メルセデスベンツCLS500(7AT)【試乗記】
異教徒にもグッとくる 2005.04.02 試乗記 メルセデスベンツCLS500(7AT) ……1037万4000円 質実剛健で知られるメルセデスベンツが投入した、デザインコンシャスなニューモデルが「CLSクラス」。5リッターV8を積む「CLS500」に乗った、自動車ジャーナリストの森口将之は……。メルセデス教徒のためのジャガー
昨年、とある雑誌の取材で、メルセデス・ベンツの中古車を専門に扱うショップを訪れたときのこと。ショップの方と話をしているうちに、あることに気づいた。その方の口から、メルセデス以外のクルマの話題がほとんど出てこないのだ。
ごくたまに登場するとしてもポルシェぐらいで、それ以外はBMWもアウディも、一切話題に上らない。この方にとっての自動車とはメルセデスのことで、それ以外はクルマとして認めていないかのようだった。ここまでくると、宗教である。メルセデス教。
聞くところによれば、こういう考え方の人は、かなりいるらしい。メルセデスを知ってしまうと、ほかのクルマに戻れなくなるという話は、よく聞く。自分は取材でメルセデスに何度乗っても、そういう気持ちにならない。でも、圧倒的なボディ剛性や、安全第一の操縦性など、多くの人を引きつける部分があるのは認める。
CLS500に乗って、このエピソードを思い出した。これはメルセデス教徒のためのジャガーだと思ったのである。
メルセデスをこよなく愛する人たちにとっても、ジャガーの存在は気になっているはずだ。しかし実際にオーナーになると、繊細なステアリングフィールやしなやかな乗り心地が、頼りないと思うかもしれない。そんな不満を耳にしたメルセデスが、「ウチにも同じようなモデルができました」と出したのがCLSではないかという感じがした。
らしからぬ部分も
CLSはEクラスのプラットフォームを用いている。2855mmのホイールベースは同じだ。4915mmの全長と1875mmの全幅は、Eクラスより少しずつ大きい。ところが全高だけは低く、試乗したCLS500では1390mmと1.4mを切っている。アルミモノコックボディを持つ現在のジャガーXJはここまで低くないが、先代XJは1360mmしかなかった。それに匹敵する低さである。
運転席につくと、ウエストラインの高さのために、実際以上に低く座っている感じがする。目の前のインパネは、他のメルセデスとは異なり、幅広いウッドパネルが左右いっぱいに伸びている。横を見れば、シートはこのブランドらしからぬ丸みをおびたカタチ。メーターやルーバーの周囲、ドアオープナーなど、いたるところにクロームメッキがちりばめてある。いろいろな部分から、ジャガーっぽさを感じる。
ただし、速度計をセンターに置き、タコメーターの反対側に大きな時計を並べた実直なメーターパネルは、メルセデスそのもの。2人掛けのリアシートは予想したほど狭くなく、身長170cmの自分が前後に座ると、ひざの前には15cmぐらいの空間が残るし、頭上はガラスではなくちゃんとルーフでおおわれていて、髪の毛が軽く触れる程度だ。トランクも、Eクラスより少し短く、低いぐらいで、絶対的な容量はもうしぶんない。遊んでいるようでいて、中身はきっちりしているあたりが、ドイツ車である。
運転席に戻ると、シートクッションがフッカリした座り心地なのに気づく。これはジャガーのそれとも違う。シートバックはカチッと張りがあり、サイドサポートもじゅうぶんなのだが、着座感はアメリカンラクシャリーカーを思わせるルーズフィットだ。自分はけっこう気に入った。
インパネ越しにボンネットは見えず、Aピラーは顔にせまり、助手席側のドアミラーは視野が狭い。メルセデスといえば運転環境のすばらしさが美点のひとつで、この点はメルセデス嫌いの自分も評価していたところなのだが、CLSは正反対である。教徒の方々はこれをどう判断するのだろう。
性能はまぎれもないメルセデス
ただし、メルセデスらしからぬ部分を発見できたのはここまで。走り出してしまえば、CLSはまぎれもないスリー・ポインテッド・スターだった。
CLSには350と500、そしてハイパフォーマンスの55AMGがあるが、試乗した500はE500と同じように、AIRマティックDCサスペンションを標準装備する。コンフォート、スポーツ1、スポーツ2の3モードを持つのも共通だ。コンフォートでは高速道路でダンピング不足になり、スポーツ2では一般道で上下に揺すられるが、中間のスポーツ1はこれといった不満がなく、あらゆる路面で快適だった。
ボディ剛性はあらゆる状況でまったく不足なく、路面からのショックを足元だけで抑え込む。5リッターV8エンジンと7速ATは、クルージングではおおいなる余裕を与え、ムチを入れればエレガントな姿に似合わぬ豪快なダッシュを披露する。追い越し加速もレスポンスよく、あっという間にこなす。SBCと呼ばれるブレーキ・バイ・ワイヤのポテンシャルの高さ、タッチの自然さは、いつ味わっても感心してしまう。
ステアリングだけは、Eクラスよりややクイックになっており、速度を上げるとやや唐突に重さが増すパワーアシストを備えるが、自然な切れ味、高速での直進安定性、圧倒的な小回り性能は、このブランドの伝統どおりだった。
見た目はジャガーを思わせておいて、乗ればまぎれもないメルセデス。このブランドに特別な想いを抱いていない、いわば異教徒の自分にも、コンセプトがストレートに伝わってくる。機能はともかく、商品としてはカンペキなクルマだった。
(文=森口将之/写真=峰昌宏/2005年4月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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