう 2003.02.07 試乗記 オペル・ヴィータスポーツ(5MT-オートマチックモード付) ……169.5万円 「ドライビングは知的なスポーツだ」とカタログで謳う「オペル・ヴィータ スポーツ」。オートマチックモードをもち、必要とあらばシーケンシャルシフトを楽しめるブリッツマークの末弟に、自動車専門誌『NAVI』の副編集長、佐藤健が乗った。
![]() |
![]() |
一粒で二度オイシイ
このクラスのヨーロッパ車に試乗するときには、いつも気合いが入る。日本でも「トヨタ・ヴィッツ」「ホンダ・フィット」「日産マーチ」などコンパクトカーの支持が高まりつつあるけれど、ヨーロッパでは昔から「Bセグメント」と呼ばれる小型車クラスが大激戦区なのだ。ヨーロッパ全体で見ると乗用車の3割以上、イタリア、スペインなどの南欧では実に4割以上を“Bセグ”が占めている。
つまり、欧州各メーカーの屋台骨を支えるのが、今回試乗した「オペル・ヴィータ」が属するクラスである。他メーカーをブッちぎってやろうという並々ならぬ意気込みでつくられていることは想像に難くない。だから欧州小型車に乗るときには、いつも以上に気を引き締める。
ステアリングホイールを握ったヴィータは、“ スポーツ”のサブネームが与えられ、「Easytronic」と呼ばれる2ペダル式マニュアルを搭載したモデル。「良-低排出ガス車」認定を受けると同時に、「2010年燃費基準」をパスした1.2リッター「ECOTEC」ユニットを積む日本での最廉価版(169.5万円)である。
結論から書くと、ヴィータ・スポーツはできのよい小型車というだけでなく、一粒で二度オイシイという、ライバルにはない長所をもっていた。
![]() |
![]() |
![]() |
ドライバーを心地よくする
「ブリーズブルー」という名称を与えられたボディカラーは、東京の春の空みたいにちょっとくすんだ青。シックないい色だと思ったのは、“小型車ならではのファニーな雰囲気”と“引き締まったカタマリ感”を兼ね備えたヴィータのエクステリアに好感をもったせいかもしれない。
乗り込んで目をひくのが、マットなシルバーのお化粧を施したセンターパネルと、白い盤面のメーター類。些細なことではあるけれど、新しさを醸そうという努力が報われている。
スポーツに組み合わされるトランスミッションは「イージートロニック」のみ。これは5段MTをベースに、オートマチックモードが与えられた、つまり、オートマチック車の安楽さとマニュアル車の楽しさを、一粒で二度味わおうという機構である。クラッチペダルはないから、AT限定免許で運転することができる。
これがなかなか使い勝手のよいものだった。オートマチックモードにしておけば、通常のATと同じようにギアチェンジを意識せずに運転することもできる。また、シフトレバーを左のゲートに入れ、MTモードにすると積極的にシフトしながらのドライブが楽しめる。個人的には、MTモードのほうがヴィータの小気味よい走りを引き出せるように感じた。シフトアップ、シフトダウンともに、期待以上に素早いし、そのときのショックも小さい。熟練したドライバーのようなシフトを誰でも行うことができる。
1.2リッター直4エンジンは、75psという最高出力から想像するより、はるかに活発だ。その要因としては、低い回転域から有効なトルクを発生するエンジン特性があげられる。たとえば、信号待ちからの発進で歯がゆい思いをすることはないし、混雑した市街地で緩やかな加速と減速の繰り返すような場面に遭遇しても、何ら不満はない。アクセルペダルの操作に対するエンジンの反応も良好だ。
トルクだけでなく、滑らかな回転フィールにも触れておくべきだろう。リミットの6500rpmまで引っ張ると、エンジン音は相応に高まるものの、スムーズなフィールは失われない。低回転から高回転まで、どこでも美味しい。バカッ速くはないけれど、ドライバーを心地よくする術に長けたエンジンだ。
![]() |
エンジョイできる
乗り心地に関して、初めて欧州車に乗るかたは「硬い」と感じるかもしれない。けれど、長い距離を長い時間ドライブし、様々なシチュエーションで接すると、この乗り味が頼もしさに変化する。
まず、高速道路ではふわふわしない、小柄なサイズに似合わないしっかり感が頼もしい。曲がりくねった山道では、行くべき方向にしっかりと進路をとることができる安心感がある。とはいっても、けっして鈍重なわけではなく、キビキビとした敏捷な動きも兼ね備える。“頼もしさ”と“楽しさ”。ココでも一粒で二度オイシイ。
試乗する前から気になっていたのが、なぜ「スポーツ」というグレードを一番小さなエンジンを積む最廉価版に設定したのか、ということだ。国産車なら、最高性能バージョンのグレードが「スポーツ」だろう。
けれど、試乗を終えて考えを改めた。スポーツというと、ついつい他者と競争することをイメージしてしまう。けれど、ヴィータの“スポーツ”はそうじゃない。休日に楽しむサーフィンやスノーボードのように、誰かと競わなくてもエンジョイできる種類のスポーツなのだった。
(文=NAVI佐藤健/写真=清水健太/2003年1月)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。