TVRサーブラウ スピードシックス(5MT)【試乗記】
『不惑のスポーツカー』 2001.05.02 試乗記 TVRサーブラウ・スピードシックス(5MT) ……995.5万円 6ツ目のタスカンで衆目を驚かせた英国はブラックプールのスポーツカーメーカー、TVR。ややジェントルな2+2モデル、サーブラウにもニュー直6ユニットを載せ、フェイスリフト版もリリースした。webCG記者が報告する。![]() |
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大人のブリティッシュスポーツ
静岡県は「東急ハーヴェストクラブ浜名湖」に着くと、夕暮れ迫る空の下、TVRサーブラウ・スピードシックスが、ホテルの車寄せでライトに照らされていた。鳥カゴのように張りめぐらされた鋼管にFRP製の2+2クーペボディを被せた、スペースフレーム構造を採るブリティッシュスポーツ。2001年5月1日、自社製4.5リッターV8「AJP8」を搭載するサーブラウ4.5に加え、やはりTVR自ら開発した4リッター直6「SP6」ユニットを載せた“スピードシックス”の販売が開始された。
「今回はどういうモデルなんですか?」。リポーターの漠然とした質問に、「大人のためのスポーツカーです」と、TVRジャパンの神取秀男代表取締役がニコやかに答える。
フロントミドに収められたストレート6は、基本的に同じエンジンながら、6ツ目ウナギ顔の2座モンスター、タスカンのそれより若干おとなしい……とはいえ、それでも圧倒的な350ps/6800rpmの最高出力と45.6kgm/5000rpmの最大トルクを発生する。足まわりはV8モデルより多少ソフトな味付となり「路面変化に、より柔軟に追従できるよう」(プレスリリース)になった。ダンパー、スプリング、アンチロールバー、そしてブッシュに、スピードシックス用専用チューンが施されたという。
“後付け”っぽいプロジェクター4灯のフロントマスクは「大人のスポーツカー」としていかがなものか、と個人的に感じたが、大丈夫、従来通りのオーソドクスな大径丸目2灯型も、1ビーム仕様の「Mk.I」として注文時に選択可能だ。
価格は、Mk.Iが、858.0万円。今回の試乗車「Mk.II」(2ビーム仕様)が、40.0万円高の898.0万円である。
英国スポーツカーの伝統
「“SP6”ハ知ッテイル。たすかんニ乗ッタコトアルカラ。れーす用えんじんミタイダッタ……」と思い出しながら1気筒当たり666ccのビッグ6に火を入れて、スロットルペダルを煽ってブリッピングすると、やっぱりイイ。いかにもピストンとシリンダーの抵抗が少ない、フライホイールが軽い感じのシャーンとした吹け上がり。年産3000台程度のメーカーだからこそ出せる価値あるフィールだ。
存外アシストの強いステアリングを切ると、ウィンドシールドの向こうで長いボンネットがグワッと鼻を振り、サーブラウ・スピードシックスが走りだす。6連スロットルのレスポンスは噛みつかんばかり。
ただし、公道では2000rpm前後でじゅうぶんだし、回転はスムーズだが、まだ900km余に過ぎない走行距離ゆえか、タコメーターの針が4000rpmを超えて右半分に入るとやや苦しげ。そのうえテスト車の1000万円近いプライスが頭のなかで点滅して、5000rpm以上回す気にはならない。
早めに操作しがちになるボルグワーナー製5段MTは、トラベルが短く、カチッとシフトのきまる、精度が高いトランスミッションだ。
乗り心地は、浜名湖周辺を走ったかぎり、問題なく日常で使えるレベルだ。サスペンションセッティングのほか、225/50R16という、TVRにしては“おとなしめ”なタイヤのせいもあると思う。
直6ユニットを搭載したスポーツカーは、TVRのチェアマン、ピーター・ウィラーのいう「多感な時期に憧れたブリティッシュスポーツの基本形」。サーブラウ・スピードシックスは、“トラディッショナルクーペ”と位置づけられる。
MRP社が刊行したコレクターズガイドの1冊、Graham Robson著『The TVRs』を見ると、TVRでは1970年代の2500Mが「the only TVR so far built with a straight-six-cylinder engine」、つまり初版の出た81年までの唯一の直6モデルだというから、トレバー・ウィルキンソン由来のスポーツカーメーカーとストレート6の関係はそれほど深いものではない。 とはいえ、TVRはいまや英国で最も大きい地場メーカーだから、SP6ユニット搭載モデルをもって、ブリティッシュスポーツの伝統を語ってもいいのだろう。
中低回転域を重視したツインカムエンジンを載せ、乗り心地にも配慮した“大人のための”TVR。オプションを装着すると、ポルシェ911カレラクーペにも手が届く価格になるが、そこで迷うようなヒトは、サーブラウを買うまい。作り手も、買い手も、不惑のスポーツカーなのだ。
(webCGアオキ/写真=河野敦樹/2001年3月)
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【お知らせ】モーターホーム 「バーストナーT604」
TVRを輸入する(株)エイチアンドケイコーポレーションは、1924年から家具作りを始め、58年からモーターホームを手がけるドイツのメーカー、バーストナーの総輸入元でもある。2001年7月1日から、バーストナーの中堅モデル、Tシリーズ「T604」の日本での販売を開始する。
T604は、フィアット「デュカト」のシャシーに、バーストナーが上屋を構築したもの。3770mmのホイールベースに、全長×全幅×全高=6380×2290×2640mmのアルミボディを載せる。車重は、2930kg。ダイニング、キッチン、シャワー、トイレ、2つのダブルベットを備え、6名が乗り、4人が眠ることができる。
エンジンは、2.8リッター直4ディーゼルターボ。通常のディーゼルユニット(TD)のほか、コモンレール式エンジン(JTD)も用意され、後者の場合、127ps/3600rpmの最高出力と、29.0kgm/1800rpmの最大トルクを発生する。トランスミッションは、5段MTとなる。
価格は、TDが608.0万円、JTDが628.0万円。車内のレイアウト、装備、アクセサリー類は、数多くのオプションから選択可能だ。

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。