ホンダN-ONE RS(FF/6MT)
熟成のうま味 2026.02.10 試乗記 多くのカーマニアが軽自動車で唯一の“ホットハッチ”と支持する「ホンダN-ONE RS」。デビューから5年目に登場した一部改良モデルでは、いかなる改良・改善がおこなわれたのか。開発陣がこだわったというアップデートメニューと、進化・熟成した走りをリポートする。外観はほぼそのままで各部をアップデート
今回試乗したN-ONEは、2025年11月に一部改良を受けた最新型だ。通算2代目となる現行型としては、2020年11月のデビューから丸5年での、2度目の改良である。となれば、すでに次期型のウワサが出ていても不思議ではないタイミングだが、実際のところ、そのような話は聞かない。先日の「スズキ・ワゴンR」の試乗記(参照)でも書かせていただいたが、非スライドドアの軽乗用車(以下、軽)は販売台数が減少気味で、どうしても長寿化しがちだ。
しかも、N-ONEの場合は、初代から2代目への世代交代も、上屋の外板はそのままに中身=プラットフォームや内装だけを刷新するという(2014年の「トヨタ・プロボックス」の大幅改良に似た)独特のフルモデルチェンジだった。なので、N-ONEは2012年の初代発売から13年以上にわたって、基本的な外観が変わらずつくり続けられているわけだ。
N-ONEはFF車だと全高が立駐対応の1545mmとなるが、パッケージ的にはハイトワゴンである。ホンダにはもうひとつ、「N-WGN」というハイトワゴンもあり、販売台数もN-ONEの上をいく。しかし、N-ONEは今も年間2万台近く売り上げていて、やめるのはもったいない。というか、N-ONEは、かつてのクラシック「Mini」よろしく、このカタチのまま限界まで生き続けたほうがいい気もする。
……とホンダも考えているのか、今回の一部改良でも、外観はほぼそのまま、各部のアップデートとラインナップや仕様内容の整理・見直しが実施された。N-ONE全体に共通するアップデートでは、ADASの「ホンダセンシング」が従来のミリ波レーダー+単眼カメラ式から、最新の単眼カメラ式にあらためられた。さらに2スポークのステアリングホイールや7インチTFT液晶メーターパネルも、最新ホンダ軽と共通となった。あと、細かいところでは前方パーキングセンサーも全車標準化されている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
潔くMTオンリーの設定に
ご覧のとおり、今回試乗したのはRSだが、RSこそがN-ONE最大の存在意義と考えるカーマニアも多いだろう。正面からスポーツモデルと呼べる軽は、いまはN-ONE RSと「ダイハツ・コペン」だけだからだ。しかも、コペンは生産終了が決まっているし、スポーツ性と実用性を兼ね備えたいなら、事実上、この軽“ホットハッチ”しか選択肢はない。
N-ONE RSで注目すべきは、今回からCVTが廃止されて6段MTのみとなったことだ。このご時世にあえてN-ONE RSを買おうという好事家にとっては、ほぼMT一択なのは容易に想像がつく。どうしても2ペダル……という向きには、同じN-ONEの「プレミアムツアラー」がある。内外装の仕立てはRSとは少しちがうが、エンジンやタイヤサイズは共通なので、絶対的な性能はRSに引けを取らない。
このRSも外観は従来とほぼ変わりない。ただ、細かい変更はいくつかあって、ホイールが白くなり、フロントバンパーにリップスポイラー的な加飾が追加された。ホワイトホイールには、筆者のような中高年は“走り屋小僧”っぽくて懐かしいと思わせる。
また、資材費高騰のおり、コスト抑制も不可欠で、車体色が従来の6種から3種へ半減された。具体的には、「プレミアムイエロー・パール」と「ブリティッシュグリーン・パール」、「メテオロイドグレー・メタリック」がなくなった。イエローは軽スポーツの定番色だったはずだが、最近は不人気のようだ。
走りのメカニズムやチューニングにまつわる変更は、公式にはアナウンスされない。実際、エンジンはピーク性能だけでなく、制御も変わっていないようだし、タイヤ、バネ、ショックなどの設定も不変という。しかし、運転席に座ると、新たに「ウルトラスエード」を使ったシートの肌ざわりがいい……以上に気になったのが、ステアリングホイールがちょっと遠いことだった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
より上質に感じるシャシーの秘密
ただ、これは実際に従来型よりステアリングが遠くなったわけではなく、直前に電気自動車の「N-ONE e:」に試乗したばかりだったからだ。ご承知のように、N-ONE e:はN-ONEよりステアリングをドライバー側に37mm近づけているのだが、それは電気自動車化によって衝突安全面で余裕ができたからで、エンジン車のN-ONEは従来のまま。もっとも、背が高すぎも低すぎもしないN-ONEは、ドラポジも軽では良好な部類に入る。また、ステアリングから自然に手を伸ばしたところあるインパネシフトも、相変わらず具合がいい。
