スマート・フォアフォー(2ペダル6MT)【海外試乗記】
主旨の変更 2004.02.21 試乗記 スマート・フォアフォー(2ペダル6MT) シティコミューターの「スマート」に追加される、「三菱コルト」ベースの4人乗りモデル「フォアフォー」。スマートの普及率が高いというローマで、自動車ジャーナリストの河村康彦が試乗した。
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拡販戦略の一環
「スマート」は“究極のミニマム・トランスポーター”に与えられた車名……ちょっと前までは、誰もがそのように認識していたはずだ。わずか2.5m(!)の全長に、ベンツ流儀の衝突時安全性を持つ「トリディオンセーフティセル」を組み込み、ユニークなデザインで包んだ、「スマート・シティクーペ」などの2シーターモデル。混雑の度合いを増す都市空間で「いかに路面占有面積を削減するか」という課題に、なりふり構わぬ明快な姿勢で取り組んだクルマだった。
しかし、新しい試みには、ときとして厳しい試練が待ち構える。「スマート」の場合は、メーカーの予想を大幅に下まわる販売成績が、プロジェクトに携わる人々を悩ませることになった。彼らは考えたことだろう。「このままプロジェクトを終らせるワケには行かない……」。それでは、いかにして販売台数を上乗せするのか?
彼らが選んだ道は、ボディバリエーションを大幅に拡充する戦略だった。もはや“2.5m”にはこだわっていられない。そこで、前後方向の寸法を拡大するかわりに全高を落とし、スポーティなキャラクターを与えた「スマート・ロードスター」と「ロードスター・クーペ」を、2002年にリリース。
そして2003年のフランクフルトショーで、台数を上乗せするのにもっとも効果的と考えられる、4人乗りパッケージが提案された。パートナー企業である三菱自動車工業とのコラボレーションのもとに誕生した「forfour」(フォアフォー)がそれである。
車名からブランドへ
かくしてスマートは、車名からブランドを示すネーミングへ、名実ともに意味合いを変えることになった。ちなみに、「三菱コルト」とハードウェアの多くを共用する「forfour」の誕生を期して、“2.5m”カーには、2人であることを示す「fortwo」なる名称が与えられた。
forfourの骨格は、三菱コルトと基本を共にするスチール製のモノコックボディ。スマート社では「fortwo同様にトリディオンセーフティセルを採用」とアピールするが、そのコメントにはプロモーション的な意図が多く含まれるように思える。ちなみに、ボディ担当エンジニア氏によれば、トリディオンセーフティセルとモノコックボディとの違いは「前者は衝突時に変形しない。樹脂製のアウターパネルが装着可能」など、一応の定義づけがあるようだが……。
forfourの国際試乗会は、“世界でもっともスマートの普及率が高い都市”であることに敬意を表してか、イタリアはローマを起点に開催された。テスト車は、1.3リッター、および1.5リッターのガソリンエンジンを搭載した2モデルだ。
forfourに積まれるエンジンは、すべて新しいユニットで、ガソリンは三菱主導、ディーゼルはダイムラークライスラー主導で開発されたものだという。ちなみにこのユニットは、間もなくデビュー予定の欧州向けコルトにも搭載される。さらに、ガソリンユニットは、日本仕様のコルトにも近々積まれる予定だ。
ずいぶんデコボコ
それにしても、fortwoを見慣れた目からすると、forfourは随分“普通のクルマ”に映る。確かに、ツートーンのボディカラーによって、それなりにユニークな姿をアピールするが、基本的なシルエットは常識的なものといってよい。
スリーサイズは、3752×1684×1450mm。ホイールベースは2500mmでコルトと同一だ。一瞬半ドアと見間違えそうなほど、ボディパネル間の“ちり”が大きいのは、膨張率の異なる樹脂とスチールのハイブリッドボディだからだろう。すべてのモデルで1トンを下まわる軽量をアピールする一方、サイドウインドウまわりを含め、ボディ表面のデコボコは、現代のクルマとして明らかに激しい……。
テキスタイル貼りの逆インバース型ダッシュボード、ダッシュアッパーから生える補助メーターなど、インテリアは明らかにfortwoとの整合性を狙ったデザインだ。リアシートは前後150mmのスライド機構付きである。欧州仕様は2人がけが標準で、3人がけがオプション設定だが、日本仕様では恐らく後者が選択されるだろう。
コルトとまったく違う
エンジン透過音は小さいとはいえないが、加速感は1.3リッターでも、予想以上に軽快で活発。個人的に、このクルマのキャラクターには、こちらの心臓で十分と思えた。公表された最高速度は、1.5リッター車が190km/h、1.3リッターは180km/hと、10km/hしか変わらないのである。
forfourが搭載する2ペダル式6段トランスミッションは、クラッチ操作をロボットが肩代わりする、いわゆる2ペダルMT。動力の伝達効率は、トルコンATやCVTよりも上の理屈である。
fortwoにはなかったクリープ現象を実現したこともニュースだ。動き出しのトルクが小さい一方、最終的にはそれなりに高いスピードが出るという、いささか違和感のあるものながら、日本のマーケットにとって朗報。ただし、その機構上、加速時のトルク断絶は避けられないから、スムーズさではトルコンATやCVTには及ばない。
2台乗ったテスト車のいずれも、50%扁平のタイヤを履いていたからか、低速時における路面凹凸の吸収性は、あまり高いレベルとはいえない。が、スピードが増すと、このクルマが意外にも“ネコ脚”の持ち主であることに気付いた。EPS(=電動パワーステアリング)を用いながら、路面とのしっかりしたコンタクト感がある点など、このあたりのテイストはコルトとまったく違う。
違うといえばシートのタッチも、フワフワと捕らえどころのないコルトのそれとはやはり別モノだ。もっとも、このforfourと同じオランダ工場で生産される欧州向けのコルトのシートは「これとかなり近いもの」ということだ。
いまやダイムラークライスラー・グループ内でのひとつのブランドへと昇華したスマート。2005年にはforfourのブラバス仕様、06年には、SUVテイストを加えて北米マーケットを狙う「formore」を発売することを公表済みだ。趣旨替え、いや、主旨を変えたスマートが、ここに来て一気にスパートをかけ始めたのである。
(文=河村康彦/写真=ダイムラークライスラー/2004年2月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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