アルファロメオ・アルファ147 TI 2.0ツインスパーク・セレスピード(5MT ATモード付き)【ブリーフテスト】
アルファロメオ・アルファ147 TI 2.0ツインスパーク・セレスピード(5MT ATモード付き) 2004.05.29 試乗記 ……330万7500円 総合評価……★★★ 1960年代に遡るアルファロメオの高性能バージョン「TI」……の名前を冠した「147TI 2.0ツインスパーク・セレスピード」。スポーティな雰囲気を強調した3ドアハッチはどうなのか? 別冊CG編集室の道田宣和が乗った。
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BMW流マーケティング
アルファの「TI」と言えば知る人ぞ知る、遠く1960年代に生を享けた通称“弁当箱”、「ジュリア・ベルリーナ」のそれが真っ先に思い浮かぶ。Turismo Internazionaleがその名の通り、国境を越えて縦横に駆けめぐる俊足サルーンを意図しているのはたしかだが、一見グレード名ないしサブネームと映るこのネーミング、もともとは1.6リッター級ジュリア時代の到来まで主力を務めていた1.3リッター級ジュリエッタに対する性能全般のレベルアップを意味したものである。実際デビュー当初はシリーズ全体が「ジュリアTI」と呼ばれていた。誤解の生まれる余地があるとすれば、まさにそこ。TIイコール即マニアックなスペシャルバージョンと勘違いする向きもあるようだが、それは多分に大幅な軽量化を図ってボディ各部をストリップダウン、バンパーさえもアルミに置き換えた同“TIスーパー”の強烈なイメージがなせるワザに違いない。
それから40年、長いブランクを経ていま再び「147」と「156」で復活をみた今日のTIはそれぞれシリーズを彩るバリエーションのひとつとして登場した。エンジンやサスペンションは、ノーマルそのままに、主として見た目のドレスアップに力点を置き、流行りの大径ホイール/タイヤやスポーツレザーシートなどを与えたものである。いわば単なる“雰囲気モデル”に近いのだが、それでもなぜか特別なクルマでもあるように想わせるのは、上記の経緯ゆえだろう。本来TIはBMWで言うなら“Mスポーツ”的な存在であり、より本格的なスポーツモデルを期待するなら同“M”に相当する「GTA」に求められてしかるべきなのである。考えてみれば、GTAもTIも名跡を襲ったのはアルファ自体が勢いづいたつい最近のこと。イタリアの老舗も結構商売がお上手になったものだ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「155/156」の商業的な大成功を背景に、「147」が“プレミアムコンパクト”として本国デビューを果たしたのは2000年の秋だった。短縮したフロアパンとメカニズムの大半を兄貴分の156ノッチバックセダンから受け継いだ3/5ドアハッチバックセダンである。翌2001年夏に発売が開始された日本仕様はグレードこそ1種類でスタートしたが、内容的にはいかにもアルファらしさに溢れていた。「2.0ツインスパーク・セレスピード」というのがその名前。ツインスパークとは文字通り気筒当たり2本のプラグを持ち、燃焼効率の高さを追求した近代アルファ伝統の技術。片やセレスピードはマニュアルギアボックスに電子制御式クラッチを組み合わせ、2ペダルでシーケンシャルシフトも完全自動シフトも可能にした、これまたアルファ得意のメカニズムである。しかも、147の場合はアルファで初のステアリング裏に配したマニュアルシフト用のパドルが自慢で、ちょっとしたF1パイロット気分を味わえるのが特徴。レースとスポーツを知りつくしたアルファはやることがニクイ。
(グレード概要)
「147TI」はその2.0ツインスパーク・セレスピードをベースとし、以下の特別装備を奢ったものである。外装ではキセノンヘッドランプとヘッドランプウォッシャー、リアルーフスポイラーがそれ。もちろん識別のためのバッジが用意され、TIのロゴがチェッカードフラッグのパターンと一対になってテールゲートに貼り付いている。内装ではスポーツレザーシートとスポーティな雰囲気のブラックインテリアが独自、さらにサイドシルのプラックとオーナメント付きの専用フロアマットがTIであることを主張している。