走りはあらためて、お世辞ぬきに心地よく、そして楽しい。RSはパワステの操舵力設定も含めて専用チューンとなる。わりと素直に引き締まっていた初代と比較すると、車体剛性の向上に加えて、ロール剛性は大きく引き上げつつ、コイルのバネレートは少し下げる……という調律が、いかにもツボを得ている。リアがしっかりと根を張った安定した基本特性ながら、ステアリングは正確だ。
しかも、ロールは最小限なのにしなやかにストロークして、豊潤な路面感覚を伝えてくるところなどは、明らかに軽のレベルを超えている。こうした部分の質感ではN-ONEというか、「Nシリーズ」全体が一頭地をぬいている部分だが、軽くて低重心なN-ONE……のなかでも、シャシー部品によりコストと手間をかけたRSはさらに上質というほかない。しかも、微妙なアクセルのオン/オフ操作に絶妙に応えてくれるスムーズで高精度な荷重移動こそ、RSの真骨頂だろう。
それにしても、シャシー各部の設定は変わっていないはずなのに、日常域でのストローク感やフラット感も以前より増した気が……というわけで、ホンダに問い合わせると、今回の改良モデルから、N-ONEでも「N-BOX」などと同様の“1G締め”が導入されたという。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
見た目に新味はないけれど……
ここでいう1G締めとは、生産ラインでのシャシー部品の組みつけを、人が乗った実際の走行状態と同様の荷重をかけた車高(その乗員数とウェイトは非公開)でおこなうというものだ。サスペンションが伸びた状態で組みつけると、実際に地面に置くとブッシュなどにねじれ方向の応力がかかったままになってしまうが、それを解消するのが1G締めのココロ。1G締めを実施することでサスペンションはよりしなやかに設計どおりに働くようになる……というのが定説で、それは今回の印象にも合致する。
パワートレインも、これが軽だと思うと、文句のつけようがない。もともとは「S660」を想定して開発されたパワトレだが、電動ウェイストゲートなどはS660にはなかったハイテクである。低速から十二分なトルクが出るのはいかにも現代のエンジンだが、4000rpmから力とレスポンスを増すのが気分だ。エンジン音も軽らしからぬ野太さだし、カチカチと正確かつ操作量の少ないシフトフィールも、市販の横置きギアボックスとしては屈指のデキといっていい。これを超えるのは、個人的には「シビック(タイプRを含む)」くらいと思う。
あの「スイフトスポーツZC33Sファイナルエディション」の受注も終了した今、アマチュアドライバーが公道で留飲を下げられるホットハッチは、本当にN-ONE RSだけになってしまった。モデルチェンジが困難なら、それでもいい。物理的につくれるところまでつくっていただいて、クラシックMiniは無理でも、それを思わせる存在になってほしい。
もっとも、見た目は新味のないN-ONEだが、中身はあくまで最新のNである。新しい軽用ホンダセンシングも、単眼カメラ式という構成じたいは以前よりシンプルになったものの、カメラを広角化・高精度化することで基本性能や機能は向上している。とくにエアバッグ展開に連動する「衝突後自動ブレーキシステム」などは、N-BOXにはまだ装備されていない最新の安全技術だ。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一/車両協力=本田技研工業)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ホンダN-ONE RS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1545mm
ホイールベース:2520mm
車重:840kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:64PS(47kW)/6000rpm
最大トルク:104N・m(10.6kgf・m)/2600rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:21.6km/リッター(WLTCモード)
価格:227万8100円/テスト車=272万4150円
オプション装備:オプション装備:ボディーカラー<フレームレッド&ブラック>(6万0500円) ※以下、販売店オプション 9インチプレミアムインターナビ<LXU-247NBi>(24万3100円)/ナビ取り付けアタッチメント(4400円)/ナビパネルキット(1万1000円)/デジタルフィルム用アンテナ(7150円)/ETC2.0車載器(2万3100円)/ETC2.0車載器取り付けアタッチメント(7700円)/ドライブレコーダー(5万9400円)/フロアカーペットマット(2万9700円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:670km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(3)
