ホンダ・ライフF(4AT)【ブリーフテスト】
ホンダ・ライフF(4AT) 2004.01.21 試乗記 ……111.7万円 総合評価……★★★★ ホンダのスウィーツ「ライフ」。シャーベットのような色調のボディカラーをまとった新型軽はどうなのか? 別冊CG編集室の道田宣和が乗った。全方位的配慮
乗り始めてすぐ、20年前のクラウンそっくりだと思った。軽いステアリング、ソフトな乗り心地。そして、なによりもイージーで安楽なところがよく似ている。当時のクラウンは2リッターが主流だったから、今日の自動車技術では、わずか1/3の排気量で同等の快楽を得ることができるようになったわけだ。そう思うと、小さいのにどこか大人びた風情さえ感じられる。
それにしても最近の軽自動車は概してよくできている。すくなくとも街なかではこれでいいじゃないか。いや、これ以上何を望むのかと思わせるだけのものがある。さらに、軽自動車最大のポイントが「限られた空間をどう有効利用するか」。シートアレンジや、小物入れの工夫は各社各様で、まるでアイデアコンテストの態を成している。もちろんライフも例外ではなく、こと実効性のあるアイデアという意味では、むしろ最右翼に属すると言ってよい。
そんな“全方位的な”配慮がすみずみまで行き届いたライフではあるけれど、結論から言ってしまえば、哀しいかな平和で文化的に過ごせるのは、依然、タウンユースかせいぜい日常的な生活範囲まで。法的にはせっかく高速道路での100km/h走行が可能になった軽ではあるけれど、近頃の行動力あふれる女性にはややツライ乗り物でもある。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2003年9月にフルモデルチェンジしたライフは、これまで以上に女性、それも未婚・既婚の別なく若い女性を強く意識したモデルとなった。丸っこいイメージのスタイルや、アイスクリームのように“バニラ”や“マッチャ”や“カラメル”が選べる淡いクリーム色のボディカラー。そして、シリーズの顔的な存在の新しいシート配列を持つFタイプでは、「車外に出ることなく、後席のチャイルドシートに括り付けた幼児の世話ができる」と明確にターゲットを絞っている。
(グレード概要)
今回テストしたのは、“助手席チップアップスライド機構”が付いた、そのFタイプ。価格的にはシリーズのちょうど中間で、望めば新型ライフの全グレードがそうであるように、ターボ(11.0万円高)も4WD(12.0万円高)も選択可能だが、そのいずれも付いていないテスト車の場合は本体価格が105.0万円。これにメーカーオプションのカードキー(3.7万円高)とフルオートエアコン(3.0万円高)が組み込まれていた。
新型ライフではグレードの差は事実上シートの違いと言ってよく、Fタイプの上に位置するDタイプ(117.0万円)はフロントシートを同じトリコットでもスウェード調のベンチ式に改め、アルミホイールやテールゲートスポイラーを奢ったもの。下位のCタイプ(95.0万円)はFタイプのセパレートシートはそのままに、助手席のチップアップスライド機構を省略したものだ。でもこの“廉価版”、装備の点では(マニュアル)エアコンやキーレスエントリー、AM/FMチューナー付きカセットステレオなどが最初から付いてくるから、すでに十分と言えよう。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
クルマを道具として使うなら、操作は簡単であればあるほど煩わしさがない。最近の“白物家電”がいい例だ。今や軽自動車の大半が水温計から単なる警告灯に置き換わっている。このクルマに備わる液晶式の「マルチインフォメーションディスプレイ」はその考えを一歩進めたものだ。
青山のホンダ本社でクルマを受け取った時は、3つある表示モードのうち、たまたま「距離計/外気温計」にセットされていたため、それが「マルチインフォメーションディスプレイ」だとは即座には分からなかった。実はスイッチ(唯一の難点はステアリングリムの陰に隠れていて見えにくく、押しにくいこと)を押すたびに表示が次々と変わり、燃費計(瞬間値/平均値)やエンジン回転計にもなるというもの。最も重要な燃料計は、どのモードにしていても同じ“窓”の中に常時表示され、それが残り少なくなった時には警告マークが自動的にチャカチャカと点滅し始める。こうした割り切りは大歓迎である。
