第65回:花粉症はナゼ発症するのか〜答えは日光に〜(その2)(矢貫隆)
2005.08.30 クルマで登山第65回:花粉症はナゼ発症するのか〜答えは日光に〜(その2)(矢貫隆)
■スギ花粉症の増加原因
時期はずれの話題だが、実は僕はスギ花粉症持ちである。10年近く前の春のある日、何の前触れもなく花粉症の症状がでたのが始まりだった。
「いきなり花粉症の話なんて始めて、どうしたんですか?」
実はな、A君。僕は日光にくると花粉症を思いだしてしまうんだ。
「何故!?」
スギ花粉症が日本で最初に報告されたのが日光市でのことだったからだよ。
「最初と言えば、紀元前2300年頃に栄えたバビロニアの文字に花粉症に関する記述があると聞いたことがありますが……」
物知りだな。古代ローマの時代にも花粉症はあったというから、要するに花粉症というアレルギー疾患は、もっぱら牧畜で枯れ草を扱う国では遥か昔から存在していたと言っていい。
日本で最初の花粉症の報告例は、東京でたった一例だけれどブタクサ花粉症が1961年にあった。そして、社会問題にまでなっているスギ花粉症は、それから2年後の63年、日光市で二十数例が報告されたのが最初だった。つい最近の話なのである。
「東照宮の周辺には、東照宮建設の時代、500年ほど前に静岡県から運んで植林した杉が巨木化して立ち並んでいます。だから昔からスギ花粉症のメッカだったわけですね」
人の話をちゃんと聞けよ。スギ花粉症の発見は63年で、昔の話ではない。東照宮の廊下は、春ともなればスギ花粉で黄色くなるというし、この地方の子どもたちは、戦前、スギの雄花を使った杉鉄砲で遊んだともいう。
だけれども、それでも63年までスギ花粉症は発見されていなかった。
にもかかわらず、63年以降、スギ花粉症を含む花粉症の罹患者数は年を追うごとに増えている。
日光地区(日光市および今市市)の1183人を対象として74年に実施された問診調査によれば、スギ花粉アレルギーと判断されたのは45人(3.8%)だったが、77年には5.8%に、81年には9.4%に、86年の1862人を対象とした調査では304人(16.3%)まで増えていた。
こうした傾向は東京でも同様に見られた。都の衛生局が98年にだした『花粉症対策総合報告書』は次のように書いている。
「東京都のスギ花粉症の有病率は過去10年の間に約2倍に増加し、現在およそ5人に1人がスギ花粉症患者であると推定された」
「『木の話』(※)に書いてあったとおり、戦後の拡大造林政策と、その後の林業政策の失敗で人工林は荒れ放題ですからねぇ。飛散するスギ花粉の絶対量が増えている」
確かにそれがスギ花粉症の増加原因のひとつになっている。でも、それが原因のすべてじゃない。(つづく)
(文=矢貫隆/2005年8月)
※「クルマで登山」第40回から47回にわたり取り上げた。「webCG Members」(http://www.webcg.net/WEBCG/members_top/)の「webCGアーカイブ」に収録(要ユーザーID&パスワード、登録無料!)

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
-
最終回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機
その10:山に教わったこと(矢貫隆) 2007.6.1 自動車で通り過ぎて行くだけではわからない事実が山にはある。もちろんその事実は、ただ単に山に登ってきれいな景色を見ているだけではわからない。考えながら山に登ると、いろいろなことが見えてきて、山には教わることがたくさんあった。 -
第97回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機
その9:圏央道は必要なのか?(矢貫隆) 2007.5.28 摺差あたりの旧甲州街道を歩いてみると、頭上にいきなり巨大なジャンクションが姿を現す。不気味な光景だ。街道沿いには「高尾山死守」の看板が立ち、その横には、高尾山に向かって圏央道を建設するための仮の橋脚が建ち始めていた。 -
第95回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機
その7:高尾山の自然を守る市民の会(矢貫隆) 2007.5.21 「昔は静かな暮らしをしていたわけですが、この町の背後を中央線が通るようになり、やがて中央道も開通した。のどかな隠れ里のように見えて、実は大気汚染や騒音に苦しめられているんです。そして今度は圏央道」 -
第94回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機
その6:取り返しのつかない大きなダメージ(矢貫隆) 2007.5.18 圏央道建設のため、「奇跡の山」高尾山にトンネルを掘るというが、それは法隆寺の庭を貫いて道路をつくるようなものではないか。
-
NEW
開幕まで1週間! ジャパンモビリティショー2025の歩き方
2025.10.22デイリーコラム「ジャパンモビリティショー2025」の開幕が間近に迫っている。広大な会場にたくさんの展示物が並んでいるため、「見逃しがあったら……」と、今から夜も眠れない日々をお過ごしの方もおられるに違いない。ずばりショーの見どころをお伝えしよう。 -
NEW
レクサスLM500h“エグゼクティブ”(4WD/6AT)【試乗記】
2025.10.22試乗記レクサスの高級ミニバン「LM」が2代目への代替わりから2年を待たずしてマイナーチェンジを敢行。メニューの数自体は控えめながら、その乗り味には着実な進化の跡が感じられる。4人乗り仕様“エグゼクティブ”の仕上がりを報告する。 -
NEW
第88回:「ホンダ・プレリュード」を再考する(前編) ―スペシャリティークーペのホントの価値ってなんだ?―
2025.10.22カーデザイン曼荼羅いよいよ販売が開始されたホンダのスペシャリティークーペ「プレリュード」。コンセプトモデルの頃から反転したようにも思える世間の評価の理由とは? クルマ好きはスペシャリティークーペになにを求めているのか? カーデザインの専門家と考えた。 -
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。