トヨタ・ウィッシュX FF/X「Sパッケージ」4WD(4AT/4AT)【試乗記】
ストリームは大したもんだ 2003.01.25 試乗記 トヨタ・ウィッシュX FF/X「Sパッケージ」4WD(4AT/4AT) ……201.5/257.4万円 「メタルカプセル」を標榜するモノフォルムボディに、3列シートを並べたトヨタのピープルムーバー「ウィッシュ」。雨の小田原で開催されたプレス試乗会に、webCG記者が参加した。「Steel Egg」転じて「メタルカプセル」に
「イプサムが3ナンバーに決まった時点で、じゃあ、5ナンバーサイズのクルマはどうするのか? というハナシが出ていました」と関係者が語る「トヨタ・ウィッシュ」。昨2002年10月29日から開催された東京モーターショー(商用車)で“ほぼ”市販モデルが参考出品され、翌2003年1月20日に販売が開始された、3列シート7人乗りのピープルムーバーである。「プレミオ/アリオン」のコンポーネンツを活用して開発され、ベースモデルより50mm長い2750mmのホールベースに、全長×全幅×全高=4550×1695×1590mmのボディを載せる。
ウィッシュが売られるビスタ店では「イプサムの小さいの」、ネッツ店では「ヴォクシーみたいにイカつくないヤツ」という位置づけになろう。エンジンは、当面1.8リッター直4(132ps、17.3kgm)のみ(後に2リッターが加わる予定だという)で、4段ATと組み合わされる。FF(前輪駆動)をメインに、寒冷地用の4WDモデルあり。価格は、158.8から214.8万円となる。
ウィッシュのデザインに関わった方によると、ウィッシュのデザインは「四角いミニバンのなかにあって、差別化が図れる“モノフォルム”スタイルを取った」そうで、流麗なボディラインに違わず、空気抵抗を示すCD値は0.30という優秀なもの。「乗りやすいサイズに、ボリューム感、存在感を出しました」。
内装は、20代、30代のヤングカップルを対象に、ブラック基調で「シックにまとめた」という。
2年ほど前に描かれた、デザインのコンセプト画を見せていただく。クルマのリアに「Steel Egg」の文字。しかし、市販ウィッシュのデザインイメージは「メタルカプセル」と聞いている。
「エスティマが“天才タマゴ”というキャッチコピーだったので、エッグはやめよう、と。目玉を見ていただくとわかるのですが、3次曲面にまとわりつくような縦長のヘッドランプは、セリカやエスティマにも用いられる……」最近の“トヨタ顔”で、「小エスティマをつくるつもりはなかったのですが、(はからずも)ウィッシュを見たヒトから『エスティマに似ている』と言われることが多いんです」と、デザインスタッフは笑う。
そうですか。僕は、ホンダ・ストリームに似ていると思います。と、webCG記者は胸のなかでつぶやく。
![]() |
![]() |
![]() |
着実な“カイゼン”
ウィッシュは基本的に「X」のみのモノグレードだが、各種モノ入れやオーディオ類を省いた廉価版「Eパッケージ」と、ディスチャージヘッドランプやエアロパーツ、革巻きステアリングホイールなどでスポーティに装う「Sパッケージ」が用意される。
ドライバーズシートに座ると、いわゆるミニバンより着座位置が低く、普通の乗用車と変わらない運転姿勢がとれる。ギザギザゲートをもつATシフターは、センターコンソールから生える。「ノア/ヴォクシー」というよりは「ホンダ・アヴァンシア」に似たインパネまわり。足踏み式パーキングブレーキを採用したこともあり、前席左右間の行き来は楽で、忙しい撮影の際に便利だった。
セカンドシートは前後に195mmスライドでき、また、ヘッドレストを抜くことなく、座面を前に折って背もたれを倒すダブルフォールディングが可能だ。物理的に十分なスペースがあるうえ、大きなサイドウィンドウが広々感を強調する。感心したのがリアドア開口部の大きさで、Cピラーにあたる窓枠に黒いガーニッシュを付けてピラーが前傾している印象を与え“スポーティ”を演出する。一方、内側の、実際の開口部は、上が狭まることなく垂直に近くに切られ、乗降性に考慮された。手練れによるさりげない工夫である。
サードシートは、この手のクルマの例に漏れず、子供もしくはエマージェンシー用。とはいえ、クルマのサイズは違うが、「カローラスパシオ」では肩下までしかなかったバックレストが、ウィッシュではちゃんと肩にかかる。「ガッチリした頼もしいヘッドレスト」「背もたれを前に倒すと連動して沈む座面」と、着実に“カイゼン”が施された。
![]() |
![]() |
![]() |
ストリームに似ていませんか?
搭載されるパワーソースは、可変バルブタイミング機構を備えた1.8リッター“BEAMS”ユニット。FF(132ps、17.3kgm)と4WD(125ps、16.4kgm)で多少チューンが異なる。ウィッシュは、FFモデルでプレミオ/アリオンより100kg以上重い1300kg、四駆版はさらに100kg重い1400kgのボディをもつが、1.8リッター4気筒エンジンは、ことさらドライバーに「遅い!」と感じさせることなく、引っぱる。
前マクファーソンストラット、リアは3列目シート幅を確保するため、セダンより取り付け位置を下げたトーションビームの足まわり。雨の小田原を平均的に走るかぎり、よろめくことなく、ステアリング操作にもシェアに応えて、しっかり走る。“スポーティ”と表現するのは躊躇されるが、ウィッシュの“走り”は、ドライビングポジション同様、乗用車のようだ。ステアリングホイールを握って10分もたつと、乗っているクルマのことを意識しなくなるのも、トヨタの他のモデルと同じ。
「ストリームに似ていませんか?」。ウィッシュの開発をとりまとめた吉田健第2開発センター製品企画チーフエンジニアにうかがう。
「パッケージは一緒なんです。7人乗りというコンセプトが」
−−スポーティな……。
「スポーティ、ですね」と言葉を続けた吉田さんは、ウィッシュは、ストリームをターゲットにしたモデルというより、次の時代のクルマを模索することから誕生した、と語る。2年後に登場したのだから、クルマのレベルも違う、と。
−−まるで違うクルマにしたかったという欲求はありませんでしたか?
「クルマを比較されるのはお客さまですから。違いを出そうと、ボディサイズを変えたり、高さを低くしたり、と考え出すと、(結果的に)不便なクルマになってしまう」と吉田チーフエンジニアは言う。(そういう意味では)「やっぱりストリームの考え方というのは大したもんだ、と」と口に出してから、そういうことなんでしょうねェ、と自らの言葉を確認する。正直なエンジニアなのだ。
なるほど。おっしゃることはもっともだけれど、フォロワーはフォロワーである。それも2年遅れの。……といった外野の声をまるで気にしないところが、いまのニッポンのナンバーワン自動車メーカーの強さだ。登場の仕方はともかく、売れてしまえばそれも実力、という割り切りがすごい。テレビコマーシャルのCMソングには、宇多田ヒカルじゃなくて、倉木麻衣を起用するべきだったな。
(文=webCGアオキ/写真=峰 昌宏/2003年1月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。