トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ”(FF/CVT)
売れるに決まってる! 2020.09.01 試乗記 初代の登場から20年以上、4世代にわたって進化してきた「トヨタ・ハリアー」。元祖“都市型SUV”の最新型は、そのパイオニアとしてのプライドが感じられるほど、すきのない完成度を見せてくれた。“レクサス未満”の買い得モデル
「はやりのSUVなるもの、われも買ってみんとて……」とクルマを物色しているユーザーが最もアツい視線を注いでいる一台が、4代目となったトヨタ・ハリアーだろう。6年半ぶりにフルモデルチェンジを果たし、内・外・走りとも、いかにもそつのない刷新ぶり。発売当初から「コレは売れる!」と予想され、実際、出足は好調のようだ。
まずデザインがいい。といっても、目利きのうるさがたをうならせる“アートな造形”というより、わかりやすく先代のイメージを引き継ぎながら、ひと目で「新型!」と認識させるサジ加減がうまい。路上でニューハリアーを見かけるたび、いまや旧型となってしまったハリアーオーナーの人には、その“新しさ”がボディーブローのように効いてくるのではないでしょうか。
今回のハリアーは「流麗なクーペルック」をうたい、デザインのためにトランク容量を抑えるという、少し前のトヨタ車ではなかなかできなかったアプローチを採っている。それを可能としたのが、同じGA-Kプラットフォームを用い、動力系はじめ多くのコンポーネンツを共有する「RAV4」の存在である。
言うまでもなく、日本再上陸を果たしたRAV4がこれまで以上にアクティブでアウトドアな方向へかじを切ったので、ハリアーも心おきなく二枚目を気取れたわけだ。300万円台がメインとなるRAV4と比較して、ハリアーは50万円ほど高い価格設定となる。ちなみに、かつて同じクルマであった「レクサスRX」はいまや両者とまったくかぶらないクラスに上昇し、あえて比べるなら「レクサスNX」が対象となるが、それでも100万円は高くなる。皮肉な言い方すると、“ちょっとしゃれたSUV”が欲しい人にとって、ハリアーはそれだけお買い得感が強いということである。
しっかり使えるハンサム
新しいハリアーは、2.5リッター直4(最高出力178PS)にモーターを組み合わせたハイブリッドと、2リッター直4(同171PS)のみのガソリンモデルに大別される。モデルチェンジを期に、4WDに加え、ハイブリッドモデルにFF(前輪駆動)仕様が新設されたのがニュースだ。シティー派SUVだけに、いままで設定がなかったのが不思議な感じ。
今回の試乗車はガソリンのFF車で、最上級の「Z」グレードにして“レザーパッケージ”という特盛り仕様である。追加オプションのない“素の価格”は423万円。
目元の涼やかさが印象的な新型ハリアー。デザイン上のハイライトとして、ルーフとキャラクターラインがぶつかって後方に押し出されたかに見えるテールランプ部分を挙げられようか。サイドのウィンドウグラフィックと併せてクーペルックを強調する要素だが、実はイメージほどルーフはなだれ落ちていない。
ためしにリアシートに座ってみると、しっかりとした居住性が確保されている。足元、頭上とも十分なスペースがあり、角度調整ができる背もたれの恩恵もあって、快適。センターシートも、座った人の頭が天井に迫るが、無理なく使える。乗車定員5人にウソはない。
デザイン優先のしわ寄せがきたというラゲッジルームは、それでもゴルフバッグ3個を積める容量を確保した。スクエアな形状が使いやすそう。背の高いSUVゆえフロア位置はやや高いが、そのぶんバンパーとの段差はごく小さい。重い荷物を滑らせながら入れる際にはありがたかろう。
もちろん床下収納も用意される。前後に動かせる大きなトレー付き。アクセスのためにめくったフロアボードの裏には、荷室経由でキャビンにノイズが侵入するのを極力防ぐためか、厚めのクッションが貼られていた。ここまで気を遣っていながら、防吸音効果が見込めるラゲッジカバー(トノカバー)が全車オプション扱いなのが、なんだか不可解だ。荷室の目隠しができる効用より、「かえって邪魔」と思う人が多いのだろうか。
CVTは優秀だけれど……
ハリアーZ(ガソリン車)のステアリングホイールを握って走り始めると、スポーティーで硬めの乗り心地。それでいて、動力的には意外とおとなしい。
搭載される2リッター直4“ダイナミックフォース”エンジンは、171PS/6000rpmの最高出力と、207N・m/4800rpmの最大トルクを発生する。吸気バルブの可変タイミング機構「VVT-iE」を備えた直噴ユニットで、40%に達するという熱効率のよさがジマンだ。
