三菱アウトランダーPHEV Gプレミアムパッケージ(4WD)【試乗記】
成り立ちは電気自動車 2013.01.28 試乗記 三菱アウトランダーPHEV Gプレミアムパッケージ(4WD)……470万6500円
「PHV」ではなく「PHEV」(プラグインハイブリッドEV)。このクルマの成り立ちは、あくまで「自ら発電する電気自動車」なのだ。ショートサーキットで試乗した。
「電気自動車」目、「プラグインハイブリッド」科
昨2012年にフルモデルチェンジを果たし、2代目になった「三菱アウトランダー」。スッキリ、モダンな外観になった新型は、質感向上、安全装備充実、そのうえ環境性能がアップした。「売れ行きはどうですか?」と三菱の広報担当の方にうかがうと、「買い控えが生じているようで……」と複雑な表情を見せる。
潜在顧客に買い控えさせているのは、言うまでもなく「アウトランダーPHEV」である。事前に充電しておけば、長らくEV(電気自動車)として走れ、バッテリー残量が少なくなってきたら、ガソリンを燃やして走るハイブリッド車に変身する、いわゆるプラグインハイブリッド車だ。
車体後部の床下にはピュアEVたる「i-MiEV」と同じモーター(82ps、19.9kgm)、フロントには、2リッター直4(118ps、19.0kgm)とモーター(82ps、14.0kgm)を組み合わせたハイブリッドシステムが搭載される。アウトランダーPHEVは、SUVな外観にたがわず、四輪駆動車なのだ。ハイブリッド車やEVが気になっていたけれど、冬場の道路事情を考えると……と躊躇(ちゅうちょ)していた北国の人たちにとって、待望のニューモデルだろう。
他メーカーに先駆けて量産EVのi-MiEVを市販した三菱自動車としては、「PHEV=プラグインハイブリッド電気自動車」のサブネーム通り、“レンジエクステンダーとしてハイブリッドシステムを搭載したEV”として、アウトランダーPHEVを売り出したい。
実際、フロアの下に収納されたリチウムイオンバッテリーの容量は、「トヨタ・プリウスPHV」はおろか、i-MiEVの小容量タイプ「M」をも上回る12kWh。カタログ上は、エンジンを一切使わないでも、満充電なら60.2km走れる。「日常生活の90%をカバーできる」というのが三菱の主張だ。アウトランダーPHEVの分類は、「電気自動車」目、「プラグインハイブリッド」科、というわけだ。
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エンジンはあくまで脇役
アウトランダーPHEV専用色、薄く水色がかった「テクニカルシルバーメタリック」に塗られた試乗車に乗り込む。黒基調にシルバー加飾が組み合わされたクールなインテリア。シルバーのシフトレバーには、「R」「N」「D」、そしてi-MiEVでもおなじみ、回生機能を高めた「B」(モード)が印字される。メーターは、向かって右が速度計、左が「Power」「Eco」「Charge」と円周が分けられたパワーメーター。走り始めれば、センターコンソールの7インチワイドディスプレイに、プリウスですっかりおなじみになった「エネルギーフロー」が表示され、バッテリー、エンジン、モーター間の、エネルギーのやりとりを乗員に教えてくれる。
「静かでスムーズ」というのは、EV試乗記のまくら言葉だが、アウトランダーPHEVもその例に漏れない。アクセルペダルを踏むと、音もなくスルスル……と走りだす。実際には30km/hまでは車両接近通報音を発する、つまりあえてノイズを出しているのだが、電車の加速音を洗練させたようなサウンドなので、車内外の人に不快感を与えることはない。PHEV版には、ガソリン車以上に遮音・防音材をおごっていることもあるが、全体に、“近未来的に静か”な印象だ。試しに、乱暴にアクセルペダルを踏んでみる。と、途端に2リッター直列4気筒が目を覚ます。
「電池の残量が心もとなくなってきたらエンジンをかけて発電機を回して充電する」のが、PHEVのコンセプトだが、もちろん、EV状態のまま、ただエンジンをブラ下げているのはもったいない。加速時や、内燃機関の効率が高い高速巡航時には、エンジンがモーターの手助け(モーターのみでも、最高120km/hまで走れる)、または主役となる。2リッター4気筒は、発電機を回すだけでなく、駆動源としても活用されるのだ。モーターとフロントのドライブシャフトは常時接続されるが、エンジンとは、クラッチを介して、トルクの伝達がオン/オフされる。
おもしろいのが、モーター用はもとより、エンジン用にもギアボックスを持たないこと。アウトランダーPHEVはあくまでEV。モーターが主役。エンジンは脇役。……というわけで、中低速の常用域ではモーターが活躍し、効率が求められる2リッター直4ユニットは、いわば常時トップギアでタイヤを回すことになる。モーターを2つも持ちながら、2リッターと意外に大きな排気量のエンジンを積むのは、むやみに回転数を上げないでも十分な発電ができ、ガソリン車と比べて300kg近く重い1820kg(Gプレミアムパッケージ)のPHEVを、余裕を持って動かすためである。
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おおらかな運転感覚
アウトランダーPHEVで全力加速を試みると、3リッターV6を凌(しの)ぐ動力性能を発揮するはずなのだが、車重の重さもあって、圧倒的な加速力! という感じはない。全体におおらかな運転感覚で、“曲がり”が多いテストコースも、運転者をエキサイトさせることなく、鷹揚(おうよう)にこなす。
ヨンクを得意にする三菱だから、アウトランダーPHEVにも「S-AWC」が搭載され、曲がる力がアクティブにコントロールされる。機械式&電気デバイスを複雑に組み合わせた「ランサーエボリューション」と比較すると、センターデフはおろかプロペラシャフトも持たないPHEVのそれは、モーターの出力と各輪のブレーキを個別に制御する相対的にシンプルなもの。コーナリングの際、必要に応じて内輪にそっとブレーキをかけてやるのが、基本の考え方だ。左右輪の差動を吸収するLSDの機能も、スリップしたタイヤにブレーキをかけることで代用する。前後輪ともオープンデフで、LSD機能を持たない。
ガソリン車のPHEV化で車重は重くなったが、ブレーキは強化されていない。一方、ハンドルの奥に生えるパドルで、回生機能の強さを0〜5まで、6段階で変更することができる。あたかもギアを落としてエンジンブレーキを活用するかのように、回生機能を強めて、制動力を加減できるわけだ。長い下り坂では強めに、渋滞時など、短い距離を空走させたいときは、最弱の「B0」を選べばいい。
PHEVならではのユニークな機能は、まだある。シフター手前に設けられた「(バッテリー)セーブ」「チャージ」ボタンがそれ。ハイブリッドシステムを活用して、アウトランダーPHEVのバッテリー残量を一定に保つ、もしくはできるだけ残しておく機能。目的地に到着したら、クルマ全体を大きなバッテリーとして使おうというものだ。発電のためにエンジンを回す必要がないので、静かな環境を壊すことがない。車内と荷室にコンセントが設けられるので、100Vの電気を最大1500Wまで取り出すことができる。
「セーブ」「チャージ」ボタンは、ハイブリッド車の「EVボタン」ならぬ、「エンジン稼働」ボタンといえる。なるほど、アウトランダーPHEVの成り立ちは、電気自動車なのだ。
(文=青木禎之/写真=小林俊樹)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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