ほかの装備も申し分ない。キーレスエントリーや電動格納ドアミラー、すべてのドアに電動式パワーウィンドーが装備される。強いて言えば、エアコンはエンジンの絶対的な発熱量が小さいためか、普通車に比べて温度設定を高めにしないと十分には暖かくならなかった(スズキ「ワゴンR RR-DI」もそうだった)。オプションのカードキーは、身に付けてさえいれば車外からもクルマとの距離次第でドアロックが自動的にオン/オフされる。あればあったで便利。が、エンジンをかけたまま、クルマをロックして離れる時など、イグニッションキーと併用することまではできず、ならば結局どちらを常用すべきか迷ってしまうこともままあった。まったくの余談だが、そのためかクルマの返却に際してカードキーだけを手許に置いたまま、返し忘れてしまった。
一方、小物入れの数と容量をどれだけ確保できるかはインテリアデザイナーの腕の見せどころ。新型ライフの場合は、T字型のセンターコンソールを挟んでダッシュボード下方に左右ひとつずつ設けられた大きめのトレイがすこぶる使いやすい。センターコンソール自体も、かつての「N360」以来ホンダ得意のダッシュシフトを採り入れており、膝まわりの余裕を作るのに一役買っている。ただし、やや位置が下すぎて、操作の途中で左手が“空を切る”ことが一度ならずあった。
(前席)……★★★
モダンな設計の軽自動車としてはごく標準的。特に広くも狭くもない。けれども明るい室内色のためだろう、実際以上にゆったりと見せるのには成功している。現実にはそうでもない証拠に、助手席側へのウォークスルーを試みるとダッシュシフトがかえって仇となり、その下端に取り付けられたカップホルダーが膝頭と干渉するのである。シートそのものはフランス車的な肌合いのトリコットが心地よく、リフター等も有効に機能して決して悪くはないのだが、惜しむらくは、なぜかステアリングチルトだけが装備品リストから欠落。ドライバーによってはベストのポジションが得られないかもしれない。
(後席)……★★★★
手柄は前席だが、その恩恵を享受するのは後席。2420mmと、かつてのミドルクラス後輪駆動車並みのホイールベースを誇る新型ライフは、通常でも軽とは思えないレッグルームの長さとヘッドクリアランスの余裕で乗る者を驚かせてみせる。ひとたび“チップアップスライド機構”を使って助手席を前方へと追いやってみると、そこにはまさに“軽リムジン”とでも呼びたいほどの圧倒的な空間が出現する。しかも、リアシートは背もたれが左右別個にリクライン可能。意外なメリットとして、その席に座った人間は否応なくシートベルトを締めるようになる。いうまでもなく、目の前に何もないからだ。
ただし、謳い文句の“前後ウォークスルー”は全幅の制約からか、またチップアップスライドさせられた助手席のバックレストがやや邪魔になり、むしろその点に関してはワゴンRの方がマシだった。
(荷室)……★★★★
通常、軽の荷室は申し訳程度のもの。集中ロックでドアと連動するテールゲートを開けてみると、意外にもかつての“リッターカー”並みの奥行きが確保されていた。それもそのはず、考えてみれば今や軽の“建坪”はその昔“五平米カー”と呼ばれたダイハツの初代シャレードのそれに近いのだから、当然と言えば当然なのである。
そのこと自体もさることながら、より一層感心させられたのは広義の意味での荷室。リアシートのバックレストが左右別個に倒せるのはすでに述べたが、クッションについても同様で、しかもその倒れ方が“ダイブダウン”と言って、巧妙なリンケージによって前方のフットウェルにキレイに収まり、その上に背もたれが被さることによって、本来の荷室フロアとほぼ面一になるのである。これはかなり使いやすい。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★