トランスミッションには、発進用のギアを持つCVTが組み合わされる。スタートから低回転域をギアに任せることで、ベルトとプーリーによる変速の守備範囲を狭めてやり、結果的にダイレクトなフィールを得る仕組みである。なるほど、街なかではごく自然な運転感覚。エンジン回転数と実際の加速がリンクしない、いわゆるラバーバンドフィールを徹底的に抑え込んだのがよくわかる。うっかりすると、慣れ親しんだトルクコンバーター式ATかと勘違いするほどだ。
ただ、いかな高効率のパワーパックとはいえ、1620kg(調光パノラマルーフ装着車)の物体を1986ccの排気量で動かす限界はある。ドライバーの気持ちとクルマにむちを入れ、いざ元気よく走らせようとしたとたん、エンジンは効率のいい回転数を求めてうなり声を上げる。全開加速時には疑似的にギアを切って、つまり速度上昇に段を付けることで不自然さを払拭(ふっしょく)しようとしているが、それでもCVT車であることは隠せない。
いずれもハンドルを握る者がせっかちな気持ちを抑えれば済むだけのハナシだが、もしより静かで重厚感あるドライブフィールが好みで、出足のよさも求めるなら、価格差は60万円前後とばかにならないけれど、ハイブリッドモデルを選んだほうがいい。多少なりとも廉価なFFモデル(358万円~)も用意されたことだし。
ニーズに応えてくれている
つい職業的なアラ探しをしてしまう新型ハリアーだが、文句なく素晴らしいのがハイウェイクルージングである。100km/h巡航で、エンジン回転数は約1400rpm。車内は静かなうえ、路面を滑っていくかのフラットライドが気持ちいい。多少速度を上げようとも揺るがない安定性が頼もしい。カビの生えた言い方を許してもらうなら、「欧州車のようなスタビリティーの高さ」だ。
前走車に追従するクルーズコントロール、ステアリングアシストを含んだレーンキープ機能、衝突の予防・被害軽減を目指したプリクラッシュセーフティーなどを含んだ「Toyota Safety Sense」は全車に搭載される。
目新しい装備として、ガラスの透明度が変化する調光パノラマルーフが話題だが、個人的に興味を引かれたのが、クルマの前後を映すカメラ映像をバックビューミラー(デジタルインナーミラー)に挿入されたSDカードに記録する機能が加わったこと。いわば簡易的なドライブレコーダーである。
いまやクルマが複数のカメラを備えることは珍しくないが、多くの場合、その用途は運転のサポートに限定されている。これまでも、機会があるたびに、担当エンジニアの方に「ドライブレコーダーとしては使えないのですか?」と質問してきたが、言葉を濁されるばかり。そもそも扱うデータの種類が違う、開発の余力がない、場合によってはメーカーの責任が問われる事態が起こりうる、はたまたアフターマーケットへの配慮といったところが理由だと思うが、市井のいちユーザーとしては、何基もカメラが付いているのに「なぜあらためてカメラ付きのドライブレコーダーを買わなければいけないのか?」と疑問を抱くのは自然なことだ。消費者のニーズに素直に応えるメーカーがシェアを拡大するのは当たり前……というのは、ハナシを膨らませ過ぎでしょうか。
見ても乗っても使っても、すきのないモデルチェンジを果たした新型ハリアーである。
(文=青木禎之/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4740×1855×1660mm
ホイールベース:2690mm
車重:1620kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:171PS(126kW)/6600rpm
最大トルク:207N・m(21.1kgf・m)/4800rpm
タイヤ:(前)225/55R19 99V/(後)225/55R19 99V(トーヨー・プロクセスR46A)
燃費:15.4km/リッター(WLTCモード)
価格:423万円/テスト車=462万6000円
オプション装備:ボディーカラー<プレシャスブラックパール>(5万5000円)/ITSコネクト(2万7500円)/調光パノラマルーフ<電動シェード&挟み込み防止機能付き>(19万8000円)/パノラミックビューモニター<シースルービュー機能付き>(6万0500円)/おくだけ充電(1万3200円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エクセレントタイプ>(4万1800円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1872km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:323.0km
使用燃料:25.9リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.5km/リッター(満タン法)/12.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。