第63回:枯れゆくブナの山、檜洞丸(その12)(矢貫隆)
2005.04.24 クルマで登山第63回:枯れゆくブナの山、檜洞丸(その12)(矢貫隆)
■物流システムの大胆な転換
神奈川県が出した『丹沢大山自然環境総合調査報告書』は、被害が出ている南東斜面では常に北東斜面よりもpH値の低い霧が出ていたとして、それが檜洞丸南東斜面のブナに影響を与えた可能性を否定していない。
けれど、それよりも同報告書が強い調子で可能性、つまり、ブナの枯死の原因を指摘するのは、オゾンによる影響だった。
オゾンはきわめて強力な酸化作用をもっているのだけれど、環境基準を大幅に超える高濃度のオゾンが南東斜面に発現する頻度は、北東斜面のそれよりも高いと報告している。
そして、その結論部分では次のように書いていた。
「檜洞丸山頂付近でのブナ衰退にオゾンが影響を及ぼしている可能性は十分考えられる」
オゾンもまた、酸性霧と同様、元を辿れば、その多くが窒素酸化物に行き着く。
「窒素酸化物の排出量は増え続けていて、その半分が自動車排ガスによるものなんですよね。どうしましょう?」
どうしましょうって俺に言われてもねぇ。
特に東京都はディーゼル車に厳しい対応を打ち出しているし、石油業者もそれなりの対策を出し始めている。自動車業界も。だけど、それでは間に合わないくらいの勢いで状況は悪くなっている。
そう考えると、これは僕が何度か『CG』誌で書いてきたことだけれど、物流システムの大胆な転換が必要なんじゃないだろうか。
物流の大部分がトラック輸送に依存している現状が問題なのだと思う。東京のコンビニで荷物を出したら、翌日には大阪に着いてる。そんな便利な世の中にはなったけれど、それはひとえに物流の大部分がトラック輸送になったからであるというのは間違いのない事実。
日本人は、この便利さを捨てることは、たぶんできないだろう。だとすれば、便利さを残しつつ、かつトラック輸送に負けない新たな物流システムを考えていくしか道はない。たとえば新幹線貨物を実現させるとか。
「そんなこと、できますかね!?」
難しいよね。旧国鉄がJRになったとき、貨物駅だった土地の多くを売却してしまったから。でも、それでも何か抜本的な対策を見つけ出さないと、ディーゼル車規制くらいでは問題は解決しないと思う。
被害は植物にだけ出ているわけではない。スギ花粉症しかり、気管支喘息しかり、だし。要するに、事態は「クルマで登山」している場合じゃないくらい深刻なのだ。(この回おわり)
(文=矢貫隆/2005年4月)
![]() |

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
-
最終回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機
その10:山に教わったこと(矢貫隆) 2007.6.1 自動車で通り過ぎて行くだけではわからない事実が山にはある。もちろんその事実は、ただ単に山に登ってきれいな景色を見ているだけではわからない。考えながら山に登ると、いろいろなことが見えてきて、山には教わることがたくさんあった。 -
第97回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機
その9:圏央道は必要なのか?(矢貫隆) 2007.5.28 摺差あたりの旧甲州街道を歩いてみると、頭上にいきなり巨大なジャンクションが姿を現す。不気味な光景だ。街道沿いには「高尾山死守」の看板が立ち、その横には、高尾山に向かって圏央道を建設するための仮の橋脚が建ち始めていた。 -
第95回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機
その7:高尾山の自然を守る市民の会(矢貫隆) 2007.5.21 「昔は静かな暮らしをしていたわけですが、この町の背後を中央線が通るようになり、やがて中央道も開通した。のどかな隠れ里のように見えて、実は大気汚染や騒音に苦しめられているんです。そして今度は圏央道」 -
第94回:“奇跡の山”、高尾山に迫る危機
その6:取り返しのつかない大きなダメージ(矢貫隆) 2007.5.18 圏央道建設のため、「奇跡の山」高尾山にトンネルを掘るというが、それは法隆寺の庭を貫いて道路をつくるようなものではないか。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。