アルファロメオGTV 3.0V6 24V(6MT)【試乗記】
バリトン馬鹿 2002.04.16 試乗記 アルファロメオGTV 3.0V6 24V(6MT) ……465.0万円 デビューは1994年のパリサロンにさかのぼり、直近のマイナーチェンジが1998年のアルファロメオ「GTV」。いよいよモデル末期とささやかれる3リッターV6搭載のスポートクーペに、webCG記者が乗った。アルファロメオのエラさ
アルファ「GTV」に乗った。「いまのうちに乗っておかねば」という専門誌エディターの貧乏性からである。2002年2月に開催された3.2リッターV6搭載のアルファロメオ「156GTA」の試乗会で、本国のエンジニア氏から、エミッション低減の波に押され、1970年代末のサルーン「セイ(6)」以来のアルファV6もそろそろ終わり、と聞いたのだ。
GTVは、いうまでもなく1994年のパリサロンでデビューしたスポートクーペ。ショーモデル「プロテオ」の流れをくむプロジェクター式丸目4灯のフェイスをもち、2つのマス(塊)が上下斜めに組み合わさったボディスタイルは、8年が経ったいまも力強く魅力的だ。1998年9月にマイナーチェンジを受けて、右ハンドル、6段MTが標準仕様とされ、アルミホイールが新意匠となり、またリアウィングが装着された。
テスト車は、黒のボディペイントに赤内装の、“大人のワル”仕様。運転席からの視界の底が赤いのは、ドライバーが興奮しているからではなく、ダッシュパネルの色がフロントスクリーンに反射しているためである。
厚い革、ぎっしり詰まったクッションの反発が強い立派なイスに座ると、天井が低いので、いきおいシートバックは倒し気味になる。かつてのイタリア車なら、「ストレートアーム」もしくは「イタリアンカーのテナガザル」といった単語を思い出させるところだが、幸い、GTVのステアリングホイールにはチルト(上下)もテレスコピック(前後)機構も付いている。最初の違和感を、運転しているうちに“慣れ”で包み込むことが可能だ。もちろん、もうちょっとシートポジションが低いにこしたことはないが、販売台数が限られるクーペモデルには、なかなか専用シートを与えられないのだろう。
余談だが、骨格はともかく、アルファのクーペに装備されるシートが大変贅沢なものだと知ったのは、「トヨタ・プレミオ/アリオン」の試乗会に参加したときだった。GTVのシートは、座面左右に長方体状のブロックがサイドサポートとして縫いつけられ、背もたれには中央部に別体のクッションが埋め込まれる。全体に立体的な造形となる。一方、大衆車たるプレミオ/アリオンはシート座面の縫製を「深吊り化」し、普通ならペラッと平板な座面になるところ、左右に折り目をつくって表情を出すことに成功したという。涙ぐましい努力である。
アルファロメオは、高級車に当たり前のように手間をかけているところがエライ。もっとも、それを知識として得てはじめて「ありがたみ」がわかるのが薄給エディターの哀しさで、それまでは「隙間にゴミがたまって困る」としか思っていなかった。
痺れさせ、励ます
日産が一世代前のV6エンジン「VG」型をつくるときに参考にしたとウワサされたアルファV6。現役「VQ」エンジンの開発に参加したエンジニアと話したときに、「今回はアルファの6気筒は研究しなかったんですか」と聞くと、「あれは古くて」とにべもなかった。
「あれは古い」エンジンは、しかし依然として第一級の実力をもち、アルファGTVのパワーソースは、オリジナル2492ccを2958ccまで拡大、93.0×72.6mmのボア×ストロークから220ps/6300rpmの最高出力と27.5kgm/5000rpmの最大トルクを発生する。スペック上はいまどき珍しい高回転型ユニットだが、そもそものキャパシティがあるので、2000rpmも回しておけば1240kgのボディをいつでも加速できる厚いトルクをもつ。いざスロットルペダルを踏み込めば、豊かなバリトンで朗々と歌いあげながら、彫りの深いボディをグイグイひっぱる。
どこで読んだか忘れたが、音楽家仲間の間では「バリトン馬鹿」という言葉があるんだそうだ。バリトンの声域は頭蓋骨のなかでよく響くから、歌っている本人が気持ちよくなるという……。ホント、GTVをドライブしていると、運転している本人が気持ちよくなっちゃうんだな。
ギアボックスには6段マニュアルが奢られる。100km/hでの回転数は2500rpm前後だから、コンベンショナルな5段にオーバードライブを足しただけではない。アルファの他モデルが備える5スピードと比較すると、GTVの6MTは、ロウとセカンドがわずかに高く、5速を低くしたうえでトップを追加している。つまり、手が込んだクロースレシオなのだ。
球形で大きめのシフトノブを「グワシ!」と握り、7000rpmまでフルスケール回して、2速、3速とシフトアップしていくと、タコメーターの針は常に最大トルク発生回転数付近に落ち、残す2000rpmで余すことなくパワーを絞り出す。痛快な加速がアタマを痺れさせる。一方、ギアを落とすと「フォン!」と歌って、ドライバーのココロを励ましてくれる。
加速系は文句ないが……
足まわりはスポーティにしまっていて、よく路面の凹凸を拾うが、イタリア車として望外に高いボディ剛性の恩恵か、意外と気にならない。気になるのは、空気を切り裂く“ウェッジシェイプ”スタイルをとりながら、Bピラーの後ろあたりから常に聞こえる風切り音である。
ハンドリングは秀逸で、重いV6をノーズに積んだFF(前輪駆動)車とはちょっと思えない、軽く、素直な動きを見せる。ステアリングホイールを回すのが楽しいタイプだ。GTVのリアサスペンションには、ベースモデルたる「フィアット・ティーポ」のトレーリングアームはあっさり捨てられ、マルチリンク式が採用された。かさばるアーム類ゆえ、ラゲッジルームの容量もばっさり削られた。後発のサルーン「156」が、実用性とのバランス上、後足にストラットを採ったのと対照的だ。
快刀乱麻を断つごとき“快クーペ”のGTVだが、ドライバーが頑張りすぎる、もしくはコーナーで追い込んでいくと、FF車としての顔を出すことがある。つまりアンダーステアを露呈するけれど、一般に、クルマもネズミも追いつめるとロクなことはない。
注意することがふたつある。ひとつは、細身の靴を履くこと。右ハンドル化の弊害か、GTVはクラッチペダルとセンタートンネルの隙間が狭いから、ドタ靴をフットレストにのさばらせておく余裕はない。
もうひとつは、GTVが“速いクルマ”だということだ。文句なしの加速系と比較して、ブレーキ関係の補器類は左側に残ったままだから、制動系のフィールはいまひとつ。もちろん、ちゃんときくけれど、そのとき乗り手のブレーキがフェードしていたりすると、チョットアブナイ。
(文=webCGアオキ/写真=清水健太/2002年3月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。