メルセデス・ベンツ S500【海外試乗記(後編)】
デジタルを駆使したアナログ(後編) 2005.10.05 試乗記 メルセデス・ベンツ S500 フルモデルチェンジを受けた「メルセデス・ベンツ」のフラッグシップ「Sクラス」は、さらなるハイテクで武装していた。その成果と意義を、ロングディスタンスの試乗で探った。小さいクルマに乗っているよう
スタート前にシートサポートアジャストを試みる。簡単にいうと、自分の体に合ったシートポジション探しを助けるシステムである。非常に多くの調整機構、あるいはマッサージ機能を持つにもかかわらず、コマンドコントローラーを操作し、正面のモニターに映るわかりやすいグラフィック表示を見ながら、すぐさま好みのサポートを発見できた。BMWのiDriveとの比較だが、後発だけにその操作性は整理されていて使いやすい。とはいえ、ある程度の慣れが必要なシステムでもあるが。もちろん、昔ながらのシート型スイッチ調整機構も残されている。
キーレスGOシステムによって、スターターボタンを押すだけでエンジンは静かに目をさます。ちなみにこのスターターボタンは通常のキースロットにはめ込むシステムだが、私はこれを外して古典的にキーを差し込んだ。この方がキーの置き場を心配することはないからである。忙しい試乗会ではとくに、エンジンをかけたまま鍵を持って車外に出たりしてしまうので心配でもある。
この日のテストコースはミラノ空港からアウトストラーダと一般道、さらにアルプスの峠道を含むおよそ280kmのロングディスタンステストである。
出発地点のホテルの中庭から走り出して、まず気付くのは取りまわしのよさだった。ステアリングホイールの切れはよく、回転半径は5.9メートルと中型車並みである。またボディの見切りもイイので、ボディサイズに比してグっと小さなクルマに乗っているような感じがする。
スポーティなステアリングフィール
アウトストラーダに乗り入れて感心したのは、NVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)抑制のレベルが先代に較べて2段階ほどアップしていることだった。明らかにレクサスを目標にしての成果だろう。とても静かで快適である。
Sクラスの開発担当ディレクターのフランク・クノーテ氏は、メルセデス・ベンツ開発陣のなかでも最古参で「礎」とあだ名される人物だが、彼はたしかにレクサスを研究したことを認め、さらにノイズをすべて遮断するのではなく、音は残したという。つまりオーケストラの指揮者のように不快な雑音は消したが、心地よい響きは残した。「これが新しいSクラスの思想です」と説明してくれた。
その言葉通り、新しいV8はスポーティに走ると気持ちのよいインテークサウンド、そして窓をわずかに開けると後方からはエグゾーストサウンドが、適度に届いてくる。
Sクラスが真っ直ぐ、快適に走るのはある意味当然だ。アウトストラーダでの走行で明らかになったのは、これまで以上にシャープになったステアリングフィールである。旧モデルでは、というよりメルセデス・ベンツすべてのモデルは中立付近に意図的な“遊び”があって、高速走行時に、ある程度の快適性に貢献してきた。しかし、今度のSクラスではこの特性を改め、スポーティでシャープな方向に振ったのだ。そのため、特に直進時から切り込むときのステアリングフィールが、ポジティブな意味でエレクトリックステアリングのように感じられる。別に慣れればまったく問題のない操作フィールだが、旧来の感触に慣れたヒトには、違和感があるかもしれない。
あくまで人間中心
機能面も充実した。日本でもアッパークラスを中心にポピュラーになってきた自動車間調整機能付き追従システム(メルセデスではディストロニック・プラス(DISTRONIC PLUS)と呼ぶ)は、ミリ波レーダーで前方のクルマとの距離を感知して、車間を自動的に調節してくれるクルーズコントロールである。内容は日本メーカーのそれと非常に近いが、ヨーロッパのドライブロジックに合わせて信号のゴーストップ、つまり停止時から時速200km/hまでカバーするのが大きな違いだ。また、今回初めて採用されたのが「ブレーキ・アシスト・プラス」である。これは、2001年デビューの現行SLクラスで登場した、ブレーキ・バイ・ワイヤーたる「センソトロニック・ブレーキ・コントロール(SBC)」がさらに進化を遂げたものた。これも前述のミリ波レーダーの感知機能を利用したもので、追従車のスピードに対して前車との間隔が狭すぎ、追突の危険性があると判断されるとブレーキが介入、追突事故を未然に防ぐ。これらはメルセデス・ベンツ独自の安全システム、プリセーフ(PRE-SAFE)思想に基づく機能である。
また、ナイトビジョンも売りの一つである。アウトバーンを含むドイツの一般道路には基本的には日本のような照明はなく、視界は常にヘッドライトに頼っている。それ故、ドイツでこのシステムは日本以上に活躍するだろう。ちなみにこのナイトビジョンの映像はコックピット中央、通常ではスピードメーターが映し出されるモニターに登場する。といえばご想像いただけるかと思うが、今度のモデルのスピードメーターは針も含めて、コンピューター画面の映像なのだ。
