日産キューブEX(4AT/CVT)【試乗記】
カッコは新しいのだが…… 2002.10.15 試乗記 日産キューブEX(4AT/CVT) ……144.2/147.0万円 メディア、評論家の声をよそに(?)思わぬヒット作となった日産キューブ。貴重な稼ぎ手の新しいモデルは、角がとれたキューブ。さっそくステアリングホイールを握った自動車ジャーナリスト、河村康彦は、しかし気になる点があるのだった……。
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■非対称のリア&クォーターウィンドウ
シンプルかつプレーンだった先代のデザインに比べると、「ユーザーが抵抗なく乗り換えてくれるのか?」と、そんな危惧を抱かないではない、斬新なデザインの新型「キューブ」。モーターショーの舞台からそのまま飛び降りてきたようなエクステリアをもつ、生まれ変わった日産の稼ぎ頭である。ガラリと変わった見てくれとは裏腹に、新型「マーチ」をベースにつくられる成り立ちは、旧型と同じだ。
欧州での量販をもくろむ「マイクラ」ことマーチとは異なり、キューブは日本のみで販売される、完全なドメスティックカー。だから徹底して、日本のユーザー(だけ)に好まれることを狙ったようだ。広報資料を開くと、「広い室内」「ソファのようなシート」「多彩な収納」……といったキーワードが並ぶ。メインターゲットとして、20代前半から後半の男性、いわゆる“ポスト団塊ジュニア”にフォーカスしてリサーチをとったという。ユーザー層の好みを調べつくした結果に違いあるまい。
キューブがこだわった、“かど丸の四角”というデザイン上のエレメントは、外観はもちろん、細部のデザインにおいても徹底された。フロントグリルに開けられた正方形の穴も、四隅がやわらかく“面取り”される。すべての窓のコーナー部分にも、同様の処理が施された。
ウィンドウといえば、バックドアの進行方向左側の窓枠を細く、右側はCピラーとDピラーをボディパネルで一体化した、“左右非対称デザイン”のリア&クォーターウィンドウがデザイン上のハイライト。これは、左後方の視界向上にも寄与する。テールゲートが右ヒンジの左横開きだから、このままハンドルを左に移すと、斜め後ろが見えなくなってしまう。ボディ後部を完全につくり替えねばならないので、「左ハンドル仕様をつくることは難しい」と、エンジニア氏は語った。
とはいえ、住宅用のサッシには、上下左右のヒンジ位置をレバーひとつで選択できるものも存在するし、冷蔵庫にだって左右両開きを可能とした「リバーシブルドア」がある。自動車のテールゲートについてまわる、「上か横か」のヒンジ位置論争に、終止符が打たれる日は近いのかもしれない……。
■気になるウィークポイント
アルファベットの「P」をモチーフにしたというメータークラスターを前にして、ニューキューブでドライビングポジションを合わせる。フロアに対するペダル位置はマーチと同じながら、60mmアップされたヒップポイントに対応すべく、ステアリングのポスト角が2.6度起こされた(28度→30.6度)。そのため、運転姿勢に不自然なところはない。各ウィンドウが垂直に近いこともあり、ジマンのひとつである“顔面まわりのスッキリ感”は高い。ただし、切り立ったフロントスクリーンがドライバーより遠くに位置するため、Aピラーが運転視界に入りやすい。コーナーの曲率によっては、進路が延々と死角に入ったままのことがある。街乗りが多い実用車として気になる点だ。もっとも、これはキューブに限ったことではなく、最近のクルマにありがちなウイークポイントなのだが。
このクルマ唯一ともいえる、旧態依然なデザインのコラム式ATレバーで「D」レンジを選び、ゆっくりとアクセルペダルを踏み込む。キューブのエンジンは、マーチにも搭載される1.4リッター直列4気筒(98ps、14.0kgm)のみ(モーターで駆動を補助するe-4WD車は若干アウトプットが異なる)。トランスミッションは、コンベンショナルな4段ATと、ステアリングホイール上のスイッチで変速できる、新開発の6段マニュアルモード付きCVTから選べる。走りはじめに力強さを感じるのは、オーソドックスな4ATモデルの方だ。
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■「No!」の声
走り出してしまえば、CVT仕様は“無段変速”ならではのスムーズな加速感が光る。4ATと同じペースで走っても、タコメーターの針は明らかにより低い回転域をウロウロ。当然ながら、そのぶん燃費はトルコン車を上まわりそうだ。エンジンの回転上昇にマッチした、自然な加速感もジマンのひとつ。といっても、両者の価格差は4.8万円。10・15モード燃費は4段ATが16.4km/リッター、CVTは17.2km/リッターである。単純に燃料代だけで差を取り戻そうとすると、いったい何年(何10年?)の歳月を必要とするのだろうか……。
プレス向け試乗会には、市販車の一段階前、「量産試作」段階の車両も含まれており、「個体によるバラつき」と呼ぶには少々差が大きいクルマがあった。乗り心地が粗すぎるのだ。
しかし、それよりぼくが気になったのは、EPS(電動パワーステアリング)が生み出すステアリングフィールである。「マーチのモノをリファインした」とはいうものの、イナーシャ(慣性)感が大きく、かつ反力に乏しい不自然さがあった。このところ欧州ではそれを嫌って、“電動油圧”方式を採るメーカーが後を絶たない。すでに述べたように、ヨーロッパへ運ばれることのないキューブ。しかし、仮に輸出することになっても、彼の地の人々はキューブのステアリングフィールに「No!」の声をあげることだろう。
(文=河村康彦/写真=峰昌宏/2002年10月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。