アウディ・オールロードクワトロ4.2(5AT)【ブリーフテスト】
アウディ・オールロードクワトロ4.2(5AT) 2004.04.27 試乗記 …861.0万円 総合評価……★★★★ マイナーチェンジで「S4」と同じエンジンを搭載した、「A6アバント」ベースのSUV風ワゴン「オールロードクワトロ」。ハイパワーエンジンを得て、樹脂のボディパネルを脱ぎ捨てたシャコ高ワゴンに、自動車ジャーナリストの森口将之が乗った。屋根の色
「オールロードクワトロ」は、自分のなかで、いちばん“アウディらしくないアウディ”だと感じている。現代のアウディは、すべてにおいて完璧な機械であることにこだわった結果、ドライな乗り味が特徴のひとつになった。ところが、オールロードクワトロはそうではない。
もちろん、機械としては完璧だ。それに加えて、エクステリアは、サイドシルにアルミのバーを入れたり、ルーフをブラックアウトしたりと、センスのいい遊び心が感じられる。走り出すと、ツインターボの2.7リッターV6エンジンとエアサスペンションという、ともに空気を介したメカニズムが、絶妙なしっとり感をもたらす。こうした部分がとても好きだった。
そんなセンシティブな世界を持つクルマのトップグレードが、「オールロードクワトロ4.2」。パワーもトルクも2.7リッターV6ツインターボを圧倒的に上まわる、自然吸気4.2リッターV8を組み合わせたそれは、いかにもドイツ車好きが気に入りそうな、チカラで押しまくる乗り物に姿を変えていた。
試乗を終えてボディをふと見ると、お気に入りのひとつだった黒いルーフは、ボディ同色になっていた。
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「A6アバント」をベースにつくられたクロスオーバーモデル。デビューは2000年3月、日本には翌年2月から導入された。専用の前後バンパー、ステンレス製エンジンアンダーガード、オーバーフェンダーなどで、SUV風の外観に仕立てた。
エンジンはV6DOHC30バルブ2.7リッターのインタークーラー付きツインターボを搭載する「2.7T」と、そこから一部装備を簡略化した「2.7T SV」。トランスミッションは5段ティプトロニック。03年10月に4.2リッターV8を積む「オールロードクワトロ4.2」が、トップグレードとして加わった。駆動方式はすべて、トルセン式センターデフをもつ「クワトロ」こと4WDである。
A6アバントとの大きな違いは、4段階に車高調節できる「4レベルエアサスペンション」を搭載すること。自動または手動により、142〜208mmの範囲で最低地上高を変えられる。サスペンション形式は、フロントが4リンク、リアはダブルウィッシュボーン式と、A6アバントと同じ。
(グレード概要)
4.2リッターエンジンは「S4」と同型。しかし、センターデフの冷却性能強化や、カムシャフト駆動にメンテナンスフリーのチェーンを採用して信頼性を高めるなど、オフロード走行を意識したチューンが施される。トランスミッションは5段ティプトロニック。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
オールロードクワトロのインパネは、廉価グレードの「2.7T SV」を除き、「A6アバント」と共通する。ウッドパネルなどのマテリアルも似たものが使われていて、SUVにありがちな“土の匂い”はまったく感じない。個人的にはむしろ、もうすこしオールロードクワトロ独自の味つけが欲しいと思った。精密という言葉が使えるつくりのよさは、他のアウディ同様の美点。
スイッチも折り目正しく並ぶ。標準装備されるナビゲーションシステムは、メーターの中央に矢印と数字で次に曲がる地点を示す「MMI」付き。視線移動がすくなくてありがたい。
(前席)……★★★★★
Sシリーズに似たレカロ製スポーツシートが奢られ、ハイパフォーマンスグレードであることをアピール。シックなグレー系のツートーンでコーディネイトすることで、オールロードクワトロらしい遊び心も控えめに演出される。カチッとした着座感で、ポジションがピタッと決まるのはS4などと同じだ。ただしクッションは想像するほど硬くない。サポートは腰まわりがタイトなのに対し、上半身はルーズフィットだった。
(後席)……★★★★
後席にも前席と似たデザインの、レカロ製スポーツシートが装備される。これもSシリーズと共通。4.2は“オールロードクワトロのSシリーズ”という位置付けなのかもしれない。パシッと張ったシートバックはあいかわらず心地よいが、クッションは前席より薄くて硬い。サポート性能も後席として平均レベル。
ただし広さは圧倒的。身長170cmの人間が前後に座った場合、ひざの前には約20cm、頭上にも約10cmもの余裕が残る。
(荷室)……★★★
アウディのアバントは荷室容積より、スタイリッシュなデザインを優先する。オールロードクワトロにも、そのコンセプトが受け継がれる。4.8m以上のボディサイズを考えると奥行きはほどほどで、幅は左右の収納スペースのために詰められており、フロアも高めだ。6:4分割の後席を立てたままの状態で455リッターという容積は、「フォルクスワーゲン・ゴルフワゴン」をも下まわる。折り畳みがシートバックを倒すだけとしているあたりからも、容量にこだわらない設計思想がうかがえる。高級モデルらしく、荷室の仕上げはいい。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
4.2リッターV8はS4に搭載されるエンジンから、前端にあった補機類を後ろ側に移すなどして、37mm小型化した新型だ。さらに、オフロード走行に耐えるべく、センターデフの冷却ファン増設など、オールロードクワトロ専用にチューンされる。最高出力300ps、最大トルク38.8kgmは、さすがにS4より低い。とはいえ、2.7Tに比べれば、パワーで50ps、過給器付きが有利となるトルクにおいても3.2kgmのアップを果たした。対する車重は40kg増にとどまるから、2.7Tでもけっこう速かった加速が、さらに力強くなった。
それ以上に違うのはフィーリング。ツインターボ特有のおだやかなレスポンスで、音もなくスーッと速度を上乗せしていく2.7Tとは対照的で、こちらはアメリカンV8のような「ドロロ……」という力強いサウンドを響かせる。ソリッドなレスポンスでグイグイ加速していく。2.7Tが“繊細”なら、こちらは“豪快”と言えよう。5段ATは他のアウディと同じように、ティプトロニックの反応がおっとりしていた。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
2.7Tではエアサスペンションがもたらす、空を飛んでいるかのごとくまろやかな乗り心地が特徴だった。が、タイヤが225/55R17から245/45R18にサイズアップした4.2は、ゴツゴツした硬さを伝える。タイヤは、マッド&スノータイプからオンロード専用に変わっているため、オフロードの走破性は落ちたが、オンロードの限界はさらに高められた。“オールロード”という魅力をある程度捨ててでも、舗装路での速さにこだわったのだろう。2.7Tに比べるとフロントの重さをやや感じるが、それをもろともせず、クワトロシステムとハイグリップタイヤの威力で、速度を上げても強引にまわり切ってしまう走りは、どことなくS4に似る。こちらもまた、“繊細”から“豪快”へと変貌していた。
(写真=清水健太)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2004年1月26日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年
テスト車の走行距離:9219km
タイヤ:(前) 245/45R18 96Y(後)同じ(いずれも ピレリ P0 ROSSO)
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(4):山岳路(4)
テスト距離:386km
使用燃料:66.8リッター
参考燃費:5.7km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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