三菱コルトプラス スポーツ-X(CVT)/コルトプラス ラリーアート(CVT)【試乗記】
くぅーちゃんを乗せたいクルマ 2004.11.27 試乗記 三菱コルトプラス スポーツ-X(CVT)/コルトプラス ラリーアート(CVT) ……185万3250円/191万1000円 「コルト」の派生車種として当初から計画されていながら、「事件」のために投入時期が遅れてしまったユーティリティワゴンの「コルトプラス」。三菱の再生の行方を占う久々のニューモデルに『NAVI』編集委員鈴木真人が乗った。 拡大 |
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ウリはデザインとテールゲート
久々の新車試乗会というのに、技術説明会に先立って15分間「お詫び」の時間が組まれていた。コルトプラスの説明が同じく15分。状況を考えれば当然だが、何とも痛々しい。
気を取り直して、コルトプラスを遠目から眺めてみる。「近未来的な卵」という意味不明な言葉が浮かぶ。コルトのリアオーバーハングを300mm延長した姿は、さらに浮世離れしたフォルムになっていた。ちょっと中途半端に思えたコルトより、ずっとデザインコンセプトが貫徹されているように感じられた。もともと、内装に関してはこのクラスではかなりがんばっていたのがコルトなのだ。いたずらに擬似プレミアム路線に走るのではなく、「ゴージャス」より「ニート」を心がけたしつらえは、ほかのクルマにはないものだった。デザインは、まぎれもなくこるとシリーズのウリのひとつである。
三菱がコルトプラスのアピール点として挙げているのは、「エレクトリックテールゲート」らしい。テレビCMでは、森の中にたたずむコルトプラスのリアハッチが静かに上がっていく様子が映しだされている。クラス初なのだそうだ。確かに、こういうのは7シリーズのトランクとか、高級車でしかお目にかかったことがない。両手に荷物を持っている時など、キー操作でハッチを開閉できるのは便利そうだ。
しかし、それがウリになるのだろうか。なにしろ、マイナスの地点から出発しなくてはならないのだから、相当なインパクトがないと意味をなさないのだ。デザインの良さと「エレクトリックテールゲート」だけでは、マイナスをプラスに転ずるのは厳しい気がする。
改善されたCVT
デビュー直後にコルトに乗って、CVTの躾けの悪さには閉口した。もともと元祖CVTたるオランダ車に乗っていたことがあって、通常のATに比べて違和感がある、という感覚は持っていないつもりだ。それでも、最近のCVTが急激に性能を向上させているのに、加速したい時にボヤボヤしていたりしてしっくりこなかった。
それ以来乗っていなかったので、今回コルトプラス・スポーツ-Xの試乗で初めてそれが劇的に改善されていたことに気づいたのである。現在小型車にとって最前のチョイスのひとつが、CVTであることは間違いない。リニアに加速し、ワインディングロードに入っても活発な走りを見せる。あとで聞くと、CVTそのものは同じだが、マッピングを変えたのだそうだ。やればできるのである。ただ、問題の残るのは電動ステアリングで、タイトコーナーでもやたらに軽いので安心感がない。技術的に困難が多いのはわかるが、そろそろしっかり仕上げていかないといけない時期に来ているはずだ。
ラリーアートに乗り換えると、これはまったく別の乗り物だった。NAモデルがドイツのMDCパワー社によって製造される新開発の1.5リッターエンジン、すなわち、スマート・フォーフォーと同じパワーソースを用いているのに対し、ターボモデルは同じ排気量でも従来のエンジンを使用している。アイドリングからエンジンは迫力のある低音を奏でているし、ステアリングの感触も重くてボディ全体にしっかり感がある。ヤンチャなスポーツモデルを作ってきた三菱のDNAがまだ生きていた、と感じさせてくれる。気分だけは、「ランエボ・ジュニア」なのだ。
充実の犬用オプショングッズ
デザインもいいし、よく走る。快適装備が付いて、そのわりに安価だ。だから売れる、とならないのが、今の三菱が置かれているツラい状況である。正攻法だけでは、なかなか事態は打開できない。何か「仕掛け」が必要だ。
その意味で、コルトプラス専用に開発された犬用のオプショングッズはとてもいい企画だと思う。シートにペットを乗せるためのキャリアやシートカバー、カーゴスペースにピッタリ収まるラゲッジソファ、そしてドッグネットやリードフックにいたるまで、さまざまなアイテムが用意されている。「ワゴン・コンパクト」たるコルトプラスのサイズとユーティリティは、ちょうど犬とのドライブに向いているようだ。
最近のブームの中、犬と一緒にクルマで出かけたい、という人は確実に増えている。『NAVI』で犬とクルマをテーマに特集を組んだ時など、自分の犬も誌面に出してくれ、という人が殺到したものだ。たぶん、三菱のDNA復活を熱烈に願う人より、愛犬とのカーライフを快適に過ごしたい人のほうが多いだろう。「新生三菱」には、そういう柔軟な発想で新たなマーケットを狙う努力も必要かもしれない。アイディアと熱意はあるのだから。
(文=NAVI鈴木真人/写真=峰昌宏/2004年10月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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