三菱ランサーエボリューションVIII GSR(6MT)【試乗記】
悲しいサガ 2003.03.05 試乗記 三菱ランサーエボリューションVIII GSR(6MT) ……334.3万円 2003年1月29日に8代目となる「ランサーエボリューションVIII」が発表された。従来の5段に加え、6段仕様が追加され、ジマンの電子制御技術「AYC」が「スーパーAYC」に進化した。富士スピードウェイで行われた試乗会で、自動車ジャーナリストの河村康彦が試乗する。
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進化に対する免罪符
ぼくは「ランエボ」こと「三菱ランサーエボリューション」は、とにかく“WRC(世界ラリー選手権)を戦うために生まれたクルマ”だと思っていた。だから、三菱自動車が2003年WRCへのワークス参戦中止というニュースを耳にした直後にエボリューションVIIIが登場すると知ったとき、「一体何のために?」という強い違和感を抱いた。
戦いの場を失ったランエボなんて“唄を忘れたカナリア”と同じ。速さの追求だけを続けてきたこのクルマは、WRC参戦という目標がなくなった瞬間に存在意義を失う。「VIIで打ち止めにしておいた方がよかったのに……」という思いばかりが募ったものだった。
けれども、改めて三菱自動車にことの真相を聞いてみると、「できることなら2004年には活動を再開し、やはりランサーで戦って勝ちたい」という。今年の戦いを休むのは、あくまでも「チームメンバーの再構成など、戦いの組織を見直す期間に当てるため」なのだそうだ。
ランエボの進化に対する免罪符は、辛うじて効力を保ったのだ。そんななかでの“バージョン8”の登場である。
スピードこそを追求
目の前に姿をあらわしたランエボVIIIは、走りのパフォーマンスがアップしたという宣伝文句とは裏腹に、どこか見た目のイメージがジェントルになった。ほかの三菱車同様、グリルの“台座”上にスリーダイヤのマークを配したフロントマスクは、高性能車の記号、高性能エンジンへの冷却能力の証でもある「開口面積」が減って見えるし、気がつけば、エボVIIには存在していたボンネット上のインレットも姿を消している。
「スポイラー効果を高めるため」という題目でトランクリッド後端に設けられていた三角状の“デルタウィッカー”も見当たらない。一体何が起こったのか?
これらは開発者とのインタビューの結果、「いずれも最新の空力シミュレーションや空力効果と重量増とのバーターを考慮した結果、より得策と思われる方法を選んだもの」ということが理解できた。ランエボのカタチというのは相変らず、スピードこそを追求する、という精神から生まれているというわけだ。
新しいランエボは、CD値こそ微量の低減にとどまるが、エンジンルーム下面を覆う大型アンダーカバー、CFRP(カーボン繊維強化樹脂)製新型リアスポイラーによって、前後ともダウンフォースを稼いでいる。「トータルのリフト量を減らし、高速域での操縦安定性を高めている」というのが、三菱側の説明だ。
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スピードを落とせない
そんなエボVIIIで走り始める。2リッターという排気量を思い切りターボチャージングした、過給機に依存した怒涛の加速は健在だ。ついに6段MTを手に入れたランエボだが、フル加速でドライバーが一息つけるのは、ようやく3速ギアに入ってから。7000rpmというレッドラインは、ライバルのインプレッサSTiと較べると1000rpm低い。全力加速では、シフトアップが忙しいのだ。
もちろん絶対的な加速はインプレッサに遜色ないし、クロースレシオの採用で、ギアアップ後も“ターボゾーン”をハズすことはないのだが、気分のよさという点では、ぼくはインプレッサに軍配を上げたい。社外製という6段MTのシフトフィールも、同じく6スピードのギアボックスを内製で頑張ったインプレッサのそれにはちょっと敵わない。
「“速さイノチ”のランエボに対し、人間の感性をより強く刺激するインプレッサ」――いつか使ったことのあるこんなフレーズを思い出すのは、こんな時だ。
マイナーチェンジで前後の駆動力配分を見直すなどして、コーナリング性能を大幅に上げたインプレッサだが、エボVIIIの“曲がる能力”は、そんなインプレッサの顔色を再び失わせるほどに鮮烈だ。内部構造の変更で左右輪間の移動トルク量を大幅に高めた「スーパーAYC」は、このクルマから“アンダーステア”という文字を完全に奪い取った!
どれほどタイトなコーナーでも、エボリューションVIIIは、まるでコマネズミのような勢いで次々とクリアしていってしまう。前後左右に連続した高Gを発し続けるその走りっぷりは、ドライビングを行っているドライバーが、自ら気分を悪くしてしまうほど。もちろん、それならば走りのペースを落とせばよいのだが、そうなるとこのクルマの真価が失われてしまう。ひたすら速く走るしかない。このあたりが、三菱ランサーエボリューションの“悲しいサガ”ということになるのであろうか。
(文=河村康彦/写真=郡大二郎/2003年2月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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