ホンダ・ライフ ディーバターボ スタイリッシュパッケージ(FF/4AT)【ブリーフテスト】
ホンダ・ライフ ディーバターボ スタイリッシュパッケージ(FF/4AT) 2009.01.27 試乗記 ……173万2500円総合評価……★★
フルモデルチェンジをした新型「ライフ」は、女性ユーザーを意識して、取りまわしや使い勝手の向上が図られたという。さて、その乗り心地はいかに?
“ホンダ”から“軽”に
思えば先代「ライフ」、軽自動車としては相当つくり込まれたクルマだったが、結果としてセールスの面で好成績を残すことはできなかった。その一番の要因は、デザインだったのではないだろうか。クリーンで魅力的だった先々代に対して、妙にやわらかくデザインされ過ぎた外観が、男性だけでなくユーザーの8割を占めていたという女性にまで嫌われてしまったというところではないかと筆者は思っている。ハードウェアが良いだけでは、軽自動車の場合は特に、販売には繋がらないのだ。
そこで新型ライフがとった戦略は、まず3種類の外観デザインを用意するというもの。これなら保険が効くということであろう。元々のデザインも遊びの要素が薄まってシンプルに、そして良い意味でカジュアルになった。
そして、それでもやはり多い女性ユーザーのことを考えて、取りまわし性や使い勝手に大いに配慮しているのも特徴だ。視界の良さや居住性、収納の充実ぶりといった部分は綿密に練り込まれていて、新型ライフの大きなセールスポイントとなっている。そうした点こそを重視するならば、高い点数が与えられる。
しかし一方で、先代まで高く評価されていた走りの部分は、今回輝きを失ってしまったかな……というのが正直な印象だ。先代までが、軽云々は関係なく、あくまでホンダだというクルマだったとしたら、新型はあくまで軽の範疇にある、とでも言おうか。特にシャシー性能や乗り心地の面で、余裕や上質感が薄らいでしまった。
あるいは本当に、先代でそこにこだわっても売れるわけではないと痛感したのかもしれない。しかし皮肉なことに、ライバル達は最新世代で、いずれも走りのクオリティをおおいに引き上げてきた。ライフだけが流れに逆行してしまったのだ。
実は試乗からそれほど時間が経っていないのに、走りの感触を思い出すのに結構難儀してしまった。最近は、軽自動車でもそんなことはそれほど多くはない。ましてやこれは、ホンダ車なのだ。そう考えると、とても寂しく感じられたというのが実感である。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「360度良好視界」を謳う現行「ライフ」は、およそ5年ぶりにフルモデルチェンジした。大きなグリーンハウスや、バックモニター付きのオーディオなどの装備にくわえ、ホンダの最新安全装備「i-SRS連続エアバッグシステム<容量変化タイプ>」を採用し、運転しやすく安全な環境を実現したという。
標準モデルのほか、エレガントな「パステル」、スポーティな「ディーバ」と3種のラインナップは、それぞれ異なるフロントマスクが与えられた。エンジンは、0.66リッターNAとターボの2種で、いずれも4段ATとの組み合わせ。駆動方式はすべてのグレードにFFと4WDが用意される。
(グレード概要)
「ディーバ」は、オリジナルのフロントマスク、ブラック内装とシルバーの可飾でスポーティイメージを高めたグレード。試乗車は、なかでも最上級となるターボエンジン搭載車。64psと9.5kgmを発生する。14インチアルミホイールやヒーテッドドアミラーを標準装備。さらにスタイリッシュパッケージには、ディスチャージヘッドライトとテールゲートスポイラーが与えられる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
インストゥルメントパネルの上面はフラットかつ低めで、しかもその向こうにはヘッドランプ上部に設けられたマーカーが見えており、車両間隔を把握しやすくしている。ステアリングホイールの形状は手にしっくり馴染むもの。インパネシフトの操作感も上々だ。小物入れやポケット、コンビニフックなどが充実しているのもありがたい。
試乗車はオプションのナビシステム付きだったが、標準ではオーディオに4.3インチ液晶のバックモニターが埋め込まれている。駐車が苦手な人は重宝するはずだ。
この「ディーバ」では、ブラックを基調にメーターリングやドアハンドルなどにメッキを配してスポーティな演出を試みているが、見映えはそれほど立派なものではない。ダッシュボードなどの樹脂部分のありきたりなシボも、その一因。先代ライフもそうだが、プラスチックをプラスチックらしく使うことで、かえって安っぽく見せないのがホンダの上手さだったのに。
(前席)……★★★★★
