メルセデス・ベンツCLK63 AMG(FR/7AT)/ML63 AMG(4WD/7AT)【海外試乗記(前編)】
未来のAMGを磨く新ユニット(前編) 2006.05.10 試乗記 メルセデス・ベンツCLK63 AMG(FR/7AT)/ML63 AMG(4WD/7AT) AMGのエンジンは、1から10まで職人が手で組み立てるが、ユニットそのものは、ベンツのそれをベースに開発されてきた。しかし今回、すべてAMGの手で作られたという6.2リッターV8が登場した。「100%AMG製」に隠された秘密とは……。エンジン極限のワケはトランスミッションにあり
100%AMGの開発による初めてのエンジン――プレスリリースにそんなコメントで紹介されるのが、このほど登場のAMG製新V型8気筒自然吸気ユニットである。「既存の6リッターユニット以上に大きな低回転トルクを手に入れるとともに、現在の各メルセデス・ベンツ車への搭載性や耐久性という面も考えて」という理由から6.2リッターという排気量と8気筒のシリンダー数が決定された。「高回転・高出力型の特性を実現させるため」にボア×ストローク比が考慮されたこのエンジンのレブリミットは7200rpmに設定されている。
それを聞いても、一瞬さほど“高回転型”ではないように感じるが、実はそれにはワケがある。それはこのユニットとコンビネーションを組むトランスミッションだ。シフトモードを切り替える事で「最大で通常時の50%までシフト動作を速めることができる」機能を備えたこのトランスミッションには「AMG スピードシフト」なる名称が与えられたが、そのベースとなったのはメルセデス・ベンツ車が「7Gトロニック」と称する7段のトルコン式AT。そして、このトランスミッションの能力によって「エンジンにリミッターをかけている」のが、現在のエンジンの最高回転数であるというのだ。
スーパーチャージャーと決別、V10は不採用
ところで、メルセデス・ベンツ車用をベースとしたのではなく、「すべてがAMGのオリジナル開発」とされるこのユニット。そのヘッド部分に4バルブDOHCのテクノロジーは採用するものの、昨今世界的に流行の兆し(?)を見せる直接噴射のメカニズムは採り入れられなかった。その点を、エンジン開発を担当した(しかも、2年半前まではポルシェ社に7年ほど籍を置き、そこで最後に担当した“作品”はかのGT3用フラット6ユニットだったという!)エンジニア氏に質してみると、「直噴方式は“ダウンサイズ・コンセプト”とセットで採用しないと費用対効果を出しにくい」という回答をいただいた。
そういえばメルセデス・ベンツは先に開催されたジュネーブ・モーターショーに、3.5リッターの直噴エンジンを搭載した「CLS350 CGI」を参考出品している。2006年後半からの市場投入が謳われるこのエンジンは、200気圧という高圧での燃料噴射を行うことで点火プラグの周辺に燃料の濃いゾーンを作り出し、気筒全体としてリーンバーン(希薄燃焼)を実現。燃費を大幅に改善しようという仕組みで、“次世代直噴”とも呼ばれるスプレーガイデッド方式を採用する直噴エンジンである。
将来的にはこれに過給を加えることで、排気量や気筒数のダウンサイジングも可能となり、さらなる燃費の改善も期待されるのが新しい直噴システム、というワケだ。
裏を返すと、先の氏の回答コメントには「だからAMGとしては、そうしたコンセプトの直噴テクノロジーを採用するつもりはない」というニュアンスが含まれているようにも感じられたものだが……。
加えれば、これまではリショルム式のコンプレッサー(スーパーチャージャー)を積極的に用いてきたAMG製のユニットだが、「(スーパーチャージャー)自身を駆動するためのエンジンパワーのロスが小さくないので、今後その採用はやめる方向にある」とも氏は教えてくれた。最近増えつつある10気筒ユニットも、「記号性ばかりが先走り、実際のメリットが見出せないのでAMGとしては採用のつもりはない」とも語る。
というわけで、今回デビューの新しいV8ユニットはそんな今後のAMGの方向性を担う新世代エンジンの先駆け的存在といえそうな一品なのである。(後編に続く)
(文=河村康彦/写真=ダイムラー・クライスラー日本/2006年5月)
・メルセデス・ベンツCLK63 AMG(FR/7AT)/ML63 AMG(4WD/7AT)【海外試乗記(後編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000018130.html
拡大
|
拡大
|
拡大
|
拡大
|

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。

