テスト距離:317.3km
使用燃料:18.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.1km/リッター(満タン法)/17.7km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
メルセデス・ベンツCLA220シューティングブレーク(FF/8AT)【試乗記】 2026.9.21 メルセデス・ベンツの「CLA」がフルモデルチェンジ。シャシーやパワーユニット、さらにインフォテインメントシステムなど、すべての要素を刷新したとされる、メルセデスの次世代を切り開くモデルだ。1.5リッターハイブリッドの「シューティングブレーク」を試す。
-
ホンダ・シビックe:HEV RS(FF)【試乗記】 2026.9.19 ホンダのCセグメントハッチバック「シビック」に、スポーティーな走りが身上の「e:HEV RS」が登場。ハイブリッドのパワートレインと専用チューニングのサスペンションが織りなす走りは、いつもの道でこそ輝くものに仕上げられていた。
-
BYDラッコ300プレミアム(FWD)【試乗記】 2026.9.16 中国BYDの軽スーパーハイトワゴン「ラッコ」がいよいよ日本の道を走り始めた。価格の安さや装備の充実度はすでに報じられているとおりだが、やはり自動車の仕上がりは実際に動かしてみなければ分からない。高速道路やワインディングロードでの印象をリポートする。
-
マツダ・ロードスターPS/ロードスターS/ロードスターRF VS【試乗記】 2026.9.15 デビュー以来、不断の進化を続ける「マツダ・ロードスター」。2026年の改良は、“走り”の特別仕様車「PS」の設定が話題だが、試乗すると、ほかにも多くの変化が見てとれた。日本を代表するライトウェイトオープンスポーツの、最新モデルの仕上がりを報告する。
-
スズキ・ジムニー ノマドFC(4WD/5MT)【試乗記】 2026.9.14 「スズキ・ジムニー ノマド」でロングドライブ。本格クロカンとして悪路での走りに定評あるジムニーの5ドア・ロングボディー版は、カジュアルなSUVとしても使えるのか。多くの人が多くの時間を過ごすであろうオンロードにおける日常的シーンで、その実力を確かめた。
-
NEW
フェラーリ・アマルフィ(FR/8AT)【試乗記】
2026.9.22試乗記フェラーリの最新ラグジュアリークーペ「アマルフィ」に試乗。2+2のシートレイアウトを持つ優雅な一台は、その姿にたがわぬ快適な乗り心地を備える一方で、スーパースポーツにも比肩する高いパフォーマンスも秘めたマシンとなっていた。 -
NEW
「長く愛されるクルマ」の開発で大事なことは?
2026.9.22あの多田哲哉のクルマQ&A欲しかったクルマを購入したなら、長く付き合いたいと思うユーザーは多いはず。では、“長く愛されるクルマ”を実現するための条件とは何か? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんに聞いてみた。 -
メルセデス・ベンツCLA220シューティングブレーク(FF/8AT)【試乗記】
2026.9.21試乗記メルセデス・ベンツの「CLA」がフルモデルチェンジ。シャシーやパワーユニット、さらにインフォテインメントシステムなど、すべての要素を刷新したとされる、メルセデスの次世代を切り開くモデルだ。1.5リッターハイブリッドの「シューティングブレーク」を試す。 -
新型「三菱パジェロ」の走りを支えるテクノロジー 「スーパーセレクト4WD-II」って何だ?
2026.9.21デイリーコラム2026年10月末の国内正式発表が待たれる新型「三菱パジェロ」。その価値の多くを占める「悪路走破性」は、どんな技術に支えられているのか? 「SS4-II」「S-AWC」といったキーテクノロジーについて深堀りしてみよう。 -
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(前編)
2026.9.20思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「アウディQ3」に試乗。先代から大きく変わったのはエクステリアだけではなく、新たなデバイスを採り入れるなどして操作系も一新した意欲作だ。レジェンドドライバーの評価やいかに。 -
ホンダ・シビックe:HEV RS(FF)【試乗記】
2026.9.19試乗記ホンダのCセグメントハッチバック「シビック」に、スポーティーな走りが身上の「e:HEV RS」が登場。ハイブリッドのパワートレインと専用チューニングのサスペンションが織りなす走りは、いつもの道でこそ輝くものに仕上げられていた。


















































