トヨタ・イプサム240s7人乗り(4AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・イプサム240s7人乗り(4AT) 2004.05.09 試乗記 ……309万4350円 総合評価……★★★ ミニバン界に押し寄せる“スポーティ”の波に合わせて設定された、「トヨタ・イプサム」のスポーティグレード「240s」。自動車ジャーナリストの森口将之が、箱根でテストした。
|
中庸の心を忘れない
「イプサム」というと、いまだに黄色い“イプー”の姿を思い出す人が多いかもしれない。でも2代目となった現行型は、初代とは位置付けが違う。エンジンが2リッターから2.4リッターになったことでわかるように、「ホンダ・オデッセイ」のライバルとして名乗りをあげたのだ。だからオデッセイがスポーティグレードの「アブソルート」を出し、それがヒットしたとなれば、イプサムも同じようなモデルを送り出す。それがトヨタというメーカーだ。
そんないきさつで2003年10月に発表されたのが「240s」だったが、わずか半月後にライバルのオデッセイがフルモデルチェンジ。アブソルートはミニバンとしては異例の専用エンジン・トランスミッションまで搭載してきた。まさにホンダの意地。記憶のなかにあるそのクルマと比べながら乗った240sは、いくらスポーティに装っても中庸の心は忘れないという、トヨタらしい精神にあふれていた。
たしかに専用エンジンは積んでいないし、デザインもあちらのほうがスタイリッシュだろう。でもミニバンを買うようなお客さんは、このぐらいのスポーツマインドを望んでいる。トヨタはアブソルートのようなクルマがつくれないのではなく、そこまで読んで240sを仕上げたのではないか。そう思えてしまうほど、その内容には説得力があった。
ただ、それが自分の趣味嗜好に合っているかどうかは、また別問題だが。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2001年5月14日に発表された2代目「イプサム」は、「ミニバン、トゥモロー」をテーマに開発された。「ホンダ・オデッセイ」にならった4枚ヒンジドアのボディは継承しつつ、車体寸法、エンジンともに、「5ナンバーサイズ、2リッター直4」の先代よりひとまわり大きくなった。ドライブトレインは、2.4リッター直4ツインカム+4ATの1種類。FFモデルのほか、「アクティブトルクコントロール4WD」システムを備え、「FF」と「4WDオートモード」が選べる4WD車も用意される。
2003年10月2日にマイナーチェンジを受け、スッキリした顔つきになり、内外装に新色が設定された。情報ネットワークサービス「G-BOOK」に対応したDVDナビが設定されたことも新しい。
(グレード概要)
マイチェンにともなってグレードが底上げされた。素の「e」は廃止され、ベーシックな「i」、よりスポーティにふった「s」、そして装備充実の「u」が設定される。それぞれにFFと4WDモデルあり。
「240s」は、イプサムの中核を担うスポーティグレード。15mmローダウンのサスペンションや専用エアロパーツ、1サイズ大きい215/50R17インチタイヤ+アルミホイール、テールパイプディフューザーなどで外観を演出。インテリアは、240sのみ、赤い照明のオプティトロンメーターや、ダークグレーのウッドパネルを装着する。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★
インパネのデザインは他のイプサムと同じで、いかにもトヨタらしくオーソドックス。ダークグレーのカラーやブラックの木目調パネル、赤い文字のメーターのおかげで、イメージは違っているが、ライバルと比べると思い切りが足りないという印象を受けてしまう。それに、室内全体がかなり暗く感じる。明るいトーンを使ってスポーティにまとめるテクニックはなかったのだろうか。
センターコンソールにあるエアコンのスイッチは、温度調節をセンターの丸いダイヤルで行う。最近よく見かけるレイアウトだが、ダイヤルの出っ張りが少なく、あまり操作しやすくなかった。逆に使いやすかったのが、ドッグレッグしたATのシフトレバー。力をかけやすく、望むポジションに楽に入れることができた。
(前席)……★★★★
240sの前席には、スポーツシートを採用している。厚みのある座面はフッカリした座り心地で、スポーティではないがラクチンではある。背もたれはわりとタイトなサポート感で、張りもあって、こちらは満足できる。シート高は高すぎず低すぎずの絶妙な位置で、ドライビングポジションは自然。しかし表面の素材や柄は黒っぽいだけで、とてもスポーティとは呼べないものだった。
(2列目シート)……★★★★
