スズキ・スイフト1.3XG(4AT)/1.5XS(4AT)【試乗記】
「控えめリッチ」はいいけれど…… 2004.12.01 試乗記 スズキ・スイフト1.3XG(4AT)/1.5XS(4AT) ……117.6万円/136.5万円 新型「スイフト」は、世界4か国でほぼ同時に生産が開始される。グローバルなコンパクトカーとして開発したスズキにとって、非常に重要なモデルだ。新たな「世界水準」を模索する戦略車に、『NAVI』編集委員鈴木真人が乗った。「イグニス スーパー1600」が5連勝
2003年の8月、フィンランドでWRCを観戦した。そこではJWRCも同時に開催されていて、やけに目立つ黄色のクルマがいるなと思ったら、「イグニス スーパー1600」だったのだ。黄色のおそろいTシャツでキメたイグニス・ガールズを引き連れて、なかなかの人気だったのを覚えている。
参戦2年目にしてそのラリー・フィンランドで初優勝を果たし、2004年には5連勝するなど圧倒的な強さを見せた。
旧型「スイフト」は「イグニス」の名でヨーロッパで販売されていて、ラリー人気の高い当地ではとてもスポーティなクルマだと意識されている。旧型は日本で開発したモデルをヨーロッパの事情に合わせて移植していたのだが、好評を受けて新型では最初からグローバルなモデルという位置づけをされた。
原型となる「コンセプト-S」は、2002年のパリサロンで披露されているし、市販モデルがデビューしたのは2004年のパリサロンだ。ハンガリー、インド、中国の3か国で、ほぼ同時期に生産が始まる。新しいスイフトは、スズキの世界戦略を担うグローバルカーなのである。
意気込みは、専用のプラットフォームを開発したことにも表れている。旧型は、軽自動車の「Kei」をベースにして仕立てられていたのだ。リアのサスペンション形式もトーションビームに改めており、まったく別のクルマに生まれ変わった。
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「デザインと走り」を重視
スタイリングも、旧型とはほとんど共通点が見つけられないほど変わった。明らかに重心を落とした印象を受けるのは、エッジの利いたショルダーラインを境に、下半身に量感を持たせ、グラスエリアを小さく見せたことが奏功しているのだろう。
ただ、フロントからサイドにウィンドウを連続させてみせる「ラップアラウンドウィンドウ」の趣向が、BMWが手がけた「MINI」や「トヨタ・イスト」のフォルムとの共通性を感じさせてしまっているのはもったいない気がする。
今回試乗できたのは、1.5リッターと1.3リッターエンジンのFFモデルである。1.3には5段MTモデルも用意されているが、ATのみのテストとなった。
まず、「1.3XG」のシートに収まってみる。インテリアは、過剰な意匠のないシンプルさが好ましい。インストゥルメントパネルの質感は過度に高級を装うというものではなく、某男性誌の表現を借りれば「控えめリッチ」というところか。ツートーンのシートも、抑制が利いていて悪くない。あざとさを感じさせない内装は、新型スイフトの美点のひとつだと思う。
開発にあたって重視したのは、「デザインと走り」なのだという。実際に販売の現場で、目には見えない「走り」がどれだけ効果を発揮するかというと難しい気もするが、このクラスでもライバル車が軒並み走りの性能を上げている中では譲れないところである。
このモデルは特にスポーティさを売りにするわけではないが(「スイフト・スポーツ」は従来型が引き続き販売される)、ワインディングロードで見せた実力はなかなかのものだった。絶対的なパワーはたいしたレベルではないが、かなりキツい登りでもエンジンの回転数を高く保っていればさほどの不満は感じない。Dレンジに入れたままでも、しっかりと6000回転まで回りきって力強く加速する。
ステアリングの手応えも、スポーティさを強調したものだ。電動パワーステアリングの設定は軽すぎるものではなく、切り込んだだけシャープに向きを変えていく。タイヤサイズは185/60R15という真っ当なもので、乗り心地に悪影響をもたらさない。ABSやEBDを装備するブレーキは剛性感が高く効きも十分だったが、踏力を補助するブレーキアシストが時折不自然に介入するのは少し気になった。
贅沢装備充実の1.5XS
「1.5XS」は、1.3XGに比べて車重が10kg重い。しかし、最大出力は19psも上回っているので運動性能は相当な差があるはず……と思ったのだが、数字ほどの差は感じられなかった。回転数を抑えられる分落ち着いて走れるが、目に見えてパワフルになるというわけではない。
ステアリングホイールが本革巻きになりオーディオがMD付きになるなど、装備には多少の差がつけられている。上級モデルに乗っているといちばん実感できるのは、「キーレススタートシステム」を利用する時だろう。贅沢すぎる装備だが、便利には違いない。18万9000円の価格差というのは、かなり微妙な設定である。
「泣く子も笑う79.0万円」がキャッチフレーズだったことが象徴するように、このクラスでは価格が販売成績を大きく左右する。最廉価版が101万3250円であり、同クラスの輸入車が平気で160〜170万円というプライスタグをつけているのを見ればお得感は強い。デザインも含めた性能で、取り立てて劣るところは見当たらないのだ。
しかし、日本には「トヨタ・ヴィッツ」、「ホンダ・フィット」や「トヨタ・パッソ/ダイハツ・ブーン」、「日産マーチ」に「マツダ・デミオ」と強力なライバルが待ち構えている。「デザインと走り」を売りにするオーソドックスな手法だけでなく、もう少しプラスαが欲しい。
新型スイフトは、素質としては間違いなく優れたものを持っている。ただ、シリーズとしての魅力を高めるためには、「控えめリッチ」を貫くだけではなく、大向こうをうならせる派手な趣向が必要だ。ラインナップの拡充である。2003年に発表された「コンセプトS-2」はオープンモデルだった。かつてスズキには「カルタス・コンバーチブル」という魅力的なモデルがあったが、ぜひともスイフトにもオープンモデルを期待したい。そして、新型「スイフト・スポーツ」の早期投入も望まれるところだ。パリサロンではすでにラリー仕様も展示されていたことだし、意欲は十分にあるはずだ。
(文=NAVI鈴木真人/写真=荒川正幸(A)、峰昌宏(M)/2004年12月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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