フェラーリ612スカリエッティ(2ペダル6MT)【海外試乗記(前編)】
大上段のフェラーリ(前編) 2004.04.07 試乗記 フェラーリ612スカリエッティ(2ペダル6MT) オリジナルのデビューは1992年まで遡る「456」シリーズにかわる、フェラーリの新しいフラッグシップがついに登場した。ひとまわり大きくなった“4シーター”モデルはどうなのか? 『webCG』コンテンツエディターのアオキが、イタリアはマラネロで乗った。後席の居心地
「612スカリエッティ」はフェラーリの2ドアセダンである……という言い方は、もちろん極端にすぎる。最新の跳ね馬は、いうまでもなく「456」シリーズを引き継ぐビッグクーペだが、でも、後席の居住性は「2+2」の範疇を超えている。「ご家族向けに最適です」と、フェラーリのスタッフが真顔で説明するほどに。
後席に座ると、リアに向かってなだらかに下るルーフラインから逃れ、天井と頭部との間にクリアランスを確保するために、シートクッションはやや窪んでいる。しかし、たとえば「クーペ・フィアット」だとか「シボレー・カマロ」などと較べると−−クルマの大きさがまったく違うが−−オシリの沈み具合はズッと控えめに抑えられる。上方を仰ぎ見ると、完全に大きなリアガラスの下にいることがわかるが、それでもガラスと頭の間には“実用的”といえる隙間が生じ、膝前にも最小限のスペースがある。センタートンネル後端には、エアコンの吹き出し口あり。
車両本体価格(税込み)2890.0万円(6MT)/2990.0万円(F1 A)という高級車にもかかわらず、612スカリエッティの後席における居心地がいわゆるエクスクルーシブカーのそれと違うのは、上体をしっかりホールドするシート形状ゆえで、なぜなら乗っているクルマがフェラーリだからである。つまり、アグレッシブなドライビングのもとでも、リアの住人は、右へ左へと振りまわされずにすむ。気持ちは悪くなるかもしれないが。
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アルミスペースフレーム
フェラーリと縁の深いボディ製作工場とそのオーナー、セルジオ・スカリエッティから名前をとった新しいフラッグシップ。左右フロントフェンダーの高い峰が、優雅にリアまでうねる。前輪後部からドアに至るボディサイドの深い“えぐり”がスタイリング上の特徴で、これは、1954年のパリサロンに展示された「375MM」−−映画監督ロベルト・ロッセリーニが女優イングリッド・バーグマンに贈った特別な375MM−−からの歴史的引用である。
とはいえ、ピニンファリーナは、単なるノスタルジーからデザインを決めたわけではない。
612スカリエッティのボディは、456よりひとまわり大きくなった。20cm近く長い4902mmの全長、全幅は1957mm(+37mm)、全高1344mm(+44mm)。堂々たる上屋を載せるホイールベースは、なんと35cmも延ばされた。プラス2を超える居住空間をもつキャビンを実現するため(と、エンジンの搭載位置を改善するため)である。
長い車軸間距離の弊害で、最新フェラーリのサイドビューが間延びした印象を与えることを嫌ったピニンファリーナは、過去の台帳から、みごとな解決策を探し当てた。豪華なグランドツアラー実現のための要件と名門のプライドを両立させるデザインコンセプトを。
大きくなったトップモデルは、しかしカバリーノランパンテのバッヂにふさわしい動力性能を得るため、相応に重くするわけにはいかない。そのために採られた方法が、1999年デビューの8気筒ベルリネッタ「360モデナ」で経験を積んだスペースフレーム構造である。アルミニウムの押し出し材をアルミの鋳造パーツで繋いで骨組みをつくり、やはりアルミのパネルを溶接とリベットで貼り付けることによってボディを構成する。
612スカリエッティの車重は1840kg(欧州仕様車のKerb Weight)。日本仕様の「456GT/GTA」が1860/1970kgだから、軽量化技術の霊験あらたか。内装ほか装備品を除いたホワイトボディの状態では、1割ほど軽いという。しかも62%もの剛性アップを得て。同サイズの“普通の”クルマと比較すると、「40%は軽い」というのがフェラーリの主張である。(つづく)
(文=webCGアオキ/写真=野間智(IMC)/2004年4月)
・フェラーリ612スカリエッティ(2ペダル6MT)【短評(後編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000015056.html

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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