第276回:【Movie】「トヨタ86」おじさんにも愛の目を!? 大矢アキオ 捨て身の路上調査員「デトロイト編」
2012.12.21 マッキナ あらモーダ!第276回:【Movie】「トヨタ86」おじさんにも愛の目を!?大矢アキオ 捨て身の路上調査員「デトロイト編」
拡大 |
拡大 |
モータウンでも5台に1台は日本ブランド!
毎年末「年越し」という大イベントをはさんでいるおかけで、ともすると忘れがちだが、あとひと月で北米国際自動車ショー、つまりデトロイトショーが始まる。一般公開は2013年1月19〜27日である。
実際に走っているクルマを観察することで、今日のリアルな自動車生態系を感じていただく「捨て身の路上調査員」シリーズ、今回はそのデトロイト編である。
動画では、デトロイト中心部のカナダ行きトンネル付近、デトロイトショーの会場であるコボ・センター周辺、郊外のモータウン・レコード博物館、そしてディアボーンのヘンリー・フォード博物館の駐車場でのクルマ風景をお届けする。
加えて、以下はデトロイトのゼネラル・モーターズ(GM)本社ビル近くで、ある平日の昼間15分間に1車線を通過したブランドを数えたものだ(いずれも2012年1月に実施。ただし台数と動画の内容とは異なります)。
フォード:23台
シボレー:14台
クライスラー:10台
ジープ:9台
GMC:8台
ダッジ、トヨタ:各7台
ポンティアック、レクサス、ホンダ:各6台
ビュイック、アキュラ:各4台
日産、ヒュンダイ:各2台
キャデラック、サターン、リンカーン、マーキュリー、インフィニティ、フォルクスワーゲン、BMW、ボルボ、キア:各1台
デトロイトといえば、いわずと知れた全米自動車産業の中心地であるものの、このとき通過した117台中26台、つまり5台に1台以上は日系ブランド車ということになる。
企業小説で有名な故・城山三郎の著作に、自動車産業を舞台にした『勇者は語らず』という作品がある。その中に、米国に赴任した日本の自動車メーカーの従業員と彼の小さな子どもが、休日に道路脇に腰掛け、自社製のクルマが通過するのを気長に待つ場面がある。小説はフィクションであるものの、日本車の浸透ぶりはその時代には考えられなかったほどである。もちろんそこまで到達するためには1980年代の日米貿易摩擦、そして現地雇用と部品調達をもたらすための米国現地生産開始という時代を経てきたことを忘れてはならない。
拡大 |
拡大 |
また、目の前にやってくるクルマを観察していると、1990年代にはまだあちこちで見かけた全長5メートル超のコラムシフト+ベンチシート(厳密にはセパレートシート)6人乗りセダンは、絶滅危惧種であることがわかる。各メーカーのカタログにある大サイズのモデルも、今や欧州車や日本車と同じフロアシフト+普通のシートばかりだ。
燃料高騰、経済状況、家族構成、趣向の変化、同じ専有面積でよりスペースユーティリティーに優れたミニバンへのシフトという米国の事実を無視して古いアメリカ車への郷愁にひたるのは、新車登録の7割近くが外国車のイタリアで、「日本の自動車誌に出てくるような最新イタリア車があふれていないと、つまらない」と言うのと同じくらいナンセンスな主張である。
ボクに向かって「もっとキモーノ(着物)とか自国のファッション文化をお前も実践せよ」という、イタリア人の困ったおじいさんと同じ、ともいえる。
だが1990年代の東京生活時代にコラムシフト+ベンチシートのビュイックを2台も乗り継いだ筆者としては、「あのとき所有していなければ、もし今東京に住んでいても簡単には乗れなかった」と、ほっと胸をなで下ろしたのも事実だ。
「今乗りたいクルマは、今ムリしてでも乗っておくべし。そうしないと消えてしまうかもしれない」――それがデトロイトの路上を観察して得た感想である。
そう考えると、ハイブリッドやEVが脚光を浴びる傍らで、クルマ本来の楽しさを売りにした「トヨタ86」を操っているおじさんにも自然と温かいまなざしを向けられるようになるのも、これまた事実だ。
(文と写真=大矢アキオ/Akio Lorenzo OYA)
|
大矢アキオ、捨て身の路上調査員「デトロイト編」(前編)
大矢アキオ、捨て身の路上調査員「デトロイト編」(後編)
(撮影と編集=大矢アキオ/Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第938回:さよなら「フォード・フォーカス」 27年の光と影 2025.11.27 「フォード・フォーカス」がついに生産終了! ベーシックカーのお手本ともいえる存在で、欧米のみならず世界中で親しまれたグローバルカーは、なぜ歴史の幕を下ろすこととなったのか。欧州在住の大矢アキオが、自動車を取り巻く潮流の変化を語る。
-
第937回:フィレンツェでいきなり中国ショー? 堂々6ブランドの販売店出現 2025.11.20 イタリア・フィレンツェに中国系自動車ブランドの巨大総合ショールームが出現! かの地で勢いを増す中国車の実情と、今日の地位を築くのに至った経緯、そして日本メーカーの生き残りのヒントを、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが語る。
-
第936回:イタリアらしさの復興なるか アルファ・ロメオとマセラティの挑戦 2025.11.13 アルファ・ロメオとマセラティが、オーダーメイドサービスやヘリテージ事業などで協業すると発表! 説明会で語られた新プロジェクトの狙いとは? 歴史ある2ブランドが意図する“イタリアらしさの復興”を、イタリア在住の大矢アキオが解説する。
-
第935回:晴れ舞台の片隅で……古典車ショー「アウトモト・デポカ」で見た絶版車愛 2025.11.6 イタリア屈指のヒストリックカーショー「アウトモト・デポカ」を、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが取材! イタリアの自動車史、モータースポーツ史を飾る出展車両の数々と、カークラブの運営を支えるメンバーの熱い情熱に触れた。
-
第934回:憲兵パトカー・コレクターの熱き思い 2025.10.30 他の警察組織とともにイタリアの治安を守るカラビニエリ(憲兵)。彼らの活動を支えているのがパトロールカーだ。イタリア在住の大矢アキオが、式典を彩る歴代のパトカーを通し、かの地における警察車両の歴史と、それを保管するコレクターの思いに触れた。
-
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。