新しいSクラスはこのスピードメーターに象徴されるようなハイテクスーパーリムジンである。しかし興味深いのはあくまで人間中心に作られていることだ。つまりデジタル技術を駆使しながらも、ドライバーやパッセンジャーに対してアナログなメッセージを大事に送り届けるのである。
人間が操作する移動システム、自動車というものをヨーロッパ流のモビリティに沿って正しく理解したクルマ作りが、新型Sクラスにはあった。
(文=木村好宏/写真=ダイムラー・クライスラー日本/2005年10月)
・メルセデス・ベンツ S500(前編)
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000017220.html
-
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】 2026.7.18 ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。
-
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】 2026.7.17 「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。
-
フェラーリ849テスタロッサ スパイダー(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.7.15 歴史ある車名が与えられた「フェラーリ849テスタロッサ」は、従来型から大幅な進化をとげた高性能スポーツカーだ。では、そのオープントップバージョンの走りはどうか? 日本での発売を前に、フェラーリ通として知られる西川 淳が試乗した。
-
ポルシェ・カイエン ターボ エレクトリック(4WD)【試乗記】 2026.7.15 ポルシェ最新の電動ハイパフォーマンスSUV「カイエン エレクトリック」。そのラインナップのなかでも、最高峰に位置するのが「カイエン ターボ エレクトリック」だ。最高出力1156PS、最大トルク1500N・mという、とてつもないパフォーマンスの一端に触れた。
-
プジョー308 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2026.7.14 マイナーチェンジで内外装がブラッシュアップされた「プジョー308 GTハイブリッド」に試乗。大胆なデザインのフロントフェイスに目を奪われるが、ステランティス自慢の1.2リッター直3マイルドハイブリッドを搭載する最新モデルの仕上がりと走りやいかに。
-
NEW
電気自動車の人工的な走行音はどうあるべきか?
2026.7.21あの多田哲哉のクルマQ&AEVの走行時に車内で聞こえてくる人工的な“音”は、本来、どうあるべきなのか? やはり、疑似エンジン音が最適なのか? トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんの考えを聞いてみた。 -
NEW
アストンマーティン・ヴァンテージS(FR/8AT)【試乗記】
2026.7.21試乗記アストンマーティンの擁するFRスポーツ「ヴァンテージ」が、より高性能な「ヴァンテージS」に進化。よりたくましいエンジンを獲得し、卓越したコーナリング性能に磨きをかけつつ、“優しさ”も身につけた最新モデルの走りを報告する。 -
第340回:一にエンジン、二にカッコ
2026.7.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。マツダ渾身(こんしん)のラージ商品群を応援するカーマニアのひとりとして、「CX-60」と「CX-80」の動向は常に気になっている。3列シートSUV、CX-80の最新モデルにあらためて試乗して感じたこととは? -
日産は“再挑戦”でホンダは“終了” 新型「エルグランド」発売に見る、プレミアムミニバンの今
2026.7.20デイリーコラムトヨタが圧倒的なシェアを占める上級ミニバンの世界において、新型「エルグランド」で復権をねらう日産。しかし、なぜフルモデルチェンジは16年ぶりになったのか? ホンダはどうするのか? この市場の今を考察する。 -
ホンダ・インサイト(FWD)【試乗記】
2026.7.20試乗記3000台の限定で販売される新型「インサイト」は、クロスオーバー風のフォルムと、これまでのホンダ車にはなかった内外装のデザインテイストが新鮮だ。中国で生産され、日本独自の名前が与えられた新型電気自動車の走りと仕上がりを、ロングドライブで確かめた。 -
ポルシェ911カレラT(後編)
2026.7.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルとSTIでクルマの走りを鍛え、モータースポーツにも積極的に取り組んできた辰己英治さん。彼の目に、“スポーツカーの水準器”こと「ポルシェ911」はどのように映ったのだろう? 走りの楽しさを追求した「カレラT」グレードに乗っての印象を聞いた。
































