ホンダ・エレメント(4AT)【短評(前編)】
若い国から来たクルマ(前編) 2003.04.26 試乗記 ホンダ・エレメント(4AT) ……287.5万円 “フリータイムマシーン”の“遊びの入り口、広げました”新型モデル登場!! 「ホンダCR-V」のコンポーネンツを活用、アメリカで開発された「エレメント」がそれ。観音開きのサイドドアをもつ輸入SUVに、『webCG』記者が乗った。エレメント試乗報告、前編。アメリカ生まれ。259.0万円
ホンダの新しいSUV「エレメント」のモチーフが、「ライフガードステーション」だと聞いて、いかにもアメリカンな発想だなぁ、と感心した。アメリカでは、ライフガードがスイマーやサーファーを見守るため海岸に建てられたライフガードステーションは、“自由な生き方の象徴”なのだという。窓を開ければ海や空につながり、閉めれば安全な場所になる……。ボクが慣れ親しんだ江ノ島マイアミビーチじゃあ、監視台といえばヒョロ長い足が伸びた貧相なもので、遊泳時間が終われば(風で倒れるとアブナイから)横倒しにされて翌朝を迎える存在だったけどなぁ。
ホンダ・エレメントは、アーバンSUV「CR-V」のコンポーネンツを活用して「ホンダR&Dアメリカ」が開発した、北米生まれのクルマである。つまり輸入車だ。「サイドアクセスドア」と呼ばれる観音開きのドアが最大の特徴で、しかもBピラーがないので、前後のドアを開けると、アッケラカンと広い開口部が得られる。
「アコード」由来の2.4リッター直4エンジン(160ps、22.2kgm)を搭載、本国アメリカではスティックシフト(MT)やFF(前輪駆動)もラインナップされるが、日本に入るのは、4段ATを介して4輪を駆動するモデルのみ。4WDシステムは、前後輪間をオイルが循環、前後に回転差が生じたときに多板クラッチが圧着されてフロントからリアにトルクを配分する、ホンダ独自の「デュアルポンプ式」である。価格は、259.0万円。
エンドレスサマー
エレメントのプレス試乗会は、すでに夏の気配を感じる沖縄で開催された。
試乗前夜。ビーチに向かって開放されたレストランに、ホンダのアメリカンSUVが展示された。暮れゆく空の下、ビーチボーイズが流れる。
夕食時に隣の席に座った、Principal Engineer Vehicle Researchとして開発に携わったアート・セント・シアーさんが説明してくれる。
「シアトルからテキサス、ニューヨーク、ロサンジェルスと、アメリカ各地の大学をまわってリサーチを行いました……」。その結果、彼ら彼女たちが求めるクルマは、「道具として使える機能的な」モノだったという。
−−かつて、若者のあこがれはマッチョなスポーツカーだったはずですが?
「たしかにそうしたクルマで“自分を表現したい”と考えるヒトもいました。しかし、80%におよぶ若者は、クルマをツールと捉えていたんです」
−−クルマがまったく当たり前な存在になったからでしょうか? 日本では、自動車はもはや冷蔵庫や洗濯機と変わらない、と論ずるむきもありますが……。
ワッハハと笑ったのち、シアーさんはエレメント開発のキーワードが「エンドレスサマー」だったと教えてくれた。エンドレスサマーとは、“いつまでも終わらない夏”というよりも、「社会人までの、自由で、なんでもでき、思い通りに行動できる、人生でもっともスバラシイ時期」を指す。エレメント開発にあたっての想定ユーザー年齢は22歳。それはもちろん、購入層の実年齢ではなく、「クルマを機能的に使う」ヤング・アット・ハートな精神の表現として、である。“ツールとしてのクルマ”が、前向きに考えられているわけだ。
−−日本では、いつまでも社会人になりたがらないヒトは、“モラトリアム”に浸っているとみなされますが……。
「アメリカでは、そのようなネガティブなとらえ方はしません」と応えると、シアーさんは静かに笑った。いうまでもなくエレメントは、陽気で、楽天的で、いまだに若く、依然として“若さ”を賛美する国から来たクルマなのだ。(つづく)
(文=webCGアオキ/写真=河野敦樹/2003年4月)
ホンダ・エレメント(4AT)【短評(後編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000013172.html

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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