フォード・エスケープ 2.3XLT(4AT)【試乗記】
存在感の希薄な慎ましさ 2003.12.27 試乗記 フォード・エスケープ 2.3XLT(4AT) ……229.0万円 マツダとフォードが共同開発したコンパクトSUV「エスケープ」が、2003年秋のマイナーチェンジでマツダ製エンジンを採用。広島でつくられるアメリカンSUVに、『webCG』エグゼクティブディレクターの大川悠が乗った。日本製アメリカンSUV
「よいしょ」とかけ声をかけるほど、高くはない室内に乗り込んで見まわすと、とても素っ気ないが、事務的で清潔なルームが広がる。気取りはないけれど、きちんと機能は抑えられていて実利的だ。スウェーデンのエレクトロラックスの家電のようでもあるし、アメリカのビジネス用品を拡大したようにも感じる。
まず駐車場から出ようと、ウィンカーを操作したらワイパーが動いたとき、やっと気がついた。本当に久しぶりに乗るクルマなので忘れていたが、フォード・エスケープの右ハンドル版は、広島のマツダ工場製。車検証の所有者こそ、ミシガン州ディアボーンのフォードとなっているが、このクルマはれっきとした“メイド・イン・ジャパン”なのだ。
思えば、フォードとマツダの間で本格的なプラットフォームの共用が始まったのが、エスケープとその兄弟車「マツダ・トリビュート」なのだ。それを考えれば、両者は結構真面目に歩み寄っている。
2003年秋、エスケープ(とトリビュート)がマイナーチェンジを受けた。基本的に変更概要は同じで、4気筒エンジンの換装、足まわりのリファイン、室内細部の変更などである。一番変えられたのはエンジンで、これまでフォード製だった2リッター直列4気筒は、マツダがイニシアティブをとって開発した2.3リッター(フォードはデュラテックHE、マツダはMZRと呼ぶ)に変更された。上級グレードが積む、フォード製3リッターV6はそのままである。
改めて室内を観察すると、たしかにデザインは機能的で妙に小細工をしていない。むしろ、質素といいたくなるほど控えめだが、ダッシュやドアまわりなどの仕上げ、表面の品質感や立て付けなどは、きちんとしている。空調やオーディオ関係のスイッチが大きめなのも、使いやすくていい。ただし、以前はもっと実利的なデザインだったファブリックシートの柄が、おばあさんの信玄袋のようなモケットになったのは、何となく日本車っぽくて好きになれないが。
かなり心地よい
エンジンの変更は正しい判断だった。旧式な4発は、オールアルミのより現代的なエンジンに換えられ、単に出力とトルクを高めた(それぞれ+28psと2.0kgm)だけでなく、よりスムーズかつ静かになった。際だってスポーティなエンジンでも、味わい深いノートを出すわけでもないし、別にそれらは求められてもいない。だが、中低速トルクがあって実用域で使いやすく、100km/hで2200rpmぐらいという、SUVとしては比較的ハイギアードな設定にも合っている。4ATのピックアップもいい。すくなくとも日本で普通に使う限り、エスケープはこの4気筒で充分。3リッターV6は、熱心なアメリカンSUVファン以外には不要だろう。
エスケープに最初に接したのは4年近く前、サンフランシスコ北のボデガ・ベイ(蛇足だが、ヒッチコックの”鳥”の舞台だ)へ往復した、アメリカでの試乗会だった。その時は、フリーウェイから州道1号線というオンロードでの快適性と、アメリカンSUVらしくない、きちんとしたロードマナーが印象的だった。思えば、「エクスプローラー」が旧世代のトラックシャシーの時代だったから、セミモノコックで、しかもかなりリファインされた足を持つこのクルマが印象的だったのだろう。
その後、エクスプローラーは相当に進化したし、ライバルの小型SUVもどんどんリファインされている。今となっては、このクルマが特に際だっているとは言えない。それでも、ステアリングと足まわりの細かなリファイメントも効いて、依然として一般路ではかなり心地よいクルマである。
憎めないクルマ
絶対的に大きなバネ下重量や、タイヤの重さが影響する目地段差などの高周波領域でのショックを除けば、一般路での乗り心地はかなりいい。多少ノイズを発生するが、全天候型タイヤ「ダンロップST20 GRANDTREK M+S」の柔らかさも効いている。遠い記憶にある、多少曖昧だったステアリングフィールは、きちんとした応答を示すようになったと思えるし、一体感のあるコーナリング姿勢も残されていた。
一見地味でシンプルに見えるシートは、意外としっかりしたサポートを与える。テールゲートだけでなく、リアウィンドウだけを開閉できるという、使い勝手への配慮も示されている。ともかく、SUVをつくり慣れた(苦労もしたけれど)フォードが、その経験をしっかりと生かして小型化したクルマという、本来の性格は当然変わっていない。
分類不能なクロスオーバーカーや、プレミアムSUVなどが隆盛をふるうなかで、エスケープは何となく存在感が薄い。形も控えめでつかみ所のないクルマだけど、久しぶりに乗って「憎めないクルマ」であることは確認した。もともとSUVにはあまり興味がないリポーターは、アメリカ政府の傲慢な姿勢を具象化したような大型SUVに反発すら感じるのだが、エスケープは、自らの存在感すら希薄にしてしまうほどの慎ましさがいい。それでいて、ラフロードではかなり頑張れるのを理解している。
“No Boudaries(限界無き世界)”がフォードのテーマだ。自分の世界を広げようと思ったとき、大げさな武器をまとうよりも、こういう身軽なクルマで出発する方がカッコイイのじゃないか、とも思う。
(文=大川悠/写真=清水健太/2003年12月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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