トヨタ・ハリアー(CVT)/クルーガー・ハイブリッド(CVT)【試乗速報(後編)】
200kWの快楽と責任(後編) 2005.03.31 試乗記 トヨタ・ハリアー(CVT)/クルーガー・ハイブリッド(CVT) ……501万600円/436万8000円 ハイブリッドによって、非常な高性能と低燃費を両立した「ハリアー/クルーガーハイブリッド」。『webCG』大川悠はその一方で、ハイブリッドパワーがもたらす快楽とメーカーの責任について考えた。![]() |
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ハリアーとクルーガーの違い
「クルーガー・ハイブリッド」についても説明しておこう。クルマの中身は、基本的にはハリアーと同じである。アメリカでクルーガーはトヨタブランドから発売される、よりポピュラーなバージョン。ハリアーはレクサスの名前が付いた高級SUVだから明瞭に市場は異なるが、クルーガーは若向けで3列シートを備えることが大きな違いだ。
ハリアーとクルーガー、乗り味の違いとして、まず静粛性があげられる。電気自動車やハイブリッドで却って気になるのは、モーターだけで走行しているときのロードノイズや風切り音。人間は身勝手だから、モーター走行時にエンジン音が消えても、こちらの要求が高まってしまうものだ。
この点でも開発者は相当苦労したというが、結論からいうとハリアーのほうが静かだ。防音対策にお金をかけた結果、車重はハリアーのほうが重いのである。実際、ホイールアーチ裏側は通常の樹脂ではなく、繊維が入った特殊な材料でタイヤノイズを吸収しているというし、ウィンドシールドは単なる合わせガラスではなく、特殊な振動対策素材が挟み込まれているのだという。
ハンドリングや乗りごこちは、両者ともとても好ましい水準にある。電動パワーステアリングの不自然さは、多分すぐ慣れると思うし、増えた重量のためか、ノーマルよりもしっとりとした乗り味だった。
ただし、シャシー・コントロールたる「VDIM」は、同じ道を大体同じ速度で走った場合、クルーガーのほうでより頻繁に介入した。ハリアーの試乗車はSパック専用の235/55R18インチのサマータイヤだったのに対し、クルーガーは225/60R17インチのオールシーズンタイプを履くため、絶対的なグリップの差が出たものだろう。SUVらしいクルーガーに対し、ハリアー(レクサスだけに)はより落ち着いたタイプ。レクサスとトヨタブランドの差異といえるかもしれない。
問われるリーダーの責任
それにしても、トヨタが完全にハイブリッドで世界をリードしたことは明らかだ。さらに、このクルマが日本で公開されたとほぼ同時に、「ニューヨークショー」では「レクサスGS」のハイブリッド版を発表。直噴の3.5リッターV6を持つこれは、4.5リッター並みの動力性能を2リッター並みの燃費で実現するという触れ込みで、トヨタのエンジニアによれば「その息の長い加速は、これまで体感したことがないほどだ」という。
ただ、そのエンジニアはこうも語った。「一体どこをめざし、なにを一番大切にし、それによっていかに世界を引っ張ってくるか。それをきちんと考えるのが最大の課題」だと。ハイブリッドシステムは、多少燃費を犠牲にして、性能を追求することもできる。しかし、それでは本来の意味が希薄になってしまうのだ。
かといって、単なるエコカーで済むという時代ではなくなったのも事実である。こういうなかで、リーダーになったトヨタには、ハイブリッドの方向を呈示するという大きな責任が生まれてきた、ということでもある。
2008年には、GMを抜いて世界一の生産台数を誇る自動車メーカーになりかねないトヨタは、今後、この種の様々な責任を負っていく宿命にある。
(文=大川 悠/写真=高橋信宏/2005年3月)
・トヨタ・ハリアー/クルーガー・ハイブリッド(前編)
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000016530.html

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。