トヨタ・クラウンアスリート“+M スーパーチャージャー”(FR/6AT)【試乗記】
親は超えるためにある 2008.07.14 試乗記 トヨタ・クラウンアスリート“+M スーパーチャージャー”(FR/6AT)……644万5000円
“走りのクラウン”「3.5アスリート」をモデリスタがチューンナップ。スーパーチャージャーで武装し、さらにパワフルになった走りとは……?
意地の見せどころ
外観はフツウのセダンのまま、軽くエンジンをチューンして、アシも固め、ちょっと同類とは違う優越感を味わう――という世界は、昔から好き者の間で支持されてきた。
その手法をメーカー自身でやってしまったのが、クラウンでいえば「アスリート」シリーズ。しかし、数が増えて一般化すれば、更に上を目指すのが世の習い。とはいえ、排ガスや安全性など法規との絡みもあり、そう簡単に素人が手を出せる領域ではない。そこにモデリスタやトムス、TRDといった、メーカー側近の会社が活躍する余地がある。
現行クラウンのモデルチェンジに伴い、モデリスタから発売になったのは、クラウン・アスリートをベースに、スーパーチャージャーで軽くチューンした仕様。「+M スーパーチャージャー」なるコンプリートカーである。価格は、素の3.5アスリートで644万5000円。本革シートや電動サンシェードなどを加えた「Gパッケージ」が724万5000円だ。
チューンのポイントは、3.5リッターV6の排気量や圧縮比はそのままに、スーパーチャージャーを付加して360ps/6400rpm と50.8kgm/3200rpmにパワーアップしたエンジン。20mmローダウンされたサスペンション。専用のエンジンカバーや、「SUPER CHARGER」「+M」の専用エンブレムなどである。
この手の市場はドイツ車の独壇場でもあるが、外来者に荒されてたまるか、という国産車の意地の見せどころでもある。
公道でも違いはわかる
試乗はあいにくの雨降りであったが、もともとこうした高性能車は、公道上で実力を存分に発揮できるものでもない。まともにスロットルを開けば、トラクションコントロールが作動して宥(なだ)められるだけだし、一般的な交通の流れのなかでは、十分な加速を得ることができるベースモデル(315ps、38.4kgm)とそう大きく変わるものでもない。
では数値上の自己満足だけか?と言えば、そうではない。
発進時にスッと出る動き始めの瞬間や、ちょっと開いた車間を詰める際の瞬発力などレスポンスが心地よく、全体的によりスムーズさを増した加速感は、軽くフーンと聞こえるスーパーチャージャーの作動音とともに、際限なく回転上昇するかのようで、ストレスを感じない。
NAエンジンでは負圧になる吸気を待つ感覚がなく、スロットルに同調してスーッと空気が流れるフィーリングは、過給器付きエンジン特有のものだ。しかもターボによる過給とも違い、待つこともなくオーバーシュートする感覚もない。端的に言って気持ちよい加速感が得られる。
個人的な希望だが、パワーアップの実感をもっと得るべくほかにやって欲しいことはある。
たとえば、現状では半回転もタイヤが空転すればトラコンが介入するのだが、瞬時のホイールスピンも快感のひとつであるから、それを3回転位は許容するように調節するとか。また、単に失速させるのではなく確実なグリップに繋げるような半スピン状態を作りだすといった工夫も欲しい。
妥協は禁物
20mmのローダウンは実用上ギリギリの線で、穴ボコや大きな段差などはやはり注意して走る必要がある。特に試乗車にはオプションのエアロキットが装着されており、車輪止めなどには注意が必要だ。
サスペンションのストロークを詰めた弊害は少なく、平坦な道路では姿勢のフラットさも十分。シャコタン車に見られるようなヒョコヒョコした動きは皆無で、バンプラバーにタッチする突き上げGや底付き感もない。
重心高を下げて得られる横G感覚とか、操縦安定性面での所期の目的はほぼ達成されている。
欲をいえば、ステアリング系に更なるフリクションの低減や、スッとノーズが動く切りはじめの節度感が欲しい。
エンジン性能以上に、操縦安定性と乗り心地に関するチューンドカーへの期待は大きいものだ。バネやダンパー、タイヤやホイール、といったパーツ交換だけなら、街のショップでも可能なのであって、メーカーが送りだすコンプリートカーならばもっとその先まで、調整のできる箇所であれば極限まで煮詰めるべきだ。
ペダルのタッチやシートの取り付けなどなど、挙げればキリがないが、一度バラしてもう一度丁寧に組み直すくらいの気概は必要だと思う。
ノーマルの量産車では追求しにくい部分の改善も課題のひとつ。一般道の80%の領域で快適な乗り心地も、サスペンションが小ストロークする微少振動領域ではブルブルと気になる。この段差の後にブルッと残る感覚は、欧州車と異なり高級感を著しく損なう。他がいいだけに。クラウンは多かれ少なかれこの性格を代々受け継いでおり、是非とも改善して欲しいと思う。
なにごとも「こんなもんだよ……」と妥協して欲しくないのが、チューニングカーの世界だと思う。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)

笹目 二朗
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