トヨタ・ベルタ1.0X(FF/CVT)【ブリーフテスト】
トヨタ・ベルタ1.0X(FF/CVT) 2006.02.07 試乗記 ……138万6000円 総合評価……★★★★ トヨタのコンパクトセダン「ベルタ」。世界戦略車「ヴィッツ」の4ドア版「プラッツ」が名を改め、生まれ変わった新型だ。1リッターモデルを試す。
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シンプルなおもてなし
初代「ヴィッツ」を見たときに、それまでの「スターレット」とは大幅にかけ離れたデザインに感動を覚えた。これで日本の小型車も楽しくなる。そして05年にフルモデルチェンジを果たしたわけだが、強烈な初代のデザインをキープしながらのサイズアップゆえに、間延びしたハムスターのような印象を持った。しかしこのベルタは、セダン規格であることから、むしろその「顔の大きさ」が功を奏している。
このセグメント、コストと闘いながらの走安性の確保が最大の目的である。その点でトヨタは業界随一の割り切りを見せていると思われる。エンジン性能もタイヤチョイスも、考えれば考えるほど的を射ている。つまり、走りはいい。だとしたら、最後にユーザーのハンコを押させるのはデザイン。その点で、ベルタは秀逸だ。
レクサスの「おもてなし」に騒ぐちまたをよそに、トヨタはベーシックグレードも着実に進化させ、シンプルに僕らをもてなしてくれる。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
トヨタのボトムレンジを担うヴィッツが2005年にモデルチェンジしたことにより、そのセダン形であるプラッツも同時進化。名称を「プラッツ」から「ベルタ」へと改め再出発した。全長はヴィッツ比で550mm長い4300mm、ホイールベースは90mm長い2550mmとなる。排気量はFFモデルが1.0と1.3リッターの2本立て。4WDは1.3リッターのみとなる。ヴィッツに搭載される1.5リッターはラインナップされない。グレードはベーシックなXと、大径ホイールやエアロパーツを組み合わせたスタイリッシュ版であるX“Sパッケージ”、最上級グレードのGとなる。Gの装備はタコメーターやスマートエントリー&スタートシステム、分割可倒式リアシート、オートエアコンなどを備え、適用は1.3リッターのみ。
(グレード概要)
試乗した「1.0X」はシリーズ中、最も廉価なグレード。マニュアルエアコン、2スピーカーのCDプレイヤー&AM/FMラジオ、14インチのスチールホイールが備わる。しかし安全装備にグレード間の差はほとんど無く、SRSサイドエアバッグ&カーテンシールドエアバッグもオプションで用意される。
【車内&荷室空間】 乗ってみると?
(インパネ+装備)★★★
ここまでデザインクオリティが上がってくると、フェイシアの材質などに薄いラバーを貼るなどのわがままを言いたくなるほどスタイリッシュ。ただ、一見小物入れが充実していないように見えるのが、印象を心細くさせる。しかし実は腰下エリアにドリンクホルダーや小物入れが多数存在し、使い慣れればむしろスッキリした室内空間のまま、普段を過ごせるはずだ。
(前席)★★★
反発力の適度なウレタンに、いかにも座り心地がよさそうなシェイプ。実際、初期タッチはよいのだが、距離を乗るほどに腰に負担がかかる。座面とバックレストの僅かな空間が原因だと見られる。しかし、これはコストカットではなく、ベルタ/ヴィッツの行動半径を考えて初期の乗り心地をベストに振ったものと解釈したい。座面高が高めに設定されているのもそのためだろう。
(後席)★★★
セダン形状ということでリクライン機能はつかないが、足下はヴィッツよりも205mm長い905mm。同行したスタッフは直立ぎみの姿勢に若干のタイト感を見いだしていたが、身長170cmの自分には、圧迫感もなく適度な空間だった。乗り心地は、ベルタユーザーの許容速度域では不満なし。ハイアベレージな走行では、ハーシュネスが気になってくるが、これもターゲットを見れば語るにおよばないだろう。
(荷室)★★★★
開口部幅1130mmというまっとうなサイズはアクセスも良好で、475リッターというトランク容量(VDA法)が、大人4人の荷物を完璧に飲み込む。幅×奥行きは1435×960mm。わざわざヴィッツをセダンにしたのであるから当然ともいえるが、これがすでにカローラの437リッターを抜いていると聞けば、さらなるバリュー感が出てくる。今回の試乗車は分割可倒式リアシートではなかったが、必要十分。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン/トランスミッション)★★★
さすがに大人4人とトランク満載の状態ではキツい加速感だったが、流れに乗れば必要十分なトルクで巨体を操った1リッターエンジンに、トヨタの71psの実力を思い知る。これでフィールまで素晴らしかったら、マニアのクルマになってしまう。CVTは回転上昇感がなく静かなかわりに、必要時にSレンジとBレンジ(エンジンブレーキ)を積極的に利用しないといけないから、フールプルーフなわけではないのだが。
(乗り心地+ハンドリング)★★★
このクラスで表層的な乗り心地とハンドリングを左右するのはタイヤだ。165/70R14という選択は、電子制御デバイスを満載しないベルタにパッシブセーフティ機能を持たせた結果だろうか。あきらかに上屋の重いベルタにとって、このハイトの高さがロールを大きくし、フロントから逃げる挙動を作り出している。基本ボディの剛性バランスは十分で、それは誰が乗っても安心感としてわかる。
(写真=荒川正幸)
【テストデータ】
報告者:山田弘樹
テスト日:2006年1月11日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2005年型
テスト車の走行距離:1249km
タイヤ:(前)165/70R14 (後)同じ(いずれもブリヂストンB250)
オプション装備:SRSサイドエアバッグ(運転席・助手席)&SRSカーテンシールドエアバッグ(前後席)+アシストグリップ一体型コートフック(1個)=6万3000円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5):高速道路(5)
テスト距離:223.5km
使用燃料:14.4リッター
参考燃費:15.5km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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