したがって、150ps/6300rpmと18.4kgm/3800rpmを発するツインスパーク直4エンジンはむろんのこと、セレスピードの中身とファイナルその他、サスペンションまで含めたメカニズムのほぼすべてが不変のまま。唯一の例外がブレーキのパッドで、フロントは「Galfer」、リアは「Lucas」とメイクこそノーマルと同じだが、型番そのものが異なるセミレーシングタイプが使われている。そして最後にもうひとつ、実質的に最大の違いが足もとにある。タイヤ/ホイールが16インチから17インチにグレードアップし、しかもホイールは独自の意匠が与えられるのだ。消費税込みの価格差は28万3500円だが、ノーマルではオプションのスポーツシートだけでも18万9000円することを考えれば一種のバーゲンでもある。TIは3ドア/右ハンドルだけだが、ギアボックスはこのセレスピードのほかにマニュアル(5段)が選択可能で、その場合は13万6500円安い。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
プレミアムコンパクトの言葉に嘘はない。147はデビュー当初から156と同等以上の装備と質感を売り物にしてきた。彫りの深いメーターナセルやダッシュボードは、繊細なシボと相まってそのこと自体が高級だし、純粋な装備の点でも左右が独立して調整できるデュアルゾーン・フルオートエアコンやCDチェンジャー付きのBOSEサウンドシステムが、2リッターモデル全車に標準という充実振りだ。TIではそれに加えていかにもリッチななめし革のシートが加わり、もはや後ろを振り返らなければメルセデスやBMWのミドルクラスサルーンの趣さえ漂っている。その革にしても見るからに風合いと仕立てがよさそうで、イタリア車はいつからこんなにクォリティコンシャスになったんだろうと唸ってしまうほどだ。
(前席)……★★★
“彫りの深さ”はボディも同様。つまり、ドアの内張やアームレストなどのひとつひとつが「出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる」のだ。そのため、見た目はさほどでなくても実際にはスペース的にも充分である。特にシートサイズの余裕が目立ち、小柄な筆者などは長いクッションの前端にあるサイサポートの存在がかえって気になった。ボディがアウディ流に“深い”のも囲まれ感があって、スポーティなクルマには好適。相対的にウェストラインが高めだから視界の点ではいささかマイナス要因でもあるが(特にリアクォーターが太く、律儀に3人分のヘッドレストが並ぶ後方視界が良くない)、そのぶん、安心感があるのはたしかだ。個人的には、3ドアは狭い駐車場での乗り降りや後席へのアクセスが悪くて好きになれない。
(後席)……★★
そのリアシートだが、スペース的には特に問題もなく、クラスの平均といったところ。ただし、出入りが面倒な3ドアであることと黒一色の内装、そしていまやイタリア車もエアコンの使用を前提としているのか、窓がハメ殺しとあって、全体に閉所感が強い。ついでに言えば、このクルマの場合はオーナーないしドライバーが元気よく飛ばすことが多いだろうから、余計にここには座りたくないというのが本音である。むろん、もし5ドアがあれば窓も半分ほどは開くし、だいぶ事情は異なるはずだ。
(荷室)……★★★
本来のラゲッジスペース自体がハッチバックとして標準的な容量を持つうえに、リアのバックレストが分割可倒式で使い勝手はよい。しいて言えば、上述のCDチェンジャーがせっかくのフロアを多少なりとも侵食しているのは事実である。フロア全体をカバーできる伸縮自在のネットが備わっているのは助かる。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
TIがというよりも、久しぶりに147に乗ってやや意外だったのは、156で初めて導入されて以来、年ごとに熟成の度を深めてきたセレスピードの“頭脳”が、なぜか再び後戻りし、操作が下手くそになってしまったように感じられたことである。変速そのものが遅いだけでなく、シフトの瞬間に躊躇って前のめりになったりするのだ。そういえば、以前はエンジン回転をきっちり合わせるために、こしゃくにも機械が“ブリッピング”を演じて感嘆の声を上げさせたものだが、どうやらそれも見られない。それほど、このシステムはセッティングが微妙だということか?
