ランドローバー・ディスカバリー3(4WD/6AT)【試乗記】
老舗ブランドの底力 2005.05.24 試乗記 ランドローバー・ディスカバリー3(4WD/6AT) ……789万円 「ディスカバリー」がフルモデルチェンジを受け、「ディスカバリー3」に進化した。見た目も中身も大きく生まれ変わった新型に、自動車ジャーナリストの生方聡が試乗する。都会も似合う本格派
第三世代ということで「ディスカバリー3」と呼ばれる新型ランドローバー・ディスカバリーは、フロントマスクだけ見るとレンジローバーと見紛うほど、洗練されたスタイルを持つ。リアにスペアタイヤを背負うのを止め、ルーフレールも控えめになるなど、すっかり都会的になった。私もそうだが、見るからにオフローダーという雰囲気が苦手な向きには歓迎されそうな変身である。
デザインだけでなく中身も従来のディスカバリーとは一線を画している。たとえばボディはフレーム構造ではなく、フレームをモノコックに融合した「インテグレイテッドボディフレーム」構造を採用。サスペンションは4輪独立懸架式、ステアリングはラック・ピニオン式である。スペックだけ見るとまるで乗用車に生まれ変わったかのようだが、それもそのはず。これまでのディスカバリーは、初代レンジローバーの骨格を使っていたのだから、まさに世代が違うのだ。
エアサスペンションの効果は絶大
現在ラインアップされるモデルは、V8エンジンを搭載する「HSE」(759万円)と、V6エンジンの「SE」(648万円)および「S」(568万円)の3タイプ。今回は最上級モデルのHSEを試乗したが、実際にオンロードを運転した印象も乗用車的な感覚であった。
HSEが積む4.4リッターV8は、最高出力299ps/5500rpm、最大トルク43.3kgm/4000rpmを発生する。ジャガーの4.2リッターをベースにボアを86mmから88mmに拡大して排気量を4.4リッターにアップしたものだ。SUV用ということで、出力はジャガーのそれをやや下回るが、最大トルクの発生回転数を低めるとともに、約0.4kgm増大が図られた。
それだけに、低回転域でのトルクは実に豊かで、発進にもたつくことはないし、一般道なら2000rpm以下で十分間に合ってしまう実力の持ち主だ。それでいて高回転域の印象も悪くない。トルクがピークに達する4000rpmを超えてもなおスムーズで力強く、エンジン音も軽やか。SUVに積むにはもったいないと思うほど洗練されているのだ。
エンジン以上に感心したのが、ディスカバリー3の乗り心地のよさである。これに大きく貢献しているのがエアサスペンションだ。オンロードの快適性とオフロードの走破性を両立するためにはいまや必須ともいえるこの装備のおかげで、オンロードでは適度にソフトで、それでいて上下動をうまく抑え込んだフラットな乗り心地を実現している。それは高速道路を走る場合でも変わらず、直進安定性が高いことも手伝って、長距離移動も苦にならないだろう。そのボディ形状ゆえに風切り音が大きめなのが玉にキズではある。
簡単安心のテレインレスポンス
このように、ふだん乗るうえではネガティブなところがほとんどないディスカバリー3。ランドローバーのホームグラウンドたるオフロードでは、本格派の意地を見せつけてくれる。
ディスカバリー3には、4×4の老舗ブランドが送り出すSUVだけに、ローレンジとハイレンジを切り替える電子式トランスファーやロック可能なセンターデフ、ブレーキやアクセルペダルを操作することなく低速で坂を下りることのできるヒル・ディセント・コントロール(HDC)といった装備を、当然のように備える。オフロード走行に適するようエアサスペンションで車高を上げることも可能だ。
さらに、路面状況に応じてこれらの装備を最大限に有効活用できる「テレインレスポンス」を搭載した。ドライバーは「オンロード」「滑りやすい路面」「泥/轍」「砂地」「岩場」の5つのモードからひとつをセンターコンソールのロータリースイッチで選ぶだけで、クルマが路面に最適なセッティングを施してくれるという手軽さである。
用意されたオフロードコースでその効果を試す。とりあえず“滑りやすい路面”を選んでみると、自動的にローレンジが選択され、車高は最大に、そして、HDCが有効になった。
オフロードコースとしてはさほどハードなものではなかったが、起伏が大きな場所や上り坂でも難なくクリアしてしまう。急な下り坂もステアリングをしっかり握っているだけで、歩むようなスピードで降りていくことができた。しかも、スイッチひとつで。腕に自信がある人には物足りないかもしれないが、キャンプサイトや河原にアプローチするくらいしかオフロードに縁がない者にとっては、ディスカバリー3に畏敬の念の抱くには十分な試乗となった。
あったらいいなぁ
オンロードとオフロードの試乗を終えて、あらためて室内を見回してみると、レンジローバーほど高級ではないが、シンプルで上質なインストゥルメントパネルや、乗用車とは趣を異にするセンターコンソールのデザインに、なんだか心がくすぐられる。3名分が独立したセカンドシートと、大人2人が無理なく座れる収納式のサードシートは下手なミニバン顔負け。そして、上下2分割式のテールゲートも使い勝手がよさそうだ。
このところスポーティさをウリにしたSUVが目立つが、だからこそディスカバリー3のように機能重視の、いいかえれば目的がはっきりしたSUVが新鮮に見える。しかも、本格派ながら、すべてにおいて洗練されたタッチを持つところがニクい。エラソーな雰囲気じゃないけど、いざというとき頼りになるし、そばにあるだけで楽しそう……。決して安くはないが、行動範囲を広げるには格好の買い物といえるのではないか。SUVを選ぶならこんなクルマがいいなぁと思う。
(文=生方聡/写真=荒川正幸/2005年5月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。