サーブ9-5Arc3.0t【試乗記】
大人向けの豪華版 2002.03.07 試乗記 サーブ9-5Arc3.0t ……515.0万円 約1200カ所におよぶ改変を受けたサーブ「9-5」2002年モデル。エントリー仕様の「Linear(リニア)2.3t」とスポーティな「Aero(エアロ)2.3TS」の間を埋めるセダンの3リッターモデル「Arc(アーク)」に、webCGエグゼクティブディレクターの大川悠が試乗した。長くつき合える家族の一員
比較的最近、新型「9-5」のトップモデル「Aero(エアロ)」でも表現したが、現在のサーブの最大の魅力は、自分自身が何者か知っていて、それがどうあるべきかを明瞭なメッセージによって伝えていることだ。
個性的というより、製品思想が明快だから、顧客に迷わせることはない。競争激甚なプレミアムDセグメントの中で、一度好きになったら、他に目もくれずに選択できるようなクルマだし、買った後も後悔は少ないはずだ。いってみれば“通好み”のクルマだけど、一度持つと家族の長い一員になるような、そんな深い味わいも持ったクルマである。
9-5には、2.3リッター直列4気筒の低圧ターボ付き「Linear(リニア)」と、高性能版高圧ターボのAeroがあるが、今回試乗した「Arc(アーク)」は、より大人向けの豪華版というべきで、同じ低圧ターボ付きながら3リッターV6という余裕あるエンジンを使っている。従ってこのArcは、長く1台のクルマに乗ろうという人には向いているかもしれない。
小さいが大きなマイナーチェンジ
最近のサーブは、2世代ごとにマイナーチェンジとフルモデルチェンジを繰り返している。この9-5も昨秋、マイナーチェンジを受けたが、その変化は外観が告げるよりははるかに大きい。一見するとグリルとテールランプ以外、違いは識別しにくいし、それもオーナーでもなければ分からないほどの変化だが、実際には1200カ所以上が改変されているというし、いざ乗るとその効果は誰でも分かる。
主な変更点は、ボッシュと共同開発したアンチスピンデバイス「ESPシステム」の導入、学習機能を持った5段ATの採用、足まわりのセットアップ見直し、より空力効率を改善したボディ、グレード呼称の変更などだが、そのほかに羅列できない無数の機械的なリファインメントが、実際は大きく効いている。
エアコンの吹き出し口からカップホルダーなど、細部にいたるまで丁寧にデザインされた大型のダッシュボードは、Arcの場合明るいウッドとなる。スポーティなAeroはここがアルミヘアライン風仕上げだが、両方とも品質感はいい。大ぶりのシートは人間工学的には正しいだろう。リアのルームも2705?のホイールベースが効いて、まあライバルに劣らないだけはある。シートの作りなども、たとえばジャガー「Xタイプ」よりは高級に思える。
大人のためにリファインされたクルマ
サーブの伝統に従ってドライバー横、センターコンソール部分にあるキーを捻って走り出した瞬間から、ほとんど形は変わらないというのに、旧型からは明らかに進歩したクルマになっていることに、誰もが気がつくはずだ。
まず、なんと言ってもボディの剛性感がいい。ボディ全体がガッシリとした感じで受け止めるから、乗り心地もいいし、ステアリングに対するクルマ全体の応答性もいい。この日主として走った西湘バイパスは舗装の継ぎ目が厳しく(以前に比べれば大分改修されたが)、高周波のショック吸収能力がわかりやすい道だが、ここで9-5はとても気持ちのいい乗り心地を示した。音も振動も遠く離れていた。
V6エンジンも以前より好印象を受けた。前は上の回転域で多少軽快さに欠け、個人的には2.3の4気筒の方が好ましく思っていたのだが、この日は自分自身の使用条件内(長距離をそんなに飛ばさない走行)では、あまりエンジンが強い存在感を訴えてこなかった。2.3と較べて、こちらの3リッターV6の方が合っているかとさえ思った。スムーズで静か、しかもこなれた低圧ターボのサポートによって、トルクはどの領域からも存分に引き出せるし、これに新しい5段ATが巧みにマッチする。
多分唯一の難点は、それでも依然として前輪駆動特有のトルクステアを示すことだろうが、それはAeroなどに比べれば遙かに少ないし、全般的にステアリングはナチュラルだ。
自動車というものが分かり切った大人のためのリファインされたクルマ、そしてそれでも特有の落ち着いた魅力にあふれるクルマが9-5「Arc」である。問題は価格。515.0万円とは、最近値下げされたにしてもやや高いが、長く乗るつもりなら仕方がないだろう。でもリポーターなら、V6の9-5にするなら、非常に細かいところまで行き届いて造られているワゴン版「Estate(エステート)」(Arc3.0tで540.0万円)を選ぶ。
(文=大川 悠/ロケ写真=難波ケンジ/2002年2月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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