BMW X3 3.0i(5AT)【ブリーフテスト】
BMW X3 3.0i(5AT) 2004.07.30 試乗記 ……765万3600円 総合評価……★★★★ BMWのSUV「X5」の弟分「X3」。3リッター直6を積む上級「3.0i」に試乗した自動車ジャーナリストの生方聡が納得したこととは?
![]() |
“SUV臭さ”がない
このところ輸入モノのSUVというと、“プレミアムSUV”といわれるラクシャリーモデルが多かった。値段を考えると、「BMW X3」だって十分プレミアムなのだが、室内の雰囲気はスポーティというかカジュアルというか、つまり肩肘張らずに乗れるタイプで、BMWがSAV(スポーツ・アクティビティ・ヴィークル)と呼ぶ気持ちがわかるような気がする。
そんなX3に乗ってまず感じたのが、ボディの小ささ。私の場合、ふだん停める駐車場のアプローチが狭く、ひとまわり大きなSUVを停めるのは苦痛だったが、X3はさほど苦労せずに通過することができ、これなら毎日使ってもいいと思った。
運転していても“SUV臭さ”がないどころか、そのスポーティさはSUVのなかでもトップクラス。まさに街からオフロードまで、どんなシーンでも似合うアクティブなクルマである。
![]() |
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1999年のデトロイトショーでデビューした「X5」に次ぐSUV(BMWいわく「SAV(スポーツ・アクティビティ・ヴィークル)」が、X5のコンパクト版たる「X3」。全長×全幅×全高=4565×1855×1675mm、ホイールベース=2795mm。X5比で、100mm短く、15mm幅狭く、65mm背が低く、そして25mmホイールベースがショートである。
エンジンは、ビーエムお得意の直6が2種類。2.5リッターは最高出力192ps/6000rpm、最大トルク25.0kgm/3500rpm、3リッターユニットは、231ps/5900rpm、30.6kgm/3500rpmのアウトプットである。トランスミッションは、どちらも、マニュアルモード「ステップトロニック」が付いた5段オートマチック。
駆動方式は、BMWが「xDrive」と呼ぶ、電子制御式多板クラッチを用いた4WD。リアルタイムでホイールなどの状況を判断し、前後のトルク配分を無段階に調節するシステムである。さらに、前後の重量配分を、BMWが主張する理想値、50:50に近づけ、俊敏性と操縦性を高いレベルで実現したと謳われる。
(グレード概要)
上級「3.0i」は、235/50R18サイズのタイヤ、フロントセンターアームレストを標準で備えること以外、「2.5i」と装備に差はほとんどない。
オプションは豊富。「カスタマイズオーダープログラム」では、レザーシートや2種類のインテリアトリム、メタリックペイントなど、内外装を変更できる。ステアリングの舵角に応じてライト照射角を変える「アダプティブヘッドライト」や、クルマ周囲の障害物を見地する「パークディスタンスコントロール」などが用意される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
インストゥルメントパネルのデザインはシンプルの一言。やや小振りの速度計と回転計、整然とスイッチが並んだセンターパネルなど素っ気なく思えるくらいだが、その潔さにかえって好感が持てる。
感心したのはナビゲーションシステムとETC。最近の輸入車はナビを後付けするのが難しく、どうしても純正ナビに頼ることになるが、このX3にオプション設定されるDVDナビは秀逸だった。見た目がスマートなばかりか、3メディアVICS対応やETCとの連動など、ひととおり必要な機能が備わっており、さらに、ETC車載機がルームミラーに内蔵されるなど、日本仕様としての完成度も高い。このあたり、日本の高級車には“あって当たり前”だが、輸入車では日本の事情に追いつかないことが多く、それが不満につながることもある。X3にそんな心配はいらないようだ。
(前席)……★★★★
試乗車にはオプションで用意される電動レザーシートが装着されていた。前後スライドの微調整ができるのは電動シートならではで、チルト&テレスコピック調整機能の付いたステアリングとあわせて、最適なポジションを得るにはうってつけ。レザーシートそのものも適度に張りがあり、サイズもゆったりしていて座り心地がいい。
ただ、シートバックにあるレザーの重なった部分が硬く、背中に当たるのが気になった。
