日産プリメーラハッチバック(6MT)【海外試乗記】
日本でも売りませんか? 2003.03.13 試乗記 日産プリメーラハッチバック(6MT) 新生ニッサンを象徴するモデルのひとつとして、その斬新なデザインがデビュー時に話題になった「日産プリメーラ」。わが国ではセダンとワゴンのみだが、欧州では5ドアハッチも用意される。webCGエグゼクティブディレクターは、プリメーラの5ドア版が大いに気に入って……。セダンよりピュアに見えるハッチ
ロンドンの朝、ホテルの前にもうクルマが待っていた。シルバーのそれは一見すると日本にもある「日産プリメーラ」の4ドアのようだった。だが、後方に回ると、ボディからやや突き出した感じの薄い三角形のテールランプが目に入る。そういえば、先日乗ったキャディラックの「CTS」もこんな感じだったと思いながら、さらに見るとCピラーの傾斜が強く、真後ろに回るならワゴンにも似たリアグラスの形状が特徴的だ。
「プリメーラワゴン」のスタイルは、1930年代後期のドイツ流体力学実験車を彷彿とさせているのが好きだが、このボディも同じようなイメージを醸し出す。
イギリスで作られ、ヨーロッパ内を中心に販売されている5ドアハッチバック版のプリメーラは、とても魅力的に思えた。日本で売られているセダンより、ずっとピュアな造形で、プリメーラの思想が明瞭に表現されていると思った。
実は初めて見たのは2年前のジュネーブショーの会場である。そこに居合わせた東京からのニッサン広報の方に「どうして日本でも売らないのですか?」とうかがったら、「先代も先々代も5ドアハッチは売れなかったし、プリメーラだけでなく、日本ではこの種のボディは人気がないから、当面は売る気はありません」という答えが返ってきた。
個人的見解をいえば、日本で5ドアハッチが人気がないと決めつけるのは早計で、実はまともなできのいいモデルが少なかっただけに過ぎないし、輸入車ではかなりマーケットを開拓しているのだから、メーカーの都合というより、現場のセールスの販売熱意の欠如が原因だと思う。
実際初代プリメーラの5ドアは、数こそ少ないが、たまに見るととてもバランスがいいし、セダンよりも何となくIQが高く見えて好きなクルマの一つである。
そんなこともあって、今回ニッサンUKで仕事があったのを機会に、前から気になっていたこのクルマを貸していただいたのだ。
日本より厳しいセキュリティ
リアのハッチを開けて荷物を積もうと思ったら、これが開かない。聞けば渋滞中などの瞬間的な強盗防止のために、エンジンがかかっているときはテールげートは外から開かないという。
しかもよく見ると、ドライバー側ドアにはキーホールはない。基本的にリモコンキーで開閉することになっているのに古典的な金属キーと組み合わされている。これはどこを開けるときに使うのだろうと真剣に観察したら、助手席側のドアノブ端部のカバーを外すと、キーホールが現れるのがわかった。いざリモコンの電池がなくなったときのために、これが隠してある。世知辛い世の中になったものだ。
それほど重くないテールゲートを開けて、出現したセダンより広い荷室に旅行用ケースを積み、ドライバーズシートに収まれば、見慣れたプリメーラの世界である。
しかもこのクルマでは、ATのシフトレバーの代わりにマニュアルのレバーがあった。英国生産のニッサン車としては初めて採用された6段MTである。今回のモデルは「T-spec」と呼ばれるスポーティ版で、6MTとともにやや固められた足まわり、ノーマルの16インチより幅広い215/50サイズの17インチ径「ダンロップ SPスポート300」を履く。
ただし同じ6MTを使う日本版のスポーティ版「20V」が204psのSR20エンジンを使っているのに対し、こちらは日本の20Gと同じQR20DEユニットを持つ。このエンジンも英国製で出力表示は140psと日本版より10ps低いが、これは多分計測方法の違いだろう。
高いバランスと特徴的なスタイリング
結局このクルマでバーミンガムの大手ディーラーを経て、スコットランドまであとわずかというイングランド北部、ニッサン英国工場があるサンダーランドに近いニューカッスルまで、合計370マイル、つまり約600km弱を一日で走った。その80%がモーターウェイという状況だったから、プリメーラハッチのすべての面がわかったとはいえないが、少なくとも快適なハイウェイクルーザーであることは確認した。
イギリスのモータウェイの一部は、古いためもあって舗装が荒いところが少なくない。こういう場所ではどんなクルマもかなり路面騒音を伝える。標準よりもややオーバーサイズのタイヤを履いたこの「T-spec」は、こういうところではハンディとなるが、基本的にかなり静かに走る。4気筒エンジンは独特の鼓動を常に伝えているが、高速車線の一般的な流れである80マイル(128km/h)ぐらいでは、ほとんど気にならない。
70マイル(112km/h)だとレブは6速で2800ぐらい、この辺りから加速しようとすると一瞬トルクのフラットスポットに足を引っ張られるから5速に落とす必要がある。そうすると3200で、ここまで回せばトルクもまた力強くなる。さらに4000から上はトップエンドに向けてスポーティかつスムーズに吹け上がる。そのときの排気音もなかなか気持ちよく、いかにもイギリスのスポーティサルーンといった気分がする。
乗り心地は完璧にフラットではないけれど、このクラスとしては洗練されているし、ロンドン郊外などの荒れた一般道でも直接的な衝撃はあまり感じない。
このスペックになるとレザー内装になるが、シートのつくりがいいのだろう。腰痛持ちのリポーターとしては一日600km近くを走り通しても、身体のどこも痛くならなかった。こういうクルマは、意外と少ない。
別に山坂を飛ばした訳じゃないから、そのハンドリングについて多くを語ることはできない。ただモーターウェイを飛ばしたときに知ったのは、ある速度以上になるとステアリングフィールがほんの少しだけ頼りなくなることで、フロントがわずかにリフトしている感じがする。でもそれはドイツあたりで目一杯飛ばしたときの速度域での話である。そんな風に扱いたいユーザーは、どうせ英国をはじめとするヨーロッパ各国で用意されている空力用後付けパーツで武装するだろう。
燃費は一回だけ計測できた。このときは190マイル(304km/h)走って31.4リッター、つまりリッター9.7kmぐらいだから、まあ妥当な数値だろう。
基本的には日本で乗るプリメーラと同じで、ダイナミック能力で特に秀でているというのではなく、全般にバランスがとれて洗練されたサルーンである。でもこのクルマ何よりのウリは、先鋭的なスタイリングにある。そうだとしたら、そのデザインの思想性がより明瞭に出ている5ドアボディを、日本でも売らない手はないと、リポーターは個人的に感じる。くどくなるけれど、別に日本人はハッチが嫌いなのじゃない。いい5ドア・ハッチが少なかっただけに過ぎないのである。
異常なミニバン・ブームが沈静化したら、あるいは家族構成が変わったら、少なからぬユーザーが、再びこの種のボディに回帰してくるはずだと信じている。
(文と写真=webCG大川 悠/2003年3月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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