フェラーリ F430スパイダー(MR/2ペダル6MT)【試乗記】
快適の極みはF1譲り 2005.09.07 試乗記 フェラーリ F430スパイダー(MR/2ペダル6MT) ……2541万9000円 「360モデナ」の後継たる「F430」に、オープンモデル「F430スパイダー」が加わった。F1テクノロジーがつぎ込まれた最新のフェラーリに試乗した。 拡大 |
拡大 |
オプションで166万円
ステアリングホイールには、左下にスタートボタン、右下には走行モード切り替えスイッチ「マネッティーノ」が赤く輝く。そして真ん中にはもちろん、鮮やかなイエローの円の中に鎮座する跳ね馬の紋章。裏側には2本のパドルが、今や当然のように備わる。
だから、「F430スパイダー」のコクピットに収まったときに見える光景は、どうもTVゲームっぽい。F1からフィードバックされた技術を使っているわけなのだが、形として表れるのは電子端末としての姿だから仕方がない。そのかわり、内装やダッシュボードの作り込みを見ると、以前と比べて明らかに上質さがアップしているのがわかる。シートはホールドのよさを保ちながらも、ふうわりとした感触で身体を包み込む。このへんは、ラクシャリー&プレミアムをテーマにした演出が成功している。
2005年3月にイタリア大使館で行われたF430発表会では、360モデナと比べて迫力を増したエクステリアが印象的だった。スパイダーの実物を見るのは初めてなのだが、やはりクーペよりもエレガントなイメージである。
試乗車はオプションも盛りだくさんで、ナビゲーションシステムとETCがついていたのは大いにありがたかった。幅の広いクルマで左ハンドルというのは、ETCの恩恵がもっともよく感じられる組み合わせなのだ。右リアのホイールを擦ることを思えば、安い投資である。ただ、カーボンセラミックブレーキのオプション価格は166万円で、これはさすがに伊達や酔狂では選べない。
早朝は反社会的
ブレーキがコンパクトカー並みの値段であっても、運転の作法が特段変わるわけではない。スタートボタンを押すと、背後で快音が弾けてクルマの素性を声高に主張する。発進させるには、右のパドルを引いてメーターの中に表示されている「N」を「1」に変えればいい。あるいは、バックするならばセンターコンソール上の「R」のボタンを押す。ちなみに、そのすぐ手前には「オートモード」と「マニュアルモード」の切り替えスイッチがあるので、間違えないように注意する必要がある。
早朝の住宅街では、軽率にアクセルを踏むと反社会的との誹りを受けかねないので、ATモードにしてそろそろと進む。駆動系が暖まっていないせいか、サスペンションの動きが少々ギクシャクする。しかし、大通りに出てしまえばまったく神経を使わずにフツーに走れる。さほど幅も気にならないし、そこそこスピードが出れば変速ショックも驚くほど少なくなる。前のクルマがルームミラーを見てよけるものだから、仕方なく左のパドルを引いて右足に力を込めてみる。素晴らしい音色の咆哮に押されるようにしてかっ飛んでいくが、すぐに赤信号が行く手を阻む。
今回は名古屋までの往復というロングドライブでの試乗ができた。中央高速にのって目的地を目指すが、片道350kmという長丁場だ。ラクチンに行こうと思って、ATモードのままで運転することにする。流れにのって走っていると、どんどんシフトアップしてすぐに6速に入ってしまう。2000回転からスロットルを開けても平気で加速していくのだが、やはりリズムよく走るにはシフトダウンして回転を上げたくなる。ATモードでもパドル操作は有効なので、「シフトダウンして加速――しばらく巡航しているうちに勝手にシフトアップ」という繰り返しになる。こうなると、ATモードにしておく意味はないので、マニュアルモードに戻してしまった。
F1テクノロジーを試す
せっかくだから、F1由来のテクノロジーであるマネッティーノを試してみることにした。5つのモードの真ん中が「sport」になっていて、これがデフォルト。ひとつ上の「race」を選んでみた。これでダンパーの減衰力、ギアチェンジのスピードなどが変化するわけで、たしかにスポーティな走りになったような気が……した。正直なところ、実際にどれほどの運動性能の差があるのかはよくわからないのだが、こういうものは気分に作用すればそれでいいのだ。もうひとつ上のモードもあったのだが、これは「CST(コントロール・フォー・スタビリティ&トラクション)」をカットしてしまうものなので、危険を感じて自粛。
F1由来のテクノロジーはもうひとつ採用されていて、それが電子制御ディファレンシャルの「E-Diff」である。あらゆる条件下で、駆動力の伝達を飛躍的に高めるとの触れ込みだが、この機構の働きを実感したいならばサーキットへ行ったほうがいいのだろう。
トップの開閉は、もちろんスイッチ操作だけで行える。20秒ほどでフルオープンとなり、風の巻き込みを気にすることなくドライブが楽しめた。乗り心地、運転のしやすさ、快適なオープンモータリング。そういった部分において、360モデナに比べて明らかによくなっていることは容易に理解できた。コーナリング性能やパワー特性に関しても、格段に進化しているのは疑うことができないが、なにしろこのF430スパイダーは街乗りでもストレスなく楽しめてしまうクルマである。高性能の民主化がたどり着いた地点の遥かなることに、誰が驚きの念を持たずにいることができるだろうか。
(文=NAVI鈴木真人/写真=荒川正幸/2005年9月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】 2026.8.31 フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】 2026.8.29 「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。
-
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.25 BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】 2026.8.25 カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。
-
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2026.8.24 スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。
-
NEW
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。 -
NEW
BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.9.2試乗記BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。 -
スポーツカーに未来はあるか?
2026.9.1あの多田哲哉のクルマQ&A年々、開発環境が厳しくなるといわれるスポーツカーは、この先も存在しうるのか? トヨタのエンジニアとしてさまざまなスポーツカーを開発してきた多田哲哉さんに“未来のスポーツカー像”を聞いた。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.9.1試乗記2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。 -
“自然を連想する車名”の名車特集
2026.9.1日刊!名車列伝暑さが和らぐ一方で、台風シーズンとも呼ばれる9月。その風をはじめ、星座、景観など自然を連想させる名前が与えられた、世界の名車を日替わりで紹介します。 -
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの?
2026.8.31デイリーコラム自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。