(後席)……★★
4565mmという全長だけ見ると、さほど大きなクルマではないが、リアシートの広さはお見事! 足元は広いし、ヘッドスペースも十分確保されている。
しかし、走り出すと、サスペンションの硬さが災いして、乗り心地はいまひとつ。中央席は収納式のアームレストがあるため、シートバックが硬く、ここに長時間座らせられるのはちょっとツライ。★評価は厳しめになりました。
(荷室)……★★★★★
リアシートを起こした状態でも、1m弱の奥行きが確保され、さらにトノカバーを閉めても50cmほどの高さがある荷室は、ワゴンとして十二分に広いスペースを提供している。6:4分割可倒式のリアシートを倒せば、さらに広いスペースが手に入るのも期待どおり。フロアにレールがあって、好きな場所にロープ固定用のリングを設置できるのもうれしい機能だ。
しかし、一番の特長は、地上高が高い(はず)のSUVでありながら、荷室のフロアが約65cmと低い位置にあることだ。これは下手なツーリングワゴンよりも低い数値。積み下ろしのしやすさという点では抜群である。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
X3 3.0iに搭載される直列6気筒エンジンは、231ps/5900rpm、30.6kgm/3500rpmのスペックから期待されるとおり、車両重量1790kgのボディをものともせず、余裕の加速力を発揮する。低回転から余裕のあるトルクを発生するおかげで、発進や街なかを流すような状況にあっても、適度にスリップするトルクコンバーターも手伝い、スムーズかつ力強い加速を見せるのだ。もちろんスロットルペダルを大きく踏み込んでやれば、BMW自慢のストレートシックスは気持ちよくトップエンドまでまわり、スポーティな加速を存分に味わえる。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
エンジンのフィールや外観から想像できるように、X3の身のこなしはスポーティだ。たとえばワインディングロードでは、「3シリーズ」のセダンやクーペと同じとはいかないまでも、ロールはよく抑えられ、常に安定した姿勢で狙ったラインをトレースできる。ついつい背の高いSUVであることを忘れてしまうほどだ。
一方、乗り心地はやや硬めで、ハーシュネスの遮断もいまひとつ。それさえ割り切れれば、このクルマを買っても後悔しないと思う。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2004年7月9日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2004年(初年度登録)
テスト車の走行距離:4419km
タイヤ:(前)235/50ZR18 97H(後)同じ(いずれもブリヂストン TURANZA)
オプション装備:ステアリングホイールヒーター=2万6250円/マルチファンクション・ステアリングホイール+クルーズコントロール=6万3000円/リア・サイドエアバッグ=5万2500円/18インチアロイホイール=7万8750円/アラームシステム=6万3000円/クライメート・コンフォート・ウィンドスクリーン=2万3100円/パノラマ電動ガラスルーフ=18万9000円/ラゲッジネット1万5750円/ウッドトリム“シカモア”、ダーク=2万1000円/ETC=4万7520円/電動調整フロントシート=15万7500円/スキーバッグ=2万1000円/ストレージ・コンパートメント・パッケージ=3万1500円/ヘッドライトウォッシャー=3万6750円/PDC=10万5000円/レインセンサー+オートマチックライト=1万5750円/キセノンヘッドライト=8万4000円/アダプティブヘッドライト=5万2500円/プロフェッショナルHiFiスピーカーシステム=13万6500円/レザーアンビエンテ+フロントシートヒーター=31万5000円/メタリックペイント=7万3500円/ナビゲーションパッケージ=31万5000円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(4):山岳路(3)
テスト距離:719.6km
使用燃料:98.4リッター
参考燃費:7.3km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。