フィアット・プント エモーション スピードギア(CVT)【ブリーフテスト】
フィアット・プント エモーション スピードギア(CVT) 2004.01.22 試乗記 ……176.0万円 総合評価……★★★ 1999年の2代目デビューから4年、フロントにグリルが付いた“普通の”顔に「プント」がフェイスリフト。イタリアの新たな大衆車は、日本で受け入れられるのか? 1.2リッター+CVTのベーシックグレードに、自動車ジャーナリストの渡辺慎太郎が試乗した。![]() |
フィアットの指標
フィアットにとってプントというクルマは、フォルクスワーゲンにとってのゴルフのような存在である。メーカーの顔とも言える代表的車種であり、稼ぎ頭でもある。だから「プントがダメ=フィアットがダメ」、という方程式が成り立ってしまうほど、プントに課せられた責務は重大だ。
ヨーロッパでは2003年3月に累計販売台数が500万台に達するなど人気は上々で、実際どこの国でもプントをよく見かける。ところがここ日本では、1997年春から販売を開始して以来、登録台数はようやく1万台に届く程度。東京でもプントに出会うことは稀である。決して悪いクルマではないのに、日本での販売台数が伸びないのはなぜだろう。ディーラー網整備の遅れが最大の理由であることは確かだが、クルマ自体にも何らかの原因があるはずだ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
初代プントが登場したのは1993年。発表試乗会に行ったが、フィアットの新しい屋台骨の誕生ということで、トリノ市を挙げてのそれはもう盛大なものだった。2代目のデビューは1999年。フィアット創業100周年の大イベントで初お披露目となった。フィアットにとってプントというクルマは、社運を賭けた存在なのだ。ちなみに、フィアットが「第3世代」と呼ぶこのプント、主要変更箇所はフロントまわりの意匠などで、シャシーやパワートレインは従来型のそれを引き継ぐ。本国では2003年の6月に発表、同12月から日本での販売が開始された。
(グレード概要)
日本仕様は「エモーション・スピードギア」と「HGT」の2種類。前者は1.2リッター+CVT、後者は1.7リッター+5段MTのパワートレインをそれぞれ搭載する。今回試乗した「エモーション・スピードギア」の価格は176.0万円だが、本革巻きステアリング&シフトノブ、キーレスエントリー、デュアルゾーン式フルオートエアコン、ESPなど、標準装備はとても充実している。
【室内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
立体的に盛り上がったセンターコンソールに、パワーウインドー用を含むほとんどすべてのスイッチが配置される。その使い勝手は、後で思い出すのに苦労するほど印象の薄い、つまり違和感なく操作性に優れたものだった。ダッシュボードの樹脂の質感は価格相応。でもこの点は歓迎すべきこと。以前の小型イタリア車のインテリアといったら、すべて価格以下の質感だったのだから。ところで、どうしてシフトゲートまわりだけ、燦然と光り輝く鏡面仕上げなのか?
(前席)……★★★
日本仕様のプントはいずれのモデルも右ハンドルのみの設定だが、ペダルやステアリングのオフセットは気にならないレベル。シートは座り心地もホールド性も良好。高さ調節もできるのが嬉しい(運転席のみ)。シートポジションはアップライト気味だから、ほぼ全方位の視界が確保されている。
(後席)……★★★
まず、人数分のちゃんとしたヘッドレストが用意されている点を高く評価したい。こういうクルマ、ミディアムサイズのセダンでもなかなかお目にかかれない。居住スペースは前後左右ともこのクラスの標準的広さだが、特に天地方向にゆとりがある。座り心地は悪くない。
(荷室)……★★★
このクラスのハッチバックで、腰を抜かすほど巨大な荷室を持つクルマはないし、たいていの場合はリアシートが可倒式だからその必要もない。よってこのプントの荷室も必要にして充分の容量と言える。ハッチゲートは鍵がなくても外から開けられたほうが便利だと思う。運転席脇にオープナーあり。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
「エモーション・スピードギア」に積まれるのは、最高出力80ps、最大トルク11.6kgmの1.2リッターエンジン。あまり多くを期待せずに乗り込んだが、これがよく走る。特に低速トルクが予想以上に太く、そのうえトルクのツキもすこぶるいい。だからクルマが停止した状態からの動き出しがスムーズかつパワフルでもある。ただし5000rpm以上になると、エンジン音が大きくなるだけで速度の上がり方は途端に鈍くなる。市街地を中心とした使い方には最適なエンジン特性と言える。トルコンを使ったCVTの出来は悪くないが、シーケンシャルモードではシフトダウンの切れがいまひとつ。Dレンジで充分。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
箱根に向かう東名高速道路上では、乗り心地もハンドリングも「まあこんなもんでしょう」程度の印象に過ぎなかった。不快感も不穏な動きもない反面、飛び抜けて良いところも見当たらない。ところが山岳路に入った瞬間に、プントは水を得た魚のように生き生きとし始める。サスペンションは前後とも極めてしなやかにストロークして良質な乗り心地を提供。同時に四輪の接地性が高く、特に後輪がしっかり粘って路面を離さない。当日はメルセデスのCL500も同行していたのだが、セミアクティブサスペンションを持つCL500よりも、このプントのほうがはるかに安心して飛ばすことができた。電動パワステも違和感なし。
新型プントは、動力性能は市街地向き、ハンドリングはワインディングロード向きという、日本の交通環境ではどっちつかずの性格の持ち主だった。一方ヨーロッパは市街地が点在し、市街地と市街地はワインディングロードで結ばれている場合が多い。ヨーロッパで乗れば、この上なく楽しく実用的なクルマだろうと思った。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:渡辺慎太郎
テスト日:2004年1月13日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:881km
タイヤ:(前)185/60R14 (後)同じ
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(5):山岳路(3)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

渡辺 慎太郎
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。