トヨタ・オーリス【開発者インタビュー】
走りの楽しさを届けたい 2013.01.07 試乗記 <開発者インタビュー>藤田博也さん
トヨタ自動車株式会社
製品企画本部 チーフエンジニア
「常識に尻を向けろ。」のキャッチフレーズとともに昨2012年に発売された、2代目「トヨタ・オーリス」。鍛え上げた走行性能をセリングポイントとする新型に込められた、開発者の思いとは?
主戦場は「超激戦区」
車高をグッと下げた「低重心フォルム」で、“走り"を予感させる新型「オーリス」。クルマの土台となるプラットフォームは基本的に先代のものを引き継ぎながら、しかし外観、内装とも、ガラリとイメージが変わった。その理由を、オーリスの開発を取りまとめた藤田博也さんにうかがった。
――トヨタ・オーリス。2代目も、やはり欧州が主戦場ですか?
そうですね。初代ですと、7割くらいがヨーロッパ。残りをオセアニアと日本で分け合って、どちらもだいたい月販2000〜3000台でした。
――初代の、欧州での評判はどうだったのですか?
居住性がいい。背が高いので、スペースがある。そうした評価をいただきました。先代はプラットフォームを一新し、「カローラ ハッチ(邦名:カローラランクス/アレックス)」からオーリスと名前を変えた新鮮さもあって、2007年の発売時は月販1万5000台くらい。順調でした。ところが競争が激しくて、当初の販売台数を維持できませんでした。
――いわゆるCセグメントのハッチバック。日本では影の薄いカテゴリーですが、ヨーロッパではいまもメインマーケットですね。
競合車がひしめいています。シェアが二桁いくのは、トップの「フォルクスワーゲン・ゴルフ」くらい。2位以下は大混戦。「フォード・フォーカス」「オペル・アストラ」。それにルノー、シトロエン、最近では韓国車……。新しいモデルがどんどん出て、新車が出るたびに、スッとそのブランドがシェアを伸ばすのですが、すぐにライバルが登場して頭打ちになる。その繰り返しです。
――2代目オーリスはスポーティーになり、大幅にイメージが変わりました。
ヨーロッパでメジャープレーヤーとして戦っていくには、やはり運動性能を上げないといけない。また、オーリスは数が出るクルマです。メーカー平均130g/kmという非常に厳しいCO2排出制限をパスするため、もっと燃費を上げたい。空気抵抗を減らすためにも、背を低くする必要があったのです。
俊敏性は負けてない!
スポーツハッチの本場、ヨーロッパで鍛えられたオーリス。モデルチェンジでどう変わったのか?
――ハッチバックの本場、欧州でのナンバーワンはゴルフだといいます。ゴルフと比較した場合、ユーザーがオーリスを選ぶ理由とは何でしょう?
ひとつは「スポーティーでカッコいいデザイン」じゃないでしょうか。新しい7代目ゴルフもそうですが、良い悪いは別にして、ゴルフはわりとコンサバです。もうひとつのオーリスの特長は「キビキビとした走り」。ゴルフは、イメージも走りも“どっしり”。オーリスはハンドルを切ったときの俊敏性といいますか、われわれはゴルフ6までしか評価できていませんが、こうしたところでは負けていません。
――中でも「RS」のハンドリングはすばらしいですね。
先代でも一部のモデルに採り入れていたんですが、今回、1.8リッターモデルのリアサスペンションを、全車ダブルウィッシュボーンにしました。従来のトーションビームだと、ハンドリングをよくしようとアシを固めていくと、接地感や乗り心地の面で難しいところがあった。新型では、お金をかけて、チューニングもしっかりやって、しなやかなアシに仕上げました。
――新しい1.8リッターモデルは、トーションビームのままの1.5リッターと、ずいぶんキャラクターが異なります。
サスペンション形式の違いに加え、1.8リッターはエンジンが重いので、電動パワーステアリングのモーターを大きくして、アシストを強くしています。また、ステアリングのギア比を速くして、よりクイックな仕様にしています。インテリアのよさも併せて、質感高く、大人が乗っても楽しめるホットハッチです。
時代の変化を見据えながら
欧州テイストをうたうオーリスだが、実際の彼我のマーケットは、ずいぶん違う。開発の現場はどう見ているのか?
――欧州テイストをうたうオーリスですが、パワートレインは日欧で異なりますね。
はい。日本は1.5と1.8。ヨーロッパはガソリンが1.3と1.6、ディーゼルが1.4と2リッター、そしてハイブリッドがあります。トランスミッションも、むこうは3ペダルのMTがメインですね。ヨーロッパのオーリスは、小さい排気量で、CO2を抑えて、しっかり走る、そんなイメージです。
――日本では、オーリスクラスのハッチバック市場がすっかり小さくなりました。
いわゆる“いいクルマ"というのは、時代によって変わると思います。いまは「スペース重視」それに「経済性」ですね。かつては、ハッチバックというと「若い男性が一人で」または「彼女と乗っている」ものでしたが、最近ではそういった人たちがAT免許しかもっていない。お金が続かない。そういった社会構造の変化が影響しているんじゃないでしょうか。クルマ作りも、それに合わせてシフトしていますし。
――オーリスで、休眠しているカテゴリーを掘り起こしたい?
1.5リッターから始まる、150〜200万円前後のクルマ。かつては「カローラ」「シビック」「ファミリア」「ミラージュ」……と主力モデルが目白押しでした。そこのユーザーが、軽自動車、コンパクトカー、大小ミニバンに移ってしまいました。手頃な価格で走りを楽しめる、一番いいところのラインナップが、非常に薄くなっている。新型オーリスで、本来クルマが持つ「走りの楽しさ」に、もう一度目を向けていただけたら、と思います。
(文=青木禎之/写真=峰昌宏<人物>、webCG<車両>)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。