第42回:今年は映画の当たり年! 冬休みに観たいクルマ映画DVD
2012.12.27 読んでますカー、観てますカー第42回:今年は映画の当たり年! 冬休みに観たいクルマ映画DVD
『ドライヴ』監督の旧作がDVDで登場
2012年は、間違いなく映画の当たり年だった。ヒューマンドラマからドキュメンタリー、アクション大作までさまざまなジャンルで良作が誕生した。逆に、箸にも棒にもかからない駄作は昨年からすると激減した。まあ、ヤバそうな映画はそもそも避けて観なかったからかもしれないが。
傑作ぞろいの中でも、ナンバーワンは何かと聞かれれば、迷うことなく『ドライヴ』と答える。カーアクションのキレが良かっただけでなく、映像表現として素晴らしいセンスだった。キャリー・マリガンがかわいかったのは、おまけポイントである。
『ドライヴ』が評価されたことで、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の旧作がDVDで観られるようになったのは朗報である。今回は冬休みDVD特集ということで、真っ先に取り上げようと思ったのだが、残念なことにそれはかなわない。クルマが一切出てこないのだ。『ヴァルハラ・ライジング』は北欧神話がベースになっているし、『ブロンソン』はほとんどのシーンが刑務所の中である。クルマが活躍するのは無理だ。
邦画ナンバーワンも、まったく迷わなかった。『桐島、部活やめるってよ』は『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の吉田大作監督が新たなステージに進んだことを示す素晴らしい作品である。音楽を使わず、学校の中で聞こえる生活音だけを丹念に拾って臨場感を出した録音の見事さに息をのんだ。ただし、これもカメラが学校の外にほとんど出ないのでクルマが登場しない。このコーナーでは紹介できなかったのだ。
エイリアンに襲われる「S60」
実は、いいクルマ映画は公開時に取り上げてしまったので、案外タマが残っていなかったのである。『アタック・ザ・ブロック』も「ボルボV60」のインプレッションの中で少し触れたのだが、作品の内容までは書けなかったのでDVDが出たところで紹介することにしよう。
舞台はロンドン南部のダウンタウンで、「ブロック」とは貧しい公共団地のことだ。エイリアンが、なぜか団地をめがけて襲来する。立ち向かうのは、街をたむろする悪ガキたちだ。彼らはいつものように一人歩きの女性を見つけてカツアゲをする。首尾よく金をせしめたのだが、すぐそばに駐車していた「ボルボS60」に天から何かが降ってきて衝突し、パニックとなる。落下してきたのは見たこともないケダモノで、悪ガキどもは無情にも殺してしまい、死骸をたまり場に持ち帰る。
しかし、それはメスのエイリアンだったのだ。怒ったオスのエイリアンたちが、続々と団地に落下して人々を襲い始める。悪ガキたちは、さっきカツアゲした女性と力を合わせて団地を守るためにエイリアンと戦うハメになる。しかも、エイリアンだけでなく、本物のギャングたちとも面倒なことになってしまうのだ。エイリアンが落下したS60は、ただ潰されただけではなくて、最後にまた登場する。
スピード感のある演出で、タランティーノは2011年のベスト映画に選んでいる。監督はこれがデビューとなるジョー・コーニッシュだが、製作総指揮は『ショーン・オブ・ザ・デッド』のエドガー・ライトが名を連ねている。その縁で、ニック・フロストがいい感じの役で出演している。
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「R8スパイダー」のチャラ男が恋のさやあて
『Black & White/ブラック&ホワイト』はマックG監督の作品だから、アタマを使わずに楽しむ作品だ。CIAの敏腕エージェント2人が一人の女を争って戦うというのだから、話の荒唐無稽なことは折り紙つき。ハイテク兵器を私物化し、部下を騙して恋のさや当てをするというバカバカしさである。
FDRとタックは相棒で親友という間柄だ。クリス・パインが演じるFDRは典型的なチャラ男で、女あしらいには慣れている。乗っているクルマは「アウディR8スパイダー」だから、派手好みで金も持っている。対照的に、タックは引っ込み思案でバツイチ、今ひとつ面白みのない男である。演じているのは『ダークナイト・ライジング』でやたら強そうだったベイン役のトム・ハーディだ。彼は『ブロンソン』では英国一凶暴な囚人だった。どういう基準で役を選んでいるのか、よくわからない。
そして、2人が取り合う美女ローレンは、リース・ウィザースプーンだ。彼女も、『ウォーク・ザ・ライン』で達者な演技を見せていたのに、どうしちゃったんだろう。そもそも、CIAのイケメンエリートが争うほどのルックスなのかどうか、疑問ではある。
俳優陣はともかくとして、クルマは活躍する。60年代の「シボレー・カマロ」でドライブするシーンは楽しげだし、最後には「ジープ・ラングラー」のアクションもある。こたつでみかんを食べながら何も考えずに観てほしい。
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イランのアッパーミドルは「405」に乗る
最後に、ちょっと異色な作品を。イラン映画の『別離』だ。イランということで勝手に想像するエキゾチックな要素はまったくない。扱われているテーマは、国を超えた普遍的なものだ。ベルリン映画祭で最高賞の金熊賞、アカデミー賞で外国語映画賞を獲得している。
ナデルとシミンはテヘランで暮らす夫婦で、比較的裕福なアッパーミドルクラスに属している。一人娘のテルメーがいるが、2人は離婚の危機にある。シミンは娘を連れてアメリカに渡りたいのだが、ナデルはアルツハイマーの父を介護するためイランを離れたくない。ついに家庭裁判所に判断を仰ぐことになる。仕事中に父の介護を頼むためにナデルは家政婦を雇うが、ある事故で彼女は流産してしまう。こちらでも裁判を抱えることになるのだ。
というわけで、この映画は結婚や離婚、介護などの問題を扱っていて、どこの国の人でも共通して持っているテーマの作品なのだ。ごく普通の人々の生活が描かれている。シミンが普段乗っているクルマは、「プジョー405」である。知識がないためにふと違和感を持ってしまうのだが、街にはほかにも「206」などが走っていて、多くのプジョーが生息している。
「ホドロ」や「サイパ」といったイランの自動車会社のクルマも映っているらしいが、残念ながらどれが何やら全然わからない。たぶん、プジョー405に乗っているのは社会の上層なのだろうと推測するばかりである。普段知ることのない国のクルマ事情が垣間見えるのも、映画の楽しみのひとつではある。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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