ジャージ素材とされたベンチタイプのシートは、フラット過ぎず適度なサポート性がもたされており、十分なサイズ。しっかり体重を支える座面とあわせて気持ちよく座ることができる。頭上のスペースも余裕。肘を避けるようドアトリムをえぐるなどの細かな配慮も嬉しくさせる。
低めのインストゥルメントパネルに対して着座位置は上げられており、細身とされたフロントピラー、やはりグッと低めとされたサイドウインドウのガラスライン、視界を邪魔せず後方をしっかり映すドアミラーのおかげもあって、実に広々とした視界を獲得している。新たにリアクォーターウィンドウを設けた斜め後方を含め、視界は全方位で上々。取りまわしの良さに大いに貢献すると同時に、明るい室内空間をつくり出している。
(後席)……★★★★★
センターピラー部分に装備されたグリップは、小さな子供やお年寄りの乗降性を高めるべく採用したという。ドア開口部もギリギリまで広く取られており、たしかに気を遣わずに乗り込むことができる。カタログは賑わせても結局は使わずに終わる複雑なアレンジは採用せず、リクライニング機構だけが備わるこの後席だが、シートのサイズが大きめなことに加え、膝の前には握り拳を縦にして2つ入れられるほどの余裕の足元空間を確保しているおかげで、ゆったり座ることができる。前席下部が、伸ばした爪先を難なく入れられる形状とされているのも大柄な人には嬉しいだろう。ドアトリムには半透明樹脂でアクセントをつけたカップホルダー付き。遊び心のあるデザインが、ちょっと豊かな雰囲気をつくりだしている。
(荷室)……★★★
後席スペースに余裕をもたせたぶん、荷室サイズはそれなり。しかし日常使用で困ることは、そうは無いはずだ。バンパーとの間に高さの差はあるものの、低いフロアのおかげでベビーカーも立てて積み込むことが可能である。強いて言えば、ここにもコンビニフックの類いがいくつかあってもよかったかもしれない。広大とはいえない空間だからこそ、とことん効率良く使えるよう工夫が欲しい。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
軽自動車のターボエンジンに対する一般的なイメージからすると、回転上昇はスムーズだしターボラグも小さい。2000rpmも回っていれば厚みのあるトルクのおかげでスーッと速度が伸びる。1、2速のローレシオ化も、発進時には効いているはずだ。60〜90km/hあたりまでの高速域も実に気持ち良い。ここではアクセル操作に即応するレスポンスで思い通りに加速できるし、巡航時には静粛性も際立つ。もちろん必要とあれば思い切り踏み込むことで、さらに強力な加速を得ることも。その際のサウンドも小気味よく、回すのが苦にならない。
CVTを採用するモデルが増えているなかで、4段ATはハンディになるかとも思ったが、完成度の高いエンジンのおかげで、それを意識させられることはまったくなかった。
(乗り心地+ハンドリング)……★★
プレス向け資料には「セルフアライニングトルクを活かすサスペンションジオメトリー」とあったが、実際に走らせてみると、どうにもステアリングホイールの座りが悪く、真っ直ぐ走らせているつもりでもギクシャクして舵角の微修正が必要になる。コーナリング時も基本的な感触は同様。スーッと一定の力で切り込んでいっても手応えは一定ではなく、結果として安心してペースを上げていけない。
乗り心地も、突き上げが大きく、しかも縮んだサスペンションが伸びる時の引き戻し感も強くて疲れてしまう。ヒョコヒョコとした動きは始終落ち着かないし、薄いタイヤはコトコトと細かな段差を拾い続ける。乗り心地もハンドリングも、歴代ライフを思うと、一体どうしてしまったの? という印象だ。
(写真=郡大二郎)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2008年12月8日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2008年型
テスト車の走行距離:1437km
タイヤ:(前)165/55R14(後)同じ(いずれも、ヨコハマ A-461)
オプション装備:Honda HDDインターナビシステム(リアカメラ付き)(17万8500円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5):高速道路(5)
テスト距離:113.1km
使用燃料:12.26リッター
参考燃費:9.23km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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