メルセデスベンツSクラス【海外試乗記】
ちょうどいい高さ 2002.09.20 試乗記 メルセデスベンツSクラス BMWやアウディはもとより、いまや大衆車メーカーであったはずのフォルクスワーゲンからも挑戦を受けるメルセデスベンツ。ややソフトになりすぎた「Sクラス」にテコ入れをして、覇権の維持を狙う。『webCG』エグゼクティブディレクター、大川 悠が、ドイツはシュトゥットガルトからバーデンバーデンまで、“マイバッハの露払い”たるパワーアップしたSクラスに乗った。Mercedes uber alles
メルセデスは常に世界の王者でいなければならない。
数年来、いかに地に降りてきたといわれても、中小型車の場合はともかく、プレスティッジカーの世界においては、シュトゥットガルトは絶対に世界に君臨していなければならない。特に最近、Dr.ピエヒが率いてきたかつての大衆車ブランド、フォルクスワーゲンが、新しい旗艦「フェートン」で挑発してきたし、BMWの「7」は一部では不評とはいえ、野心作であることには変わりはない。そして近々アウディもニュー「A8」で挑んでくる。
むろん、これから始まるもっと上での戦い、つまりロールス、ベントレー・クラスの超弩級市場のためには、「マイバッハ」が用意整っている。だが、実質的にシュトゥットガルトのシンボルたる「Sクラス」は、やはりフルサイズクラスの王たる地位と意地を守り通す必要がある。
かくて1998年に現行モデルになって以来4年目にして、Sクラスはかなりおおがかりなフェイスリフトを受けた。「エンジンの強化」「4マティック・バージョン(4WD)の追加」「安全性の向上」「室内のいっそうの豪華化」などがそれだが、それらがねらっているのはただ一つ、北ドイツの挑戦、つまり前述のフェートンに応えることである。
ドイツ、シュトゥットガルトから黒い森のバーデンバーデンにかけての試乗会で、メルセデスの意地と根性を確認した。
コワくなった顔の奥には500psとプリセーフ
改変の箇所は無数にあるというが、まず外観でわかるのは顔つきがコワくなったこと。98年にこのモデルになったとき、あまりにも大きく強圧的だったゆえに批判された先代のイメージを変えるべく、比較的おとなしいスタイリングになったが、その後「Cクラス」が新型になると、なんだかあまり区別できないような、やや迫力に欠ける結果となった。したがって、今回は伝統のグリルをより大きくし、その両端のヘッドランプの表情もかえ、クリアグラスを使うことによって強い、というかコワい表現を出してきた。
室内もかなり変化した。これはより豪華さを狙ったもので、ダッシュの材質をかえたり、スイッチ類のデザインも変更された。また「Eクラス」で導入された「ダイナミックシート(スイッチを入れると、コーナーで横Gが出たときに外側サポートが一瞬強くなる)」も採用された。
だが、メルセデスの意図がもっとも現れているのがエンジンの強化である。最上級の「600」はマイバッハ用5.5のV12に換装された。これは排気量こそいままでの5.8リッターよりやや小さくなるものの、ツインターボで武装することで、ついに500psのラインに届いた。トルクも81.6kgmに達する。一方最小ユニットだったV6の「320」は排気量を3.7に拡大して名前は「S350」となった。これは245psとと35.7kgmを発揮する。
さらに駆動系では、「430」と「500」のV8および「350」のV6には4マティックモデルも追加されて、こちらの面でもライバル対策は抜かりがない。
安全設計では「プリセーフシステム」が注目される。これは簡単にいえば事故直前であることをクルマが察知した瞬間に、シートベルトに必要なテンションをかけ、またバックレストを寝かしているパセンジャーのシート位置を戻し、さらにはもしサンルーフを開けているならこれを自動的に閉める。そうやっていざ事故になった場合の乗員の被害を最小限にするというものだ。つまり(特に)パセンジャーはサブマリン状態にならないし、膝をダッシュにぶつけない。また転覆したときにはサンルーフからの飛び出しを防ぐ。そしてすでにテンションのかかっているベルトで身体を拘束する。
プリセーフシステムは、アンチスピンデバイス「ESP」の信号をもとにクルマの挙動を察知して反応するもので、たとえば完全に寝かしたバックレストが起きあがるまでには何秒かはかかるが、実際の事故ではクルマがコントロールを失った後、クラッシュするまでにはある程度の時間があるから、この間を少しでも有効に利用したいというのがメーカーの考えである。
固有の魅力
「350」「500」の4マティック、そして500psの「600」に試乗したが、パワー、トルクの違いはさておき、メルセデスの高級車づくりのうまさに感心させられた。たしかに6気筒は12気筒よりエンジン音を出すし、4マティックやロングボディは重さを感じさせる。でも驚いたのは、どのモデルもメルセデスの最高級車、いや、高級乗用車に“まさに恥じない乗り味”を示したことである。
それはしっとりした乗り心地であり、やはり絶対的な静かさである。機械や駆動系の圧倒的なスムーズさである。あるいは各コントロールやスイッチ、シートの肌触りや感触である。特に今回からパワーステアリングも改変を受けたようで、遠い記憶にある以前のモデルよりも心なしか重くなった。というよりも路面感覚の伝達が非常に改善された。
そして500psのS600はやっぱり速かった。圧倒的に、息を飲むように速かった。それはむしろトルクの力という感覚で、加速も素晴らしいが、エンジンの力がいつでもどこからでもすぐに取り出せる、その感覚がエキサイティングだった。ターボラグはほとんど感じない。実際は2000rpm弱から過給が立ち上がる。しかし、非常にスムーズに介在してくる。だから本当に静かにのんびり走るのも気持ちがいい。その気なら怒濤のような力で襲いかかってくる。もうそうなればアウトバーンの王者そのものだ。
でもそんなに乱暴に運転しなくても、本当によくできた多気筒ターボの味わいというのは、現代のエンジンの最大の魅力であることがわかった。
個人的には6気筒の350が気に入った。何よりも軽快だし、しかも3.7リッターもあるから、Sクラスのボディでも十分に対応できる。メルセデスの6気筒は、本当に年々よくなっていると思う。今回は、特に中低速トルクの厚みが印象に残った。ボディを感じさせないハンドリング、すなおな挙動など、オーナー・ドライバー向けのSクラスといっていい。
パワーとスピード競争は非社会的行為という声があるかもしれない。でもどんな時代になっても機械は固有の魅力を無理に捨て去ることはない。つまり現代は、さまざまな領域でタワーの高さを競い合う時代である。そう考えると、メルセデスはもっと高いタワー「マイバッハ」を前にして、ちょうどいい高さを極めたといえる。
なお、この新型Sクラスは、2002年11月にも日本市場に導入されるはずである。
(文=webCG大川 悠/写真=大川 悠、資料写真/2002年9月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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