トヨタ・セルシオC仕様 インテリアセレクション(6AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・セルシオC仕様 インテリアセレクション(6AT) 2003.10.11 試乗記 ……775.1万円 総合評価……★★★ マイナーチェンジを受けた3代目「トヨタ・セルシオ」。6段ATを搭載し、動力性能と環境性能の両立を図った。 自動車ジャーナリストの河村康彦がテストドライブ!
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インパクトの系譜
初代モデルのデビューは1989年10月。トヨタの、というより「日本初」の“フラッグシップ”サルーンとして、日米の高級車市場を見据えて開発された。ドアを閉じた瞬間に訪れる、外界とは隔絶された静粛の世界。アクセルペダルを軽く踏み込んだだけで「一級スポーツカーもかくや」と思わせる圧倒的な加速力。それまで「クラウン」や「セドリック」こそが“高級”と信じていた人たちに大きなインパクトを与えた。衝撃を受けたのは、国内外の自動車メーカーも同じ。特に、間違いなく“世界一”の称号が贈られる「静粛性」には、どのメーカーのエンジニアも驚愕と戦慄をおぼえたハズ。
現行モデルは3代目。エンジン排気量が、いままでの4リッターから4.3リッターにアップされた。2003年8月のマイナーチェンジで、外観や装備を一部リファイン。目玉は、6段ATのトヨタ初採用と「プリクラッシュセーフティシステム」が設定されたことだ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1989年にデビューした高級サルーン。静粛性や品質において世界中から賛辞を受け、注目を集めた。北米市場では、高級ブランド「レクサス」で販売され大ヒット。自家用車にはなりにくいドメスティックモデル「センチュリー」をのぞけば、名実ともに日本を代表するプレスティッジカーである。現行モデルは、2000年8月にフルモデルチェンジを受けた3代目。2003年8月にマイナーチェンジが施され、デザイン、走り、安全性の向上が図られた。
エクステリアは、スラントを強めたボンネットなどでダイナミズムを強調。インテリアは、内装色と木目パネルの組み合わせを変更。グローブボックスの使い勝手や、エアフロー機能を備えた「コンフォータブル・エアシート」を後席にも採用するなど、細かい改良が施された。ナビゲーションシステムが、テレマティクス「G-BOOK」に対応したことも新しい。
機関面では、シーケンシャルモード付き6段ATの採用がトピックである。エンジンは、従来と同じ4.3リッターV8DOHC(280ps、43.8kgm)だが、トランスミッションの多段化によって発進加速や燃費性能が向上。燃費は10・15モードで、従来比0.7km/リッターアップの8.9km/リッターとなった。さらに全車「超-低排出ガス」車認定と、2010年燃費基準をパス。グリーン減税に適合した。
安全面は、「ハリアー」に初採用された、ミリ派レーダーを使う予防安全システム「プリクラッシュセーフティシステム」をオプション設定。ステアリングホイールの切れ角にあわせて、ライトの照射角を変える「インテリジェントAFS」(アダプティブ・フロントライティング・システム)、運転席/助手席SRSニーエアバッグなどが標準装備された。
(グレード概要)
セルシオは、ベーシックな「A仕様」、スポーティな「eR仕様」、そしてエアサスが奢られる豪華版「C仕様」に大別される。C仕様のさらなるラクシャリーバージョンとして、レザー内装の「インテリアセレクション」、後席の快適装備を充実した「Fパッケージ」、両者を併せた「Fパッケージ・インテリアセレクション」が用意される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
一見すると「何も変わったように見えない」のが、マイナーチェンジを受けた新型のインテリア。とはいえ、ATゲートにシーケンシャルモードが加えられたことや、自発光式のメーターの指針が赤色から白色に変わったことなどを、これまでのモデルのユーザーであれば指摘できるはずだ。そのほか、後席に足元照明が追加されたことや、間接照明付きの後席用バニティミラーが設定された点などが新しい。
なお、マイチェンモデルは、トヨタが推進する情報ネットワークサービス「G-BOOK」にも対応を果たした。セルシオ用の場合、ホテルや航空券の予約などまでが行える「オーナーのための秘書代わり」を目指した、高級車オーナー向け限定の有人(オペレーター)サービス「G-BOOKプレミアムコール」が設定される。
(前席)……★★★★
