トヨタ・セルシオeR仕様(6AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・セルシオeR仕様(6AT) 2003.10.30 試乗記 ……737.4万円 総合評価……★★★ 2005年から国内でも展開予定の「レクサス」ブランドを視野に入れた、マイナーチェンジ版「トヨタ・セルシオ」。5段ATから6段ATになったフラッグシップに、ジャーナリストの森口将之が乗った。
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さらなるレベルアップを
「トヨタ・セルシオ」としてのマイナーチェンジは、おそらくこれが最後になるハズ。2005年から、日本でもレクサス・ブランドがスタートするからだ。そのフラッグシップとして、セルシオが欧米と同じように、レクサス・ブランドで売られるのは確実。このクラスは年々輸入車のシェアが大きくなっているだけに、さすがのトヨタも、このままではイケナイと考えたのだろう。
日本でレクサス店を展開するというニュースを聞いてまもない今回のマイナーチェンジ。しかもその内容は、ATを5段から6段に変えるなど、欧州のライバルを睨んだものに感じられた。
そういう観点からセルシオをチェックすると、圧倒的な静かさや滑らかな加速、予想外の好ハンドリングなど、優れた部分もあるものの、もう少し頑張ってほしいという箇所もいくつか見受けられた。2年後の本番(?)へ向け、日本プレスティッジカーの代表として、さらなるレベルアップを期待したい。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1989年にデビューした高級サルーン。静粛性や品質において世界中から賛辞を受け、注目を集めた。北米市場では、高級ブランド「レクサス」で販売され大ヒット。自家用車にはなりにくいドメスティックモデル「センチュリー」をのぞけば、名実ともに日本を代表するプレスティッジカーである。現行モデルは、2000年8月にフルモデルチェンジを受けた3代目。2003年8月にマイナーチェンジを受け、デザイン、走り、安全性の向上が図られた。
エクステリアは、スラントを強めたボンネットなどでダイナミズムを強調。インテリアは、内装色と木目パネルの組み合わせを変更。グローブボックスの使い勝手や、エアフロー機能を備えた「コンフォータブル・エアシート」を後席にも採用するなど、細かい改良が施された。ナビゲーションシステムが、テレマティクス「G-BOOK」に対応したことも新しい。
機関面では、シーケンシャルモード付き6段ATの採用がトピックである。エンジンは、従来と同じ4.3リッターV8DOHC(280ps、43.8kgm)だが、トランスミッションの多段化によって発進加速や燃費性能が向上。燃費は10・15モードで、従来比0.7km/リッターアップの8.9km/リッターとなった。さらに全車「超-低排出ガス」車認定と、2010年燃費基準をパス。グリーン減税に適合した。
安全面は、「ハリアー」に初採用された、ミリ派レーダーを使う予防安全システム「プリクラッシュセーフティシステム」をオプション設定。そのほか、ステアリングホイールの切れ角にあわせて、ライトの照射角を変える「インテリジェントAFS」(アダプティブ・フロントライティング・システム)、運転席/助手席SRSニーエアバッグなどが標準装備された。
(グレード概要)
テスト車のeR仕様は、ヨーロピアンに(?)アシまわりを硬めに設定したモデル。その名もズバリ、「ユーロチューンド・サスペンション」。タイヤサイズは、他グレードの「225/55R17」から「245/45R18」と、グッとスポーティなものを履く。内装は、本革が標準仕様となる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★
デザインはオーソドクスで、これといった特徴はない。トヨタのフラッグシップであれば、この面でも「攻めの姿勢」がほしいところ。ウッドパネルのクオリティは高いが、メタル調のセンターパネルや、上面の革シボの部分の高級感はいま一歩だった。
オプティトロンメーターは見やすいが、スイッチ類があちこちに点在していて、ステアリングなどに隠れて見えないものも多い。スイッチ類の表示に、日本語と英語が混じっているのも違和感がある。どちらかに統一したほうがいいのではないだろうか。
(前席)……★★
eR仕様には専用の本革シートが奢られるが、クオリティは平均的なレベルだった。形状はいいのだが、腰を下ろしたときの沈み込みがほとんどない。つまりクッションの厚みが感じられない。スポーティカーならこれでもいいのかもしれないが、プレミアムセダンなのだから、もうすこし豊かさや深さを感じさせる座り心地がほしい。
(後席)……★★★★
前席よりもクッションの厚みが感じられて、座り心地は快適。着座位置はフロントよりもやや高め。足を斜め下に伸ばした疲れにくい姿勢がとれる。座面の傾斜は適度で、背もたれは立ち気味と、角度についても不満はなかった。
(荷室)……★★★★
いまやヨーロッパ車でも、荷室の広さを測る尺度として定着しつつある「ゴルフバッグ」の積載数。発信源(?)といえるトヨタのセルシオは、余裕で4人分を収納できる。欧州製のライバルと比べて奥行きは劣るが、幅が広い。フロア下にトレイを用意するなど、日本車らしいきめ細やかさも備える。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
エンジンは、とにかく滑らかで静か。とくに音は、普通のペースで走っているかぎり、「ささやき」に近い。3500rpmあたりからメカニカルノイズが高まってくるが、そのときのサウンドはメルセデス・ベンツに似ていて、無機質だが緻密だ。力の余裕もじゅうぶん以上で、普通に走るには2000rpmもまわせばよく、6速での100km/h巡航はたった1800rpmでこなす。
ATは、今までの5段から6段マニュアルモードつきになり、ようやく欧州のライバルに追いついた。おかげで、エンジンはほとんど吹け上がらないのに速度だけが上がっていくという、高級車らしい加速が堪能できる。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
ユーロチューンド・サスペンションを装着するeR仕様だが、乗り心地は穏やか。ボディ剛性の高さも実感できる。しかし、細かい上下動やユラユラした左右の揺れが意外に目立つ。他の多くのトヨタ車と同じで、サスペンションがあまり動いていない感じだ。だからスピードを上げていってもフラット感はあまり得られず、音は静かなのにそれなりに速度感がある。直進安定性も平均的なレベルだった。
一方、ハンドリングはいい。よくできたFR(後輪駆動)車そのもので、しっとりした手ごたえのステアリングを切ると、前後の外輪にバランスよく過重がかかり、操り手の意志どおりの軌跡を描いて、きれいにコーナーを抜けていく。セルシオがここまでワインディングロードを楽しめる乗り物だとは思わなかった。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2003年9月26日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:2349km
タイヤ:(前)245/45R18 96W(後)同じ(いずれもブリヂストン TURANZA ER33)
オプション装備:クリアランスソナー(7.4万円)/本木目ステアリングホイール&シフトノブ(5.0万円)/コンフォータブル・エアシート前席(5.0万円)/レーダークルーズコントロール(7.0万円)/セルシオサウンドシステム<MDプレーヤー一体AM/FM&6連奏DVDオートチェンジャー+G-BOOK対応DVDボイスナビゲーション/11スピーカー/バックガイドモニター(63.7万円)>/光脱臭機能付オートエアピュリファイヤー(4.0万円)/スペアタイヤ(17.3万円)/245/45R18 96W+18×7.5JJアルミホイール(8.0万円)
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(5):山岳路(2)
テスト距離:269.1km
使用燃料:33.0リッター
参考燃費:8.2km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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