けれども、いったん道が空いてひとたび鞭をいれてやると、それまでのモヤモヤは一気に解消、「やはりアルファはエンジン、こうでなくっちゃ!」の気分になるから不思議である。同じ5000rpm台、6000rpm台(リミットは7000rpm)でも他のクルマとは雰囲気がまるで異なり、回転の伸びのよさと官能的なサウンドとで俄然ドライバーをやる気にさせるのだ。こうなると絶対的なパワーそのものは大した意味を持たないし(250psのGTAは別格としても)、もともと150psは“スポーティセダン”として充分な値だから、敢えてエンジンに手を付けなかったTIのコンセプトもそれなりに理解できるというものだ。こんなとき、自動変速の“CITY”モードはもちろん解除して積極的にパドル式のシーケンシャルモードを選ばない手はない。ただし、ついついそうして楽しんでしまうためか、燃費は平均でも6.9km/リッターと芳しくなかった。「★3つ」は期待と落胆が相半ばした結果だ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
147が“プレミアム”と認められた理由のひとつは、乗り心地が小型ハッチバックの常識を覆すほどに良好なためだった。バネが比較的ソフトでたっぷりとしたストロークがあり、それでいてダンピングが強力なため、まるではるかに大きなサルーンのようにしなやかかつフラットで、ある意味“重厚”さえ感じさせたのである。設計が新しいためか、156よりよいという逆転現象まで起きていた。ところが、このTIはややニュアンスが異なる。違うのはタイヤ/ホイールだけのはずなのに、乗り心地はわずかだけれど明らかに硬く、特に低速ではハーシュネス(荒さ)も感じる。せっかくの美点が若干スポイルされているのだ。もちろん、GTAなどはもっとガチガチに締め上げられているわけだが、あちらは別の種類の硬さというべきで、むしろ昔の「ポルシェ911」のような潔さと形容することもできる。TIの場合は単に悪化したように感じてしまうところが惜しい。
そのぶん、ハンドリングはさらにシャープさを増した。例によってロック・トゥ・ロック2.2回転しかしないステアリングを切るとスッと鼻先が向きを変え、45プロファイルのパフォーマンスタイヤはコーナーで絶大なグリップを披露する。以前はスロットルコントロールによって意図的にテールを振り出すこともできたが、いまはそれをするには相当なハイペースとリスクとを要求される。ただし、よいことばかりではない。ふだんはタイヤが太くなったせいで、路面が荒れているとワンダリング(外部入力によって進路が乱されること)が起こりがちで、特に低速ではステアリングが勝手にチョロチョロと向きを変えることがある。ブレーキがまるで別物のような効きを示すのもビックリだった。元来147のそれは強力で、「真綿で首を締めつける」ようなジワリとした感触とともに絶妙な効きを示したものだが、TIの場合はその域を超えて、明らかに効きすぎ。まるでサーボ(だけ)を何倍にも強化したかように、減速Gの立ち上がりが異例なほど速く、そのためドライバーは何日経っても慣れずに“カックンブレーキ”を繰り返した。一般に、セミレーシング・パッドは高速/高温時の使用が前提だが、TIのそれは不思議なことに高速域はむろんのこと、微低速でも存分に効くのがかえってコントロールを微妙にしているのだ。
(写真=清水健太/2004年5月)
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【テストデータ】
報告者:道田宣和(別冊CG編集室)
テスト日:2004年4月5日〜19日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2004年型
テスト車の走行距離:4203km
タイヤ:(前)215/45ZR17(後)同じ(グッドイヤー・イーグルF1)
オプション装備:--
形態:ロードインプレッション
走行形態:市街地(5):高速道路(4)山岳路(1)
テスト距離:914.8km
使用燃料:133.1リッター
参考燃費:6.9km/リッター

道田 宣和
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