マイナーチェンジでの変更点は「A仕様」の表皮がモケットからウールモケットに変更されたことと、従来のアイボリーとチャコールがそれぞれ新アイボリーとグレーに変わった程度。テスト仕様の「インテリア・セレクション」仕様のシート生地は、柔らかさと滑らかさが特徴のセミアニリン・レザーとなる。10WAYのパワーシートには、シートクッションの長さ調整機能が追加される。
(後席)……★★★★
テスト車には、「リアパワーシート」が装備される。ただし、シートバック上端を支点にクッションが前にスライドしてリクライニング角を調整する方式のため、違和感を抱く人もいるかもしれない。シートサイズはたっぷりしているが、センター足元を大きなトンネルが左右に分断するので、3人がけはきつい。大型のアームレストを出して左右2人がけが適当だ。
(荷室)……★★★
4人分のゴルフバッグのフルセットを「余裕でのみこむ」というトランクルーム。容量的には十分な印象。半ロック状態まで閉じるとそこから先は自動的に引き込む「イージークローザー」付き。が、もはや世界のフラッグシップ・サルーンでは、「自動開閉式」が標準になりつつある。この期に及んでそれを実現しなかったのは、不満。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
マイナーチェンジでのパワートレイン系のニュースは、オートマチックトランスミッションが6段化されたこと、それに尽きる。ポジションがひとつ増えたことで1速をローギアード化して発進加速性を向上させる一方、ハイギアードなトップ(6速)ギアを加えて燃費を稼ぐというわけだ。これによってカタログ燃費(10・15モード)を、8.2から8.9km/リッターへと向上させ、いわゆる「グリーン税制」の対象車種へと昇格した。
各ギア間の段差(ステップ比)が小さくなったので、加速の滑らかさも一層向上する理屈。確かに、一定アクセル開度で加速を続ける際は、セルシオ特有の息の長い加速感にさらに磨きがかかった。ところが、瞬時の加速が必要になってアクセルペダルを踏み加えると、ときに2段階のギアダウンが必要となって、従来型より変速に時間がかかる場面も。なお、ギアの多段化にともなってシーケンシャルモードを加えたのは正解だ。ちょっとしたエンジンブレーキ力が欲しい場合など、シーケンシャル用ゲートにシフターを入れておけば、1クリックで操作が行えるのが便利。
それにしても、“日本の”フラッグシップが「280ps」というのは、もはや国際的に寂しい。これでは、記号上で海外のライバルたちに太刀打ちできない。この問題を、次のモデルはどう解決するのだろうか。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
足まわりの改善部分は、「シューズの1インチアップとモノチューブ式ダンパーの採用による操安・乗り心地性の向上」とのこと。モノチューブ化でピストン径がアップ、減衰力の応答性が向上した、はずなのだが……。実際に乗ってみると、従来型からの劇的な変化は感じなかった。操安性面ではハンドリング云々よりも、ブレーキのペダルタッチ向上が記憶に残った。舵の正確性という点では、この新型でも、メルセデスベンツやBMWの水準に追いついたとはいえない。
意外だったのは、路面の種類によっては、ロードノイズがけっこう目立つ場合があったこと。走りのフラット感も、最新欧州ライバルのいくつかには追いついていない。次のフルモデルチェンジに期待したい。
(写真=清水健太)
【テストデータ】
報告者:河村康彦
テスト日:2003年8月26日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:1036km
タイヤ:(前)225/55R17 95W(後)同じ
オプション装備:クリアランスソナー(7.4万円)/レーダークルーズコントロールブレーキ制御付(7.0万円)/セルシオ“マークレビンソン”プレミアムサウンドシステム(MDプレーヤー一体AM/FMマルチ電子チューナーラジオ&インダッシュ6連奏DVDオートチェンジャー+G-BOOK対応DVDボイスナビゲーション付EMV)、11スピーカー、音声ガイダンス機能付カラーバックガイドモニター(63.7万円)/光脱臭機能付オートエアピュリファイヤー(4.0万円)/スペアタイヤ(グランドタイヤ+塗装ホイール)(6.0万円)
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(6):山岳路(1)
テスト距離:202.1km
使用燃料:24.3リッター
参考燃費:8.3km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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