第219回:「ロードスター」のチーフ、貴島エンジニアに直撃!徹底分析!“人馬一体感”のひみつとは?
2005.07.15 小沢コージの勢いまかせ!第219回:「ロードスター」のチーフ、貴島エンジニアに直撃!徹底分析!“人馬一体感”のひみつとは?
■あの“味”のヒミツ
大人気を予感させる新型「マツダ・ロードスター」。俺もハワイで乗って、相変わらずの運転の楽しさにビックラこいたわけだけど、いったいあの“人馬一体感” はどこからくるのか。当然アルミパーツは当然多用してるようだけど、軽量化だけでは語れなそうな独特のハンドリング。どうやったらあの“味”が出せるのか。いわゆる「ホイールべースとトレッドの比」や「重心位置と全高」などに“黄金率”みたいな決め事があるんではあるまいか? チーフエンジニアの貴島孝雄さんに聞いてみた。
■秘策はありません
小沢:新型ロードスターに乗ったとたん、「ああ、この味だ……」みたいな懐かしさというか、初代と変わらぬ走り味を感じたんですが、あれはどこから来るんでしょう。特有のボディ構造とかあるんじゃないですか。このラーメンのダシは秋刀魚の煮干から取ってる! みたいな(笑)。
貴島:そんな秘策みたいなものはありません。一番大きいのはヨー慣性モーメントと50対50の前後重量配分。それが決定的です。つまり、クルマが向きを変える時に抵抗になる力がどの程度かということです。
小沢:いわゆる“軽さ”ですね、ボディを回すときの。メチャクチャ正攻法ですね。重心の低さはどうですか。
貴島:低いに越したことはありませんが、決定的ではないです。ちなみに今回、ボディとしては重心が下がっているんですが、タイヤがデカくなったぶん相殺されてます。
小沢:決定的じゃないと言いつつ実質低くなってる(笑)。あれだけボディを強化した上で低重心化なんて凄いですよね。アルミパーツとか多用してますもんね。
貴島:そのほかバンパーレインホースメントにハイテンションスチールを使ったりして、剛性と軽量化を両立してます。単純にアルミを使えばいいってもんじゃないんです。
■感性を理論化した
小沢:乗ってて特有の「プルプル」した振動を感じるんですけど、どこから来るんですか。
貴島:パワープラントフレームですね。初代もそうですけど、ミッションとデフを結合して一体化させてますから、固有の振動が生まれるんです。そしてその結果、FRのマウント点を減らしてシンプルで強い構造にできると同時に、シャシーを長く一体化させることによって、走行中のピッチングも減らせます。
小沢:やっぱり味は独自のボディ構造からくるんですね。いいダシ出てますよ(笑)。それにしても感覚的な部分がすべて理論化されてるのは凄い。
貴島:3代目を作る前に、初代の主査の平井敏彦さんと一緒にSAE(Society of Automotive Engineers)論文を書きましたから。『感性エンジニアリング』というタイトルで、SAEとしては非常に変わってますけど、面白いと思いますよ。
■いい意味でオタク
小沢:ほかに“味の秘密”は?
貴島:「RX-8」は電動パワステなんですが、ロードスターは油圧式を採用してます。電動パワステはまだ未完成なところがあって、ステアリングホイールを切り込んでいったときにリニアなビルドアップ感がでない。また今回はボンネット、トランクリッド、フレームなどすべてアルミ製で、さらにアルミと鉄の接合には、まったく新しい摩擦点溶接という方法を使っています。
小沢:接着は使わなかったんですね。「ロータス・エリーゼ」みたいに。
貴島:接着は剥がれる場合がありますから。ただ、軽量化はもっとやりたくて、ステアリングホイールからエアバッグを外したかったくらいですけど、それはさすがにムリで(笑)。
小沢:それやったら業界に永遠に名を残しますよ(笑)。しかし、人間って敏感ですよね。こういう積み重ねが非常に効いてるのがわかりますから。
貴島:部分にもよりますが、1gの軽量化でもわかる人はわかりますから。今回、バックミラーにしても先代より84g軽量化してます。
小沢:これまたいっそのこと外したいくらいなのでは?(笑)。しかし「ディテールは神に宿る」って言いますけど、それよりめちゃくちゃ「オタクなクルマ」ですね(笑)。
貴島:はい、オタクです。いい意味ですけどね(笑)。
(文と写真=小沢コージ/2005年7月)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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