第46回:クールな野蛮人たちは、ハイパワーEVに乗る − 『野蛮なやつら/SAVAGES』
2013.02.28 読んでますカー、観てますカー第46回:クールな野蛮人たちは、ハイパワーEVに乗る『野蛮なやつら/SAVAGES』
新たな『明日に向かって撃て!』
タイトルのとおり、野蛮な人間の見本市のような映画だ。冒頭からチェーンソーの首切り映像が登場し、敵は粗暴で残虐なギャングだということが明らかになる。主人公たちだって、とんでもない野人ぞろいだ。野蛮でないのは、乗っているクルマぐらいなのだが、その話は後で。
男ふたり、女ひとりという組み合わせは、確執と親密さが交錯した緊張感のある空気を作り出す。映画のドラマ性を高めるにはうってつけの設定で、『突然炎のごとく』『明日に向かって撃て!』などの名作が生み出されてきた。映画版『苦役列車』も、その変形といえる。『野蛮なやつら/SAVAGES』も同じカテゴリーだが、これまでにはなかった“不道徳”な関係性がこの物語に新鮮さをもたらしている。ふたりの男が、ひとりの女の共通の恋人なのだ。
心優しき植物学者のベンと元傭兵(ようへい)の荒くれ者チョンは、共同事業のパートナーだ。カリフォルニアで、世界一の品質を持つ大麻を栽培している。荒くれ者と穏やかなブッディストという相いれなさそうな組み合わせだが、ふたりは親友だ。ベンが繊細な栽培技術で良質な大麻を作り、チョンは粗暴な商売相手とのタフな交渉を担当する。お互いの得意分野を生かすことで、ビジネスを成功させている。
チョンを演じるのは、『バトルシップ』で浅野忠信と力を合わせて宇宙人と戦っていたテイラー・キッチュ。ベン役は、『ノーウェアボーイ』で若きジョン・レノン、『キック・アス』で素人ヒーローという頼りない男が似合っていたアーロン・テイラー・ジョンソン。完璧なキャスティングだ。
楽園に麻薬組織の魔の手が……
ふたりの恋人であるO(オフィーリア)は、『HICK ルリ13歳の旅』で橋の上から立ちションしていたブレイク・ライブリーだ。彼女によれば、「ベンとはメイクラブ、チョンとはファック」であり、公認の“二股”なのだから後ろめたさとは無縁だ。酒と大麻でハイになった3人が、一緒にベッドインするシーンも描かれる。
大麻ビジネスで大金を稼ぎ、海辺の豪邸で優雅に暮らしていた。太陽の下でビーチバレーに興じ、汗が煩わしくなれば沖まで泳ぐ。家に戻れば、疲れを癒やす酒と良質な大麻がある。3人にとって、楽園のような生活だ。そこに暗い影が忍び寄る。彼らの事業を手に入れようと、メキシコの巨大麻薬組織バハ・カルテルが接触してきたのだ。ベンとチョンは、申し出を拒否する。彼らはただのチンケな売人ではなく、収益を使ってアジアやアフリカに慈善事業団体を設立している。望みは“世界救済”なのだ。ギャングの手下になるつもりはない。
麻薬組織がそんな言い分を認めるはずもなく、強硬手段に出る。Oを誘拐し、契約を結ぶよう脅迫してきたのだ。ふたりは命令に従うほかはない。求められるまま大量の大麻を届け、Oを解放するよう懇願した。バハ・カルテルの回答は、3年間契約をまっとうすればOを返すという無慈悲なものだった。ベンとチョンは、反撃に出ることを決める。どちらが本物の野蛮人なのか、はっきりさせなくてはならない。
脇を固める俳優陣も魅力的だ。麻薬取り締まり局の悪徳警官デニスには、ジョン・トラボルタ。ケチな悪党を演じさせると、抜群のリアリティーを見せる。殺人や拷問を平然と遂行するバハ・カルテルの若頭格ラドは、ベニチオ・デル・トロだ。カラダ全体から発散される冷酷で非情な空気が、なんとも恐ろしい。『アウトロー』のヴェルナー・ヘルツォークも怖かったが、それと並ぶ極悪演技だ。
ハイパワーとエコを両立させるクルマ
原作はドン・ウィンズロウが2010年に発表した小説である。1991年のデビュー作『ストリート・キッズ』は主人公ニール・ケアリーの鮮烈な造形とスピード感あふれるストーリー展開でミステリーファンを驚嘆させたが、今もなお新たなチャレンジを続けていることには驚くしかない。原作小説は“Fuck you.”だけの第1章から始まり、詩で構成された章、シナリオ形式の章を取り混ぜながら、言葉遊びを駆使して物語が疾走していく。
小説が評判を呼ぶと、ウィンズロウのファンであるオリバー・ストーンがすぐさま目をつけ、映画化権を獲得した。脚本にはウィンズロウ自身も参加している。この組み合わせが120点の出来だった。文章と映像の相性がいい。躍動するストーリー展開に、バイオレンスをスタイリッシュに描くざらついた映像がピタリとハマったのだ。映画チームはウィンズロウに続編を書くように提案し、本国ではすでに『The Kings of Cool』が出版されている。『野蛮なやつら/SAVAGES』の前日譚(ぜんじつたん)で、これもストーンによって映画化されるようだ。
クルマの話をしていなかった。砂漠や荒地を舞台にしたアクションシーンが多いので、主となるのはSUVだ。「ジープ・ラングラー」「シボレー・サバーバン」「トヨタ・ランドクルーザー」などが活躍する。ベンとチョンが乗るクルマは、原作とは異なっていた。小説ではチョンの愛車が66年式の「フォード・マスタング」だったが、映画でふたりが乗っているのは電気自動車(EV)の「テスラ・ロードスター」なのだ。ベンは環境破壊を憎む平和主義者だから、チョンもハイパワーとエコでバランスをとったのだろう。『ルーパー/LOOPER』や『アイアンマン』にもこのクルマが顔を見せていたし、EVがスクリーンで活躍するのはもうすぐ当たり前になるのかもしれない。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
第293回: スイフトが主役の映画? いや、監督がスイフトなんです!
『藁にもすがる獣たち』 2026.9.24 曽根圭介の小説を原作にした2度目の映画化。韓国版では「ヒョンデ・ソナタ」が殺人カーだったが、今回は「トヨタ86」に。もっと活躍するのはチャンピオンイエローがまぶしい“スイスポ”。スズキファン必見のアクションエンターテインメント! -
第292回:350SEが運ぶのは幸福か、それとも究極の不幸か……
『星の時 4K』 2026.8.20 ブラジルの女性小説家クラリッセ・リスペクトルが1977年に発表した小説を、女性監督スザーナ・アマラウが1985年に映画化した伝説の作品。「メルセデス・ベンツ350SE」がもたらす運命の瞬間を謎めいた手つきで描き出す。 -
第291回: あの衝撃的なラストシーンは2CVで撮影されていた!?
『ヌーヴェルヴァーグ』 2026.7.9 1959年のパリで、ゴダールが『勝手にしやがれ』の撮影を開始。脚本もなく演出はその場で指示するという型破りのスタイルに、俳優もスタッフも困惑し現場は混乱を極める。はたして映画は無事に完成するのか……。 -
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か
『シラート』 2026.6.4 失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
第289回:最強の格闘家は破壊されるクルマに自分を重ねた
『スマッシング・マシーン』 2026.5.14 ドウェイン・ジョンソンが映画化を熱望した伝説の格闘家マーク・ケアーの栄光と没落の人生を描く。東京ドームで行われた総合格闘技イベント、PRIDEグランプリ2000を完全再現!
-
NEW
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。