トヨタ・クラウン3.5アスリート“Gパッケージ”(FR/6AT)【試乗記】
世界のレクサス、日本のクラウン 2005.12.05 試乗記 トヨタ・クラウン3.5アスリート“Gパッケージ”(FR/6AT) ……609万1050円 マイナーチェンジを受けた「クラウン」に、「レクサスGS/IS」でデビューした3.5リッターエンジンが採用された。50年もの間日本の高級車を代表してきたブランドは、レクサス誕生を受けてどう変わっていくのか。「トップ・オブ・トヨタ」に返り咲き
思い起こせば「ゼロ・クラウン」の改革ぶりは衝撃的だった。小泉改革どころではない。日本の伝統的価値の牙城と思われたクラウンが、自らの過去を否定するかのような劇的な変貌を遂げたのだ。ゆったりした乗り味と古雅なインテリアを持ち味としてきたクラウンが、「世界標準」を呼号し「若返り」を旗印にしてイメージチェンジを断行したのだった。
2年を経ての「小改革」、マイナーチェンジが行われた。8月にレクサスが発足し、クラウンが名実ともに「トップ・オブ・トヨタ」に返り咲いて間もないわけで、どんな差別化が図られているか気になった。
新しく採用された3.5リッターエンジンは、「GS」「IS」でデビューしたばかりのレクサス由来のものである。トヨタとは違うブランドとして誕生したレクサスではあるものの、専用エンジンとして抱え込むような贅沢は、さすがにできない。
内外装のリニューアルは小規模
内外装の変更は、ごく控えめなものにとどまっている。グリルやバンパー、ランプ類の意匠が改められた。内装に関しても、シートやドアトリムの材質や色調が変えられたくらいで、リニューアルは小規模である。
やはり今回の改良の目玉は、なんといっても「アスリート」に新エンジンが搭載されたことだろう。従来からの2.5、3.0エンジンが筒内直接噴射の「D-4」であるのに対し、新しい3.5リッターエンジンは筒内噴射にポート噴射を組み合わせた「D-4S」である。「今後10年間ナンバーワンエンジンであり続ける」ことを至上命題として開発されたとあって、軽量コンパクト、高出力低燃費という難しい課題をクリアした自信作なのだ。
GS、ISでは好印象だったこのエンジンが、クラウンにも新しい次元を切り開くのか、という点に興味があった。ISはよりスポーティに仕立てられているが、GSに搭載されたものとはマネージメントもほとんど変わっていないということである。
大排気量にもかかわらず、軽々とよくまわるエンジンである。車重がやや軽いこともあってか、加速は鋭さを孕んでいる。アスリートに関しては、以前のクラウンとはまったく違うクルマと言っていい。コーナーでゆらりとすることもないし、ブレーキの効きも安心できる。
クラウンらしさを味わいたいなら……
しかし、どうもソリッドな感じが薄いのだ。デビュー当時にはスポーティな身のこなしに感心した記憶があるが、今はさほどのものと思えない。当時に比べ、足まわりの設定がいくぶんコンフォート方向に寄っている気もするが、それだけではないだろう。レクサスに乗った後で比べてしまうと、緻密さや硬質感という面では少々物足りなさを覚えてしまうのだ。
たぶん、これは優劣の問題ではない。ゼロ・クラウンは世界標準を標榜してはいたが、レクサスと比べれば明らかに日本固有の感覚を保ったままだ。アスリートからロイヤルに乗り換えてみて、そのことを強く実感した。黒内装のアスリートではわかりにくくなっているが、アイボリー基調のロイヤルの運転席に収まった時、懐かしさに包まれたのだ。「クールさ」を前面に押し出したレクサスの設えに対し、クラウンは曖昧な柔らかさを残している。
だから、クラウンらしさを深く味わいたいのなら、3リッターエンジンを積む「ロイヤル」がいいのかもしれない。実際、技術者に話を聞くと、エンジンの効率としては3リッターが最適なのだという。燃費も、最もいい数字である。新エンジンは、今世界中で競争が激化している3.2〜3.5リッタークラスの中でもかなり先進的なものだと思うが、クラウンには中庸を心得た円熟の3リッターのほうが似合うように感じる。
クラウンのアクセサリーでは、今もレースのシートカバーがよく売れるのだそうだ。そういったユーザーは、昔ながらの悠揚迫らぬ日本的高級セダンを求めているのだろう。クルマの正解はひとつではない。レクサスが登場したことによって、クラウンは別の道を極めるための余裕のある足場を得たのかもしれない。
(文=NAVI鈴木真人/写真=高橋信宏/2005年12)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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