トヨタRAV4 G(4WD/CVT)/SPORT(4WD/CVT)【試乗記】
スモールSUVの優等生 2005.11.29 試乗記 トヨタRAV4 G(4WD/CVT)/SPORT(4WD/CVT) ……283万7100円/292万6350円 初代デビューから11年、3代目に生まれ変わった「RAV4」は、よくできた優等生であった。がしかし、複雑な思いも残るのであった。ナゼって……。5ドアだけ
初代「RAV4」のデビューは1994年。現行「ヴィッツ」よりも短い全長3.7mほどの3ドアボディを、SUVらしからぬソフトなエクステリアデザインで包み込んだ、都会派オフローダーの登場である。汗くさくない、土くさくない、所帯じみていない……当時、私はそんなRAV4がとてもカッコよく思えた。『CG』の長期テスト車を借りて、方々へ出かけたのがつい先日のことのようである。
あれから11年が経ち、RAV4は3代目に生まれ変わった。想い出の(!?)3ドアは姿を消し、新型は5ドアだけのボディ構成になる。ラインナップは「X」「G」「SPORT」の3グレードで、エンジンは2.4リッター直列4気筒の1種類。駆動方式は前輪駆動と、電子制御カップリングで前後の駆動力を配分する“アクティブトルクコントロール4WD”が用意される(SPORTは4WDモデルのみ)。トランスミッションは“Super CVT-i”と呼ばれる無段変速機を搭載する。
広くて便利な室内
RAV4のチーフエンジニアによれば、新型はプラットフォームを一新、(1)「走る・曲がる・止まる」性能の大幅向上、(2)力強くモダンなデザイン、(3)心地良い室内空間と多彩なユーティリティ、をテーマに開発を進めたのだという。
走行性能に関しては後ほど触れるが、新型RAV4のデザインや室内空間には、確かに努力の跡が見られる。たとえばラゲッジスペース。スペアタイヤを背負ったリアゲートを横に開くと、SUVとしては低い位置に設定されたフロアが印象的だ。そのままでも十分広いのだが、荷室内のレバーを操作するとリアシートは全体が沈み込みながらシートバックが倒れて(“スーパーチルトダウン機構”)、スペースはほぼ倍増、しかもフロアはほぼフラットになる。床下収納スペースは広く、トノカバーの収納場所も用意される親切な設計。リアシート自体も、165mmの前後スライドやリクライニングが可能で、“定位置”の一番後ろのポジションなら膝の前に20cmのスペースが確保されるほど余裕がある。
また、インテリアデザインも頑張っている。美しい仕上がりのメタル調のパネルが施された2段構えのダッシュボードがスポーティで、エアコンのスイッチもシンプルさが好ましい。メーターを取り巻く、やはりメタル調のリングが太すぎるように思えたが、この部分に警告灯が配置されると知り、納得がいった。ほかにも触れたいところはたくさんあって、総じて好感の持てる仕上がりである。
走りっぷりも優等生
そして、走行性能もなかなかのでき映えだ。まず試乗したのはメイングレード「G」の4WDモデル。無理なく乗降できるフロントシートに収まり、ダッシュボードのスタートボタンを押してエンジンを始動。試乗会場となったホテルの駐車場から一般道に向かう。そのわずかな距離でも、ボディのしっかりとしたつくりがわかる。
注目はRAV4のステアリングだ。新型では電動パワーステアリングが採用されているが、油圧式かと思うほど自然なフィールには正直驚いた。実はこの日、試乗会場にはマイナーチェンジ後のプリウスで駆けつけていた。「プリウスの電動パワーステアリング、随分自然になったよな」と思っていた矢先に、RAV4を運転したら、さらにこちらは先に進んでいたのである。
225/65R17のタイヤとアルミホイールが標準装着される「G」は、M+S(マッド&スノー)タイヤにありがちなザラついた印象はなく、ロードノイズもさほど大きくはない。乗り心地も落ち着いていて、高速道路のフラットさも下手な乗用車より優れるほどで、コーナーを曲がるときのロールもよく抑えられていた。
一方、235/55R18と、1インチアップのタイヤを履く「SPORT」は荒れた路面ではショックを伝えてしまうので、選ぶ際はそれなりの覚悟が必要だ。
2.4リッターエンジンは、排気量に余裕があるだけに、発進時から不満のないトルクを発揮する。組み合わされるのがCVTということもあって、加速はスムーズ。それでいて、アクセルペダルを大きく踏み込んだときでも、エンジン回転と速度は比較的リニアに上昇していくので、CVT臭さがない。回したときのエンジン音がいまひとつ心地良くないが、4000rpmを中心に盛り上がりを見せるトルク特性は申し分ない。
というわけで、短い試乗だったが、新型RAV4の優等生ぶりは十分確認できた。買って後悔しないクルマであることは間違いない。ただ、あまりにバランスよく仕上がっているからだろう、初代のようなカッコよさが感じられないのだ。多少荷室が狭かろうが「どうしてもこのクルマじゃないとダメなんだ」と思わせた初代RAV4 3ドアの個性を知るだけに、複雑な思いが残る新型RAV4の試乗だった。
(文=生方聡/写真=清水健太/2005年11月)
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生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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