第50回:トラブルは起こる〜「クルマで登山パート2」前口上その3〜(矢貫隆)
2004.09.06 クルマで登山第50回:トラブルは起こる〜「クルマで登山パート2」前口上その3〜
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■9時間待ち
結局、それからどのくらい待ったのか僕は覚えていない。暗くなる前に降りられたのだけはたしかだ。
翌日、テレビのニュースが何度も何度もロープウェイでやっとこさ降りてきた人たちを映し出し、アナウンサーが「予備電源で動かすため、7分のところを40分かけて降りてきた」とか言っている。僕は自分が映ってやしないかと何度も探したけれど映っていなかった。
ワキモトさんからメールが届いたのは、ちょうどその頃である。ワキモトさんというのは僕の山ともだちの若い女性で、あの日、彼女とは頂上のあたりでばったり会ったのだ。ワキモトさんのメールには“その後”が記してあった。
「私たちは21時10分の乗車予定でしたが、たびたびロープウェイのバッテリー交換をしていたこともあり、ずるずると遅れ乗車できたのは22時。9時間待ちでした。激しい雷雨で全身が濡れて身体も冷えてしまいました。人が減ったなぁ……と思い周囲を見ると、皆さん駅内のレストランやみやげ物売場の床という床に座って暖をとっていました」
「日も暮れて寒いので余ったラーメンや具材でスープをつくろうとしたのですが、水が足りずお茶でつくり始めたのを見かねた周囲の人が水を恵んでくれたりしました。おにぎりの炊き出しが何度もあり、それが本当においしく何個も食べてしまいお腹は一杯」
「夜の千畳敷は、雷雨も去って南アルプスが遠くに見え、流れ星が見えたり、なかなか良かったですが、やっとのことで乗ったロープウェイは点灯せず真っ暗で、いつ停まるか本当に冷や冷やしました」
取り残された1200人にとって唯一の小さなラッキーは、往復運賃が払い戻しになったことだった。(つづく)
(文と写真=矢貫隆/2004年9月)
【過去の記事は「webCG Archive」で】
「クルマで登山」(パート1)の記事は、「webCGメンバーズ」(http://www.webcg.net/WEBCG/members_top/)の「webCGアーカイブ」に収録されています(要ユーザーID&パスワード、登録無料!)。

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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