フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーラン GLi(6AT)【ブリーフテスト】
フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーラン GLi(6AT) 2004.03.19 試乗記 総合評価……★★★ ……310.0万円 フォルクスワーゲンが送り込んだニューモデル「ゴルフトゥーラン」は、「ゴルフV」ベースのコンパクトミニバン。自動車ジャーナリストの河村康彦は、VWらしいドイツ風味を強く感じた。
|
ドイツ風味がプンプン
全長4.4m弱の比較的短いボディに、3列7座のシートを詰め込んだ、日本でいう“ミニ・ミニバン”カテゴリーを狙ったのがトゥーラン。もっとも「ゴルフトゥーラン」なるネーミングは、日本市場だけのもの。本国ドイツをはじめヨーロッパの各市場では、単に「トゥーラン」と呼ばれる。
輸入元であるフォルクスワーゲングループジャパンが、このクルマに“ゴルフ”のサブネームをつけた理由は、やはり、ゴルフのブランドが圧倒的な知名度を備えるからだろう。となれば、販売台数がすくなく、認知度が決して高くない「ボーラ」も、今後「ゴルフボーラ」に変わる可能性が否定できない……。
冒頭で「全長は比較的短い」と紹介したが、全幅は1795mmとワイド。VWにいわせれば「これが国際基準のディメンション」なのだろうが、狭い路地での取りまわしや駐車の難易度は、日本製ライバルのそれを下まわるかもしれない。
日本仕様が搭載するパワーパックは、1.6リッターもしくは2リッターの直列4気筒DOCH16バルブに6段ATの組み合せ。エンジンは直噴ヘッドを採用したリーンバーンで、高燃費と高出力の両立を謳う。トランスミッションは日本のアイシンAW製で、多段ギアのティプトロニック……と、最新テクノロジーを惜しげもなく投入した。多くの日本車が、直噴エンジンはおろか5段ATの採用すら躊躇するなか、VWのファミリーカーが最新の日本の技術を用いて、ひと足先へ去って行ったことは、日本人としてちょっと考えさせられることがらでもある。
|
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2003年のジュネーブモーターショーでデビューした「トゥーラン」は、「ゴルフV」のプラットフォームをベースにつくられたコンパクトミニバン。本国では単にトゥーランと呼ばれるが、日本ではブランド戦略上からか、馴染みのある「ゴルフ」の名をつけ、「ゴルフトゥーラン」として販売される。
日本に導入されるのは、1.6リッターと2リッターの直噴ガソリンエンジンを積む2グレード。それぞれ「E」と「GLi」と呼ばれる。トランスミッションは、いずれにもアイシン製の横置きティプトロニック6段ATが組み合わされ、前輪を駆動する。シートレイアウトは、本国ではオプションの3列7人乗りのみだ。
ハードウェアのポイントは、すべてを合わせると70mにおよぶレーザー溶接、高張力鋼板を使用して剛性と安全性を高めたボディ、高出力と高燃費を両立したという直噴「FSI」エンジンと、アイシン製6段ATなど。ミニバンのウリであるシートレイアウトは、3席を独立して取り外せるセカンドシートにより、多彩なシートアレンジを実現。3列目はレバー操作で、床面とフラットに格納できる。
(グレード概要)
日本に導入されるトゥーランは、1.6リッターと2リッターの直噴「FSI」ユニットを積む2車種。本国でラインナップするディーゼル仕様(1.9と2.0)は導入されない。
グレード間に装備品の差異はほとんどなく、2リッターはフォグランプ、クロームルーフレール、アルミホイール(1.6はスチールホイール+キャップ)が標準。インテリアは、2リッターにサイドサポートのついたスポーツシート、フルオートエアコン(1.6はセミオート)や本革巻きステアリングホイール&シフトノブ、アルミパネル装飾が備わる。
全6個のエアバッグ、アクティブヘッドレスト、7席ぶんの3点式シートベルトなど、安全装備は全車共通。ESP、EBD付きABS、ブレーキアシストなど、電子デバイスも、グレードにかかわらず標準装備される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)…★★★★
ダッシュボードのデザインはいかにもVW車らしい、シンプルでちょっとビジネスライクなテイストが特徴だ。ランプや空調スイッチ類のロジックもVW流だから、このクルマを操るのに難しい説明書は必要ない。大径スピード&タコメーターはすこぶる見やすいが、間に挟まる「マルチファンクション・インジケーター」は面積が小さい。そのわりに、時間や燃費、ODOメーターや速度など、表示内容を盛り込み過ぎで、やや煩雑な印象だ。アップライトな運転姿勢が前提なのか、取り付け角度がかなり「上空を向いている」のも、ちょっとした違和感があった。
といっても、ダッシュボードまわりの雰囲気は、ゴルフのサブネームを抵抗なく受け入れることができる。まもなく日本にやってくる、次期「ゴルフV」のそれよりも、むしろ「ゴルフらしく感じられるデザイン」といえるかもしれない。
(前席)……★★★
2リッターを積むトゥーランGLiの前席は、スポーツシートが標準装備される。スポーツとはいっても、もちろん極端なバケットデザインであるワケではない。乗降性も1.6リッター「E」の標準シートに較べて遜色ない。着座感はいかにもVW車らしく、面圧が高くてちょっと硬めだ。