前席よりはすこし小ぶりで、形状も平板になるが、座面の厚みはじゅうぶんにあって、こちらも快適。いちばん後ろにスライドさせると、身長170cmの人間が理想的なドライビングポジションを取った場合、ひざの前には30cm近い空間が残り、頭上にも余裕がある。着座位置は前席よりすこし高めで、見晴らしもよかった。
(3列目シート)……★★★
2列目をいちばん後ろにセットしても、自分の体格ならなんとか足が入る。セカンドシートのスライド位置を中間にセットすれば、楽に座れる。ただし頭上は髪の毛が天井に触れる。
座り心地は前席や2列目と大きく違い、かなり硬め。ヘッドレストはいっぱいまで伸ばしても自分の頭には届かない。サイドウィンドウが途中で終わっているので、閉所感もある。広さはそこそこだが、こういう部分まで含めて考えると、緊急用と考えたほうがいいだろう。
(荷室)……★★★★
個人的に、3列シートのミニバンは、5人乗りを基本として、その後ろに人間を乗せるか荷物を積むかを選ぶクルマだと思っている。だから定員乗車時のラゲッジスペースの奥行きが、30cmほどしかなくても納得できる。フロアの位置は高いが、カバーの下にはかなり深い収納スペースがあり、カバーを取って背の高いものを積めるなど、いろいろな使い方ができる。3列目シートは背もたれを倒すと座面が沈み込んで低くフラットに畳めるなど、シートアレンジの使いやすさ、空間効率ともに優れている。ここまできたら、あとはヘッドレストを外さなくても畳めるようにしてほしい。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★
2.4リッターの直列4気筒エンジンは、他のイプサムと共通。急な上り坂でなければ力不足は感じないが、発進直後の加速を意図的に鋭くしたセッティングは、長く乗っているとわずらわしさを感じる。4000rpm以上まで回すと大きくなる音は、耳障りな音質ではないものの、スポーティモデルとしての演出はいまひとつ。組み合わせられるATが4段なのも、不満が残る。ライバルのオデッセイ・アブソルートが専用エンジン・トランスミッションを持ったいまとなっては、物足りなさが残る。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
乗り心地は普通のイプサムよりは硬めになっている。街なかでは揺れが目立つこともあるが、ボディ剛性がしっかりしているおかげもあって、鋭いショックは伝わってこない。ミニバンのスポーティモデルとして絶妙なセッティングだ。
ハンドリングはかなり満足のいくものだった。タイヤが太くなったためか、ステアリングは重めだが、ロールはうまく抑えられているし、フロントのグリップレベルは高く、リアの挙動変化も控えめになっている。ブレーキもじゅうぶんな効きを示してくれた。「ミニバンは運転が楽しめない」と思っている人も、これに乗れば考えが変わるだろう。
(写真=清水健太/2004年5月)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2004年4月5日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:5974km
タイヤ:(前)215/50R17(後)同じ (いずれもトーヨー・トランパスJ48 )
オプション装備:前席SRSサイドエアバッグ&SRSカーテンシールドエアバッグ(7万3500円)/音声案内クリアランスソナー&<イプサム・シアターシステム>G-BOOK対応DVDボイスナビゲーション付ワイドマルチAVステーション(53万3850円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(5):山岳路(2)
テスト距離:283.5km
使用燃料:43.6リッター
参考燃費:6.5km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】 2026.6.2 かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
NEW
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
NEW
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。 -
NEW
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える
2026.6.4デイリーコラム「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。 -
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。




