第132回:「2004バーゼル&SIHH時計通信」(その2)「モナコV4」作者もクルマバカだった!?
2004.06.02 小沢コージの勢いまかせ!第132回:「2004バーゼル&SIHH時計通信」(その2)「モナコV4」作者もクルマバカだった!?
■ベルト駆動のワケ
ってなわけで遂に開幕!「2004バーゼル&SIHH」改め、「2004クルマ時計モーターショー」(!?)。目玉はやっぱり、前回お伝えしたタグ・ホイヤーの「モナコV4コンセプト」だな。開発者のルショーネさんも取材できたんで詳しく解説しちゃいましょう。
この新作ムーブメント(クルマでいうエンジン)の面白さは、たしかに「クルマのエンジンの生き写し」のようなタイミングベルトやディファレンシャルギアを使った構造にあるのだが、単なるコケオドシではない。奥底には「効率アップ」というお題目、もしくは「理想論」が眠っている。
というのも、今まであったギアからギアによる動力伝達では、パワー効率に限界があるのだ。どんなに動きが滑らかでも数%は摩擦で消えていき、それはギアが増えれば増えるほど累進的に増えていく。
そこで「ベルトドライブ」。コイツもロスがゼロとはいわないが、比較的小さいし、同時に駆動できるギアも増える。よって設計の自由度は高くなり、パーツ点数が減り、最終的には効率が上がるというワケ。
そりゃそうだよね。単純に動力を伝達したい軸と軸との間を、ベルトで繋げばいいわけだからさ。ギアだと場所取るし、複雑になりがち。一部が逆回転して困ることもない。加えて軸受けに、今まで常識だったルビーの代わりに「ボールベアリング」を使うことでより摩擦が減り、注油もすくなくなるという理屈。うーむ、キモチはわかりますな。キモチは。
■理想と現実
それからね、回転運動じゃなく、プラチナインゴットのピストン運動による「自動巻きメカニズム」もスゴい。この構造のポイントは「耐久性」にある。今までの自動巻きメカニズムでは、中央の軸に対する負担が高すぎたのだ。たしかに円盤型ウエイトが一本の軸でのみ固定されてるから、落としたりした場合にかかる負担がやたら大きい。ところがピストン運動ではそれがない。ただし、効率は落ちてしまうような気がするな。なにしろ、最終的にはそれを円運動に変えなければいけないから。
それから自慢の「V4レイアウト」。コイツの理屈はまさに“クルマ”だ。というのも機械式時計の動力源は“ひげゼンマイ”といわれる小さなバネ。大抵はコイツが1つか2つしか載ってないのだが、モナコV4は4つもある。そしてそれらを水平から15度ずつ傾けた、バンク角150度のV型に配置してあるのだ。で、そのパワーを集約させるときに「差動装置」として「ディファレンシャルギア」が活躍するらしいのだが、ここんとこはよくわかってません。でもまあ、これが行き過ぎると「V6」とか「V8」とか「V12」(!?)ムーブメントってのもあるのか
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■実は“クルマバカ”
ってな具合でこの新作ムーブメントの目的は、「効率アップ」と「トルクアップ」にある。理想的には「正確かつ長時間使えるムーブ」ってことなんだろう。
ところがどっこい、聞いてみると「タイミングベルトは13本で、パーツは742ピース」って話も。やはり理想と現実の差は大きいようです。実際、ルショーネさん曰く「マーケットに出るのは2〜3年後」って話だし、まだまだこれからの技術なようです。
ところでルショーネさん、実はエンジニアというよりコンセプターで「アイディアを出したのは私だけど製作は父」という親子鷹とか(未確認)。
それから「アウディA4」「S4」「A4カブリオレ」「A6」のアウディ4兄弟に加え、「BMW850」「マセラティ3200GT」など「クルマは10台ぐらい」持ってるクルマバカ。特に今のお気に入りは「485psにパワーアップしたマセラティ」だそうな。
とにかく妙に明るくって、とても「時計オタク」とか「メカオタク」って感じじゃなかったです。どこの世界でも“天才肌”ってのは豪快なんですかね。
(文と写真=小沢コージ/2004年6月)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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