中速域、すなわち首都高に乗るまでの速度域であれば不満はほとんどない。ただし、電気的な負荷が増すと自動的に起こるアイドルアップが、実は予想外の“過激さ”。回転数にすれば僅か100か200rpmアップにすぎないのだが、クリープが強く、うっかりするとズルズルと這いだしてしまう悪癖がある。
すくなくともその速度域ならエンジンは静かでスムーズだし、パワーも必要なだけは確保されていて、これといった痛痒を感じることはあまりない。ただし、やはり絶対的なパワーが限られているせいで、普通車の感覚で多少なりとも“無理”をするとてきめんに馬脚が現れてしまう。
この場合、“無理”は必ずしも速度要因だけではない。たとえば発進に際して目一杯スロットルを踏んでみると、エンジンは7500rpmのリミットまで“狂ったように”きっちりと回って、加速そのものはまずまず期待しただけのものが得られる。そのかわり音は一転してやかましくなり、上のギアにバトンタッチされた瞬間、大きなショックも伴う。限られたパワーを補うためギアリングは全体に低めで、メーター読みの100km/hは4速ギアで4000rpm、3速ギアで5200rpmも回っている。そんな中では、タウンスピードで合わせたラジオのボリュームでは足りず、かなり音を大きくしないと聞こえないが、それでもなおノイズに掻き消されがち。事実上聞くに耐えないほどだ。
さらに困るのは各ギアが“ショート”なことで、2速は85km/hまでしか届かない。そのうえ各ギアとも、シフトアップしてからの伸びがきわめて緩慢。だから、せっかく前のクルマがレーンを譲ってくれたのに、横に並んだはいいがいざ追い越そうとすると追い越せない、というようなことが高速道路では頻繁に起きる。
それにしても軽にこそ、なぜ複雑な構造の4段ATに代えて、伝達効率の良いCVTを使わないのだろうか? 上記短所の大半はそれだけで大いに改善されるはずである。
悪態ついでにもうひとつ。それを解決するのが近頃軽に流行のターボと言うのだろうが、その考えに筆者は与しない。そもそも、様々な恩典と引き替えに排気量制限の課せられる軽で、実質排気量アップに繋がるターボの装着は脱税行為に等しいと思っているからだ。少なくとも4人乗りの“ミニマムオールラウンダー”としては、800ccないし1リッター程度のオプティマムな排気量を与え、軽の枠と恩典を撤廃する代わりに、そのクラス全体の税金を引き下げるべきである。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
ステアリングのロック・トゥ・ロックが3.7回転と超スローな点を除けば、ハンドリングと乗り心地はまずまずの合格点。足まわりは全体に軽としては比較的しなやかな挙動を示し、目地や段差に逢うと、軽くポコポコと音を発しながら適当にいなしてみせる。悪くない。
EPS(電動パワーステアリング)は以前よりはるかにマシな手応えと、適度なセンタリング感を持ち、コーナリングでもこれといった破綻がない。その意味では完全にエンジンより足まわりの方が勝っていて安全。ただし路面が濡れている時だけは例外で、タイヤのウェットグリップがプアなのか、全体にヌルヌルと曖昧な感じが拭えず、コーナーで頑張りすぎたりするとフロントが明らかに逃げていくから、要注意である。
そこの元気なお母さん、気をつけてくださ〜い。
(写真=清水健太)
【テストデータ】
報告者:道田宣和(別冊CG編集室)
テスト日:2003年12月26日〜2004年1月7日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:8137km
タイヤ:(前)155/65R13 73S(後)同じ
オプション装備:ホンダスマートカードシステム(3.7万円)/フルオートエアコン(マニュアルエアコンとの差額として。3.0万円)
形態:ロードインプレッション
走行形態:市街地(6):高速道路(4)
テスト距離:841km
使用燃料:69.4リッター
参考燃費:12.1km/リッター

道田 宣和
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