第52回:枯れゆくブナの山、檜洞丸(その1)(矢貫隆)
2004.11.04 クルマで登山第52回:枯れゆくブナの山、檜洞丸(その1)
大気汚染、酸性雨……話題にはのぼる環境問題だが、実は人知れず、意外と身近な場所で起こっていることなのだ。
それをたしかめるため、「クルマで登山」取材班は、神奈川県は丹沢にある、ちょっと地味だが美しい「檜洞丸」に向かった。そこで見たものとは……。
■不人気な山に登るワケ
編集部を出発したときには晴天だったのに、天気予報は的中して、東名高速道路の海老名サービスエリアで朝食をとっているときには、すでに雨が降り出していた。
「どうします? 行くんですか、雨が降っていても……」
担当編集のA君は、登山口に着く前から、もうすっかり雨にめげてしまっていて、言葉の端々から「今日の登山は中止にしましょうよ」の無言のメッセージが僕に伝わってきた。でも、僕は、もう“その気”になっていたから、いまさら中止なんてことは考えもしなかった。
身の危険を感じるほどの大雨ならいざ知らず、ブナの森を歩くにはうってつけの小雨なのである。中止にする道理がない。A君には経験のないことだからわからないのだろうけれど、雨に濡れたブナの森は、それはもう筆舌に尽くしがたいほど美しいのだ。
緑の葉の色がより鮮明になり、靄がたちこめる森の何と幻想的なことか。その姿を、全山がブナに覆われた檜洞丸で見ることができるのである。中止になんてするわけがないじゃない。
「クルマで登山パート2」でまず選んだ山は神奈川県の丹沢。と言っても丹沢山塊の西の外れにある、登山者の数が驚くほどすくない標高1600mの檜洞丸である。事実、僕たちが登った日、山中で出会った登山者はたった一人だった。
このマイナーで登山者に不人気な山に登ろうと決めたのには、もちろんワケがある。その第一は、乾燥した太平洋側には珍しく全山に美しいブナの森が広がっていること。
そしてもうひとつのワケは、その美しいブナの森の一部が、主に自動車排ガスを原因とする大気汚染で枯死しているという事実を知ったからである。
その現実をこの目で見るために、僕たちは大気汚染をテーマに檜洞丸を目指したのだった。(つづく)
(文=矢貫隆/2004年11月)

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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