シーケンシャルモード付きのATレバーが床から生えるため、前席左右間の素早い移動は、事実上不可能。日本のライバル車のように、コラム or インパネシフトの採用に踏み切れないのは、ヨーロッパにおいて、このクラスのクルマがまだMT主流であるがゆえのことだろう。
ちなみに、トゥーランのAピラーは、モノスペースカーとしては立ち気味に配置される。そのため、コーナリング時の死角が比較的気にならないのが美点だ。フロントフードとAピラーを直線的にデザインした、最近のミニバンの多くは、運転視界に入る死角が危険ですらある。
(2列目)……★★★
フロントシートより45mm高い、676mmのヒップポイントを与えられた2列目シートは、3席独立して取り外し&スライドが可能。センターは左右席よりやや小ぶりで、すなわち大人が長時間3人がけを続けるのは少々辛い。2人用とわりきって、中央のバックレストを前倒しすれば、テーブルとして使える。フロントのシートバック裏側に観光バス風のテーブルを備えるのは目新しいが、つくりは華奢で、パソコンテーブルとして用いるにはちょっと勇気が必要かもしれない……。
センター席も含め、すべてのポジションに3点式シートベルトとヘッドレストが標準で装備される。左右席には、チャイルドシート固定用のISO-FIXアンカーを内蔵。安全装備の充実はさすがだ。
(3列目席)……★
サードシートは、左右分割で床下に格納できる。シートバックの前倒しに連動して、クッションが下降しながら前進するという、「スズキ・ワゴンR」が先鞭をつけた収納方式だ。
資料には「大人でも十分くつろげる本格的なシート」とあるが、実感として、納得しがたい。シートサイズは小ぶりだし、フロアとシートクッション間のヒール段差が狭くてつま先が入らず、“体育座り”を強要される。実はこのサードシート、ヨーロッパ仕様の場合はオプション設定だ。日本仕様は“ミニバン”のタイトルを名乗りたいがために、あえて標準装備としたのである。
(荷室)……★
「人が乗れば荷物が載らない。荷物を積めば人が乗れない」
……これが、あらゆるコンパクト・ミニバンの泣き所だ。人数分の荷物がきちんと積めないとオハナシにならないヨーロッパでは、だからこそ、サードシートがオプション扱いになるわけだ。
スペアタイヤを省略(リペアキットを搭載)するなど、できるだけスペースを稼ぎ出そうと頑張るトゥーラン。だが、サードシート使用時は、やはり「ほとんど荷物は積めない」。一方、サードシートを収納し、さらにセカンドシートを取り外せば、ワンボックス・バン顔負けの広大な荷室空間が出現する。この状態なら、★5つを差し上げるのだが……。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
GLiグレードに搭載されるのは、最高出力150psの直噴エンジン+6段AT。実はこのコンビネーション、すでに日本導入済みの「アウディA3」と同じである。1〜6速のギア比も同じだが、ファイナルが下げられた(4.103から4.315)トゥーランの方が好印象だ。リーンバーンを行う直噴エンジンにありがちな、浅いアクセル開度時のトルクの細さなど、まったく気にならない。それどころか、多段ギアの威力もあって、予想したよりずっとパワフルで強力な加速感が味わえる。
アイシンAW製のATは、マニュアルトランスミッション風味を醸し出す、メリハリの効いたシフトプログラムの持ち主ながら、加減速はスムーズに行う。ちなみに、トゥーランのキャラクターを考えれば、個人的には「1.6リッターでも加速力は十分」という印象を受けた。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
トゥーランの試乗会は、千葉県は幕張の埋め立て地域をベースに「ひと枠40分」と短いものだった。アメリカの都市のような、大きな四角に区画整理された地域と、混雑した高速道路を流れにまかせてチョイ乗りしただけ。そんな制約のなかでも、VW車らしい硬質な走り味が感じられた。低速域では、路面の凹凸を正直に拾うが、速度が増すほどに高まるフラット感は、多くの人に「さすがはドイツ車」という印象を与えるだろう。
ただし、背の高さと垂直に近いボディサイドの断面形状ゆえ、横風には強いとはいえない。ここが、ゴルフやポロなど“普通のVW”とは大きく異なる部分だ。日本ではさほど問題になるまいが、「150km/h巡航が日常」の人々にとって、これは看過できないポイントのはず。ヨーロッパでは、まだまだミニバンは少数派だが、横風問題にも原因があるはずだ。
いずれにしても、見た目は地味だが、走りはドイツ風味なのが、トゥーランの特徴である。
(写真=清水健太)
【テストデータ】
報告者:河村康彦
テスト日:2004年2月20日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2004年型
テスト車の走行距離:--
タイヤ:(前) 185/55R1205/55R16(後)同じ(いずれもミシュラン ENERGY)
オプション装備:チルト機構付電動ガラス スライディングルーフ(11.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5):高速道路